第13話 サマーダイブ!!③


 王城の中は慌ただしかった。



「リク君、待っていたよ」



 昨日とは違い、国王の書斎に通された俺は、ダンテと並んで国王と向かい合った。



「緊急事態だから、なにもおもてなしできなくて悪いね」


「そんなことより、俺に何の用です?」



 リーリーの誘拐の件だとはわかる。リーリーが姿を消してから、王城に身代金でも要求したのだろう。相手は計画的で、しかも複数だということは誰にでも想像がつく。


 しかし、俺をわざわざ呼び出す意味はわからない。



「リリを見失ったのかい?」



 国王はある程度情報を得ているようだ。さすが動きが速い。


 まるで責められてるみたいな言い草だが、まあ、最後に近くにいたのだから、それは仕方ないか。



「勘違いしているようだが、俺はリーリーとは何もない。常に見張っているわけでもないし、そんな義理はない」


「おいボウズ、どうした?」



 急に話し方を変えたからか、ダンテがギョッとした顔で俺と国王を見る。


 国王は、構わんよと言ってダンテを宥めてから言った。



「昨日リリが、君を連れてここにきた時から、二人で何か隠してるんじゃないかと思っていてね。これでも一国の王だ。人を見る目はあるよ」



 細められた紫の瞳が鋭く俺を射抜く。若いが確かに、その目には狡猾さが見て取れる。これが王様ってやつか。



「ああ、確かに俺には秘密がある。リーリーとはそれを打ち明けあった中ではある」



 やっべ、リーリーの首筋に噛み付いた事はバレないようにしよう。ガチで殺されるわ。



「もし君がリリを助け出してくれたら、私は君の力になれると思うよ。人ではない、君の本性について、の」



 ギクリと肩が震えた。


 そうか、だから昨日、あんなに俺を見つめていたのか。


 違和感の正体がわかった。だから俺はふてぶてしく笑ってやる。



「バレてたんだな。まあいいさ。それに、もともとリーリーを助けに行くつもりでいる」



 国王め。俺が吸血鬼だとわかっているから、情報をやるから娘を救えと言っているのか。



「それは良かった。実を言うと、犯人がこちらに動くなと要求してきていてね。ほかに頼れる人が、君しか思いつかなかったんだ」


「なるほどな。俺なら部外者だから、要求には当てはまらないってか」


「ああ、それに君は強いだろう?私の予想が正しければ、だけど」



 その通りだ。だから、今はこうして無駄話をしている時間が惜しい。



「国王、このボウズは確かに強い。が、ひとりで行かせてもよろしいのか?」



 ダンテの困惑はよくわかる。だって俺の見た目はそんなに強そうじゃないから。


 でも、少なくともここにいる誰よりも、リーリーを救える可能性は高いだろう。



「おっさん、任せろ!リーリーは俺が助けてやるよ」



 ニヤリと不敵に笑ってやる。


 ダンテが力強く頷いて、任せた!と言う。


 なんて事は無かった。



「いやしかし、確かに昨日は驚いたが、少し不安ではある」



 おい、俺のカッコつけ返せ。



「ブフッ、アッハッハ!」



 国王が噴き出した。



「ちくしょー、しまりねえなあもう」



 俺は悲しくなって、やけくそで書斎の窓を開け放ち、そこから飛び降りた。


 ダンテが頭上で何か叫んでいるが、聞こえないふりをしておく。


 城の三階の高さから跳んだ俺は、軽く城壁に着地。


 そして暗くなり始めた街を、リーリー救出のために走り出した。









 が、闇雲に探し回るにも限界がある。


 というわけで、俺は一度宿泊施設へと戻ることにした。


 ロビーへ入ると、待ち構えていたノアに捕まった。



「リクくん!どこに行ってたの!?今大変なんだよ?僕たちで捜しに行こうって事になっててさ」


「あーはいはい」


「もう、ちゃんと聞いてるの?」



 うるさいノアはとりあえず放っておく。


 ロビーにはクラスメイトがほぼ全員集まっていた。ノアから事情を聞いて、居ても立っても居られないようだ。みんなソワソワしている。


 その中から、俺は目的の人物を探し当てる。



「おいジルバート!」


「な、なんだよ?」



 金髪のいけ好かないクソガキが、俺の声にビクリと身を震わせた。



「ちょっと手伝って欲しいんだけど!!」


「うわ、あんまし寄るなよ!?」



 これは失礼。勢い込んで詰め寄ったら躓いたわ。


 ても、そんな全力で引かなくてもいいじゃん。



「お前さ、広範囲を索敵できるような魔法知らない?」


「なんで僕にきくんだよ!?」



 いや、だって今のところ俺の知ってる中で、一番魔法使えんのお前しかいないんだもん。



「俺、お前スゲェと思ってだよ。な、だからさぁ、ちょっと手伝ってくれよ、な?」


「うわあああ、肩を組むなぁ!!」



 おい!全力で嫌がってんじゃねえよ!泣くぞ!



「そうか、ジルの召喚魔法で、索敵に向いてるやつを使えばいいのか!」


「そういうこと。あるんだろ?そういうの」



 ノアの助け舟のお陰で、ジルバートは納得したように頷いた。



「確かに……ちょっと待ってよ」



 ジルバートはクリスタルを取り出し、叫ぶ。



「散会せよ、〈リリアック〉!!」



 すると、クリスタルが微妙な光を放ち、小さな影が大群となって現れた。



「うおお!?スゲェ!!」



 それは掌くらいの大きさの黒いコウモリだった。しかもロビーの天井を埋め尽くすほどの大群だ。



「こいつらに街中をさがさせる。僕たちが闇雲に動くよりいいかもしれない」


「さっすが!じゃ、頼んだ!なんかあったら俺に知らせてくれ」



 じゃ、と言って、俺はまた街へ向かうべく歩き出す。



「おい、僕の話聞いてた!?闇雲に捜しても仕方ないだろ!?」


「大丈夫だ。わかったら知らせてくれんだろ?」


「ま、まあ、そうだけど」


「んじゃ頼んだ!」



 さて、まだなんか言ってるけどほっとこ。


 ロビーを出て、また屋根の上にあがる。その後、コウモリの大群が闇に散っていくのが見えた。


 さて、高いとこからコウモリの動きでも探ろうかな。









 アメルンは漁業の盛んな港町だ。


 そのため、港には灯台があった。街の中に建つその灯台は、リーリー曰く観光名所でもあるらしい。街で一番高い建物だ。


 まあ、日本のそれと比べると、些か小さい気もするが。


 ともかく、この街で一番高い建物である灯台にの上で、俺は街を飛び回るコウモリの群れを追っていた。


 俺は視力が良い。夜目も効く。吸血鬼様々だ。


 振り返れば地平線の見える海が広がっている。


 昔はあまり余裕もなくて、こうして穏やかな海を見ることもなかった。星空の下、月明かりが照らす海は本当に綺麗だ。


 俺一体100年何してたんだろ。虚しいぜ。



『おい!何くつろいでんだよカス!つかどうやってのぼったんだよクズ?』



 感傷に浸る俺の耳元で、可愛げのないジルバートの声が聞こえた。一匹のコウモリがいる。



「ジルバート、お前ついにコウモリになってしまったんだな……」


『変な妄想するなよ!?これは通信魔法だ!』



 ああ、なんだ、つまんね。



「んで、リーリー見つかったのか?」


『そうだよ!幸いお前のすぐ下だ。港の端の倉庫にいる』



 お、ラッキー!



「ありがとな、ジルバート」


『お前のためじゃないよ!リーリーのためだ!!』


「はいはい」



 まったく、最近の若者は素直じゃないぜ。


 俺は灯台から、ジルバートのコウモリの案内を頼りに移動する。


 たどりついたのは、倉庫街の端、ひとつだけ明かりのついただだっ広い建物だ。


 そこへ忍び足で侵入すると、奥の扉から人の話し声が聞こえてきた。


 くぐもっていて内容はわからない。


 扉に近付く。


 本来ならここで、「む、扉の向こうは足音からおそらく……」みたいな展開がカッコいいのだろうけど、俺にそんな能力はないからな!


 強行突破一択です。



「オラアアアア!!リーリーを返せぇええええ!!」



 バアアアン、と扉を開け放てば、奥の壁際に手足を拘束され、猿轡をかまされたリーリーと目があった。



「んー!?んん!!んん、んん!!」



 あー!?バカ!!この、バカ!!とでも言ってるんだろうよこのクソガキ。



「なんだテメェ!?」


「なんでここが!?」



 俺の愛しのボロアパートくらいの広さの部屋に、犯人だろう男が5人。


 多くね?



「うらあああ!」



 ひとりがナイフを投げてくる。それを受け取って、とりあえずの俺の武器とする。



「くそ、なんなんだこいつ!?」



 5人の男たちには、ぶっちゃけ連携もクソもなかった。


 右手でナイフを構え、襲ってくる敵と対峙する。


 大振りな太刀筋、隙だらけのグーパンチ、ナイフが無人の空間を飛んでいく。



「ようやるわ」



 こんな程度の奴らが、国王の一人娘をさらうなんてもう、信じらんねえ。












 ものの3分で制圧完了。


 床に転がった男たち。完全にのびている。殺してはない。



「リーリー!大丈夫か?」



 猿轡を取ってやると、リーリーは涙目で俺を見た。



「あたしのタピーオがぁ!!」


「他に言うことねぇのかよ!?」



 まあいいや。リーリーが無事ならそれで。



「怪我は?」


「ないよ。というか、この人たちど素人ね。パパに脅迫状出して、安心してここで待機って、もうダメダメでしょ」



 確かに。外に見張りもいなかった。


 こんなんなら俺じゃなくても良かったんじゃね?



「でも、来てくれてありがと」



 真っ赤になってそっぽを向くリーリー。



「あ、ああ、うん」



 なんか照れ臭い。



『おい!終わったんならさっさと戻れよ!』



 いつのまにかジルバートのコウモリがそばにいて、ガミガミと怒鳴りつけてくる。



「さて、帰りますか」


「そうね。パパも心配してるだろうし」



 こうして、リーリー誘拐事件はあっけなく幕を閉じた。


 で、ここからが重要なところだ。


 リーリーを城へ届け、そのまま国王に呼ばれて書斎へ向かった俺は、またもダンテと二人国王と向き合っていた。



「リク君、本当に助かったよ。改めて礼を言う」



 しおらしく頭を下げる国王。


 ダンテの視線は、終始俺を警戒している。



「いや、大したことはない。誘拐犯どもはどうした?」


「城の牢獄に入れたよ。まったく、借金が動機など笑わせる。身から出た錆だろうに」


「そうか」



 犯人達はみな、多額の借金を抱えており、たまたま街で見かけた少女がリリエラだと気付いたため、衝動的に事を起こしたということらしい。



「ともかく、大事な一人娘が帰ってきたんだ。君には感謝しているよ」



 国王は疲れた顔で笑う。だが、俺は騙されない。その目には鋭い光が宿っている。



「君の正体は吸血鬼だろう?」


「なっ、おい、あまり知られたくないんだが」



 ダンテの目が俺を射抜く。まさか、この男の前で言うとは思わなかった。



「ハハハ、大丈夫だ。ダンテはなかなかに責任感の強い男だ。秘密は守るよ」



 国王にそう言われては、ダンテに口を挟む事は出来ないようだ。この場では無言を貫くと決めたのか、一切口を開こうとはしなかった。



「何企んでんだよ?」



 こうなると、もはや国王も敵だ。完全に後手に回ったことを悟った。



「まず、吸血鬼について私が知っている事を伝えようか」



 国王は余裕の笑みを浮かべ、書斎の椅子に背を預ける。



「吸血鬼は皆、一様に黒い髪と赤い瞳を持つ種族だ。身体能力が異常に高く、さらに異常なまでの治癒力を持っていた」



 それは、今の俺も変わらない。



「そして、特殊な力を使う」


「力?」


「自らの血液を媒介に、魔法と同じような超常の力を扱う事」



 やっぱり、俺の魔法は魔法じゃない。


 薄々気付いてはいた。とくにこの間のグレンデルを燃やした俺の力は、テオのクリスタルとは関係のない力だった。



「あと、吸血鬼たちは、こことは違う独自の文化を形成していた。その元となったのは、こことは別の世界の文化だったと言われている」



 別の世界。それはまさしく、俺の元いた世界だ。だからあの石碑には、日本語が書かれていた。


 辻褄があった。じゃあ、俺はなんでここにいる。ピエロ野郎が、あの人がこっちにいるのは何故だ?



「どうかな?君の疑問を解決する糸口は掴めたかい?」


「ああ。でも、なんで国王がそんなこと知ってるん

だ?」



 この世界に数多存在する吸血鬼についての伝説や伝記は、どれも大衆向けに編纂された物語だ。ノアなんかは信じているようだけど、吸血鬼である俺からすれば、変な話も多い。俺は目からビームとか無理だし。




「この街は、吸血鬼とその他の種族が初めて共存を始めた街。その国王には、代々口伝でのみ伝えられる事実があるんだよ。吸血鬼伝説もそのひとつ。僕は王位を継承した時に、前国王である父に、この話を聞いたんだ」



 そして、と、国王は続ける。



「吸血鬼は1000年の後に復活するのだそうだ。そしてその時には、この国を災厄が襲う。これが国王の伝言の全てだ」



 吸血鬼が姿を消した世界で、また吸血鬼が蘇り、その時には災厄が降りかかると言う。


 正直、スケールがデカすぎて俺にはよくわからない。


 なら俺がここにきた時点で、この国には災厄が降りかかることになるんじゃないか?


 いや、違う。もう一人、ここには吸血鬼がいる。


 俺を吸血鬼に変えることで命を救い、生きるすべを教えてくれたあの人が。



「君はリリエラが好きか?」



 突然そう問う国王の表情は、どこかおぞましいものを感じさせる。俺はこんな顔をする人間を、今までに見たことがなかった。



「大切な友達、だ」


「そうか。なら、この国を守るために君は命をかけてくれるかい?」


「……俺を脅しているのか」



 世界の権力者というものは、みなそれぞれに己の正義を持つ。


 第二次世界大戦のころの日本政府と同じだ。



「私は君の正体を知っている。リリエラはこの国の次期国王。君が真に力を示すのは、どんな時かな?」


「……このクズが」



 最初から、俺を利用することが目的だったのか。


 まるで謀られたかのような展開だ。


 ああ、そうか。謀ったのか。


 リーリーの誘拐。あまりに杜撰な犯人たち。部外者である俺に助けを求めた。



「あんたは、とんだ化け物のようだ」



 そう言うと、国王は紫の瞳を細めて、静かに微笑んだ。











 色々あっての研修三日目。


 本日は一日自由時間だ。


 クラスメイトたちは、待ってましたとばかりに、それぞれ気合を入れて選んだであろう水着姿となって、白い砂浜へと旅立っていく。


 リーリー誘拐事件は、昨日のうちにダンテがここへ来て、ウルシュラにだけ真実を話した。クラスメイトには俺が、リーリーを攫う物好きな奴もいたもんだなぁとか言って誤魔化しておいた。


 これで体面的には一件落着。


 俺は逆に、モヤモヤしたものを抱えてしまったが。



「あんたさぁ、どうしたのよ?」



 そんなクラスメイトを、自室のベランダから眺める俺。同室のノアはすでに、砂浜で砂のお城を作っている。



「一番楽しみにしてたじゃん。いい天気だし、海入ろうよ」



 確かに、ここに来た当初は、日中の堂々とした海水浴に憧れていた。


 だけど、今はもうそんな気分になれない。



「リーリーはさ、この国の国王になるのか?」



 ふと溢れた疑問は、特に理由もないけど。


 リーリーは俺の隣に来て、答えた。



「そりゃ、あたししかいないから、そうなると思うよ。でも、嫌々じゃない。あたしはこの街とか、クリスティエラとか、ギルドも学園も好き。だから、自分の役目はわかってるつもり」


「ふーん」


「ちょ、もうちょっとなんか言うことないの?」



 内心ではリーリーすげぇと思ってるさ。


 と、突然、俺の頬に柔らかいものが押し付けられた。



「うひゃあ!?」


「ちょっと、変な声出さないでよ!?」



 顔を真っ赤にしたリーリーが、慌ててそっぽを向く。


 それから、ポツリと溢した。


「ありがとね、助けに来てくれて。ほんとに嬉しかった」


「リーリー……」



 リーリールート解放か?


 リーリーに視線を向けると、やっぱりまだ真っ赤な顔でそっぽを向く。ツンデレめ。


 柔らかな茶色い長い髪は、太陽を反射して輝き、大きな丸い紫の瞳は可愛らしい。


 と、ふと、国王の顔が脳裏をチラついた。


 ……リーリールート終了のお知らせだ。



「ちょっと、何よ、ジロジロ見ないでよ」


「無いわ……アタッ!?」



 叩かられた!!


 クソゥ、リーリーのバックがあんな腹黒な国王じゃなければなぁ。


 昨日、国王は俺に言った。


 1000年経った今、俺という存在がこの世界に現れた。


 そして最近、魔物たちの動きが活発であること。


 その後ろでチラつく、ピエロ面の男の影。


 協力という名の縛りだ。俺が災厄となるか、はたまた別の何かが災厄となるかはわからないから、俺を監視するという意味でも、国軍に協力する事を要求してきた。


 自分の娘を使って、俺を騙して、配下のダンテを保険にして。


 ここから離れるという手もあった。


 だけど、そうするには、リーリーの存在が大き過ぎて。沢山迷惑をかけた。だから、その分は返したいから。


 俺の選択肢はどちらにしろ一つしかなかった。



「いつまで考え事してんのよ?海だよ?楽しもうよ!」


「そうだな」



 リーリーは俺の手を引いて、白い砂浜目指して駆け出す。


 前を行くリーリーの、白いビキニ姿に気付いた。白い肌が余計に際立っていて。


……なんかエロい。


「オラァ!何考えてんのよ聞こえてんのよこの変態!!」


「オウフッ!!」



 リーリーが振り返り様に後ろ回し蹴りを放ち、それは俺の腹部にクリーンヒットした。


 あれ、俺口に出してた?


 激痛にしゃがみこむ俺を置いて、リーリーはさっさと行ってしまった。










 四日目の朝。帰るためにロビーに集まった俺をダンテが待ち構えていた。



「リク、すまない、少しいいか?」



 俺はクラスメイトから離れ、遠くにいるウルシュラ女王に睨まれなが、ダンテのもとへ向かう。



「正直君が吸血鬼だなどとは、とても信じられんのだが」


「バカにしに来たの?」



 ダンテは厳つい肩をすくめる。



「すまんな。そんなつもりはなかった。と、そんな事を言いに来たわけではないんだ」



 改まったように俺を見るダンテが、ふと視線を逸らした先。そこには、大きな荷物を抱えたリーリーがいた。



「お嬢さんの立場上、直接声をかけるわけにはいかないが」


「なんだよ?俺も早く行かないと、ウルシュラ女王にキレられるんだけど」


「お嬢さんを、どうか守ってやって欲しい」



 ああ、そうか。わざわざ何かと思えば、だ。



「国王の言葉に、君は失望しただろう。だから、この国の事よりもまず、お嬢さんの事を考えて欲しい。頼む」



 豪快な男が、静かに頭を下げる。



「わかってるさ。俺だってそのつもりだ。まあ、リーリーを守れば、必然的にこの国を守る事になるだろうが」



 ダンテは硬い表情を、少しだけ緩めた。



「だが勘違いするな!俺はな、お前らが考えてるほど強くはないんだよ!国?そんなデケェもんどうやって守るってんだ国王のバーカ!!」



 と、ダンテは急に肩を震わせ出す。ガッハハハ!と豪快に笑った。



「それもそうだな!まあ、我ら国王軍もいるんだ!あまり気にせず、お嬢さんのそばにいてやってくれ」


「任せろ、おっさん!」



 ひと通り笑うと、ダンテは帰っていった。


 これで、3泊4日の研修旅行は無事に終わった。

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