第12話 サマーダイブ!!②


 俺はリーリーと王都を歩いていた。時刻は午後4時を過ぎたあたり。


 王都アメルンは、クリスティエラとは違い、活気の中にも品がある。クリスティエラは商売の街だから、いつも誰かが叫んでいたり、ギルド間のいざこざがあって騒がしい。


 アメルン王国の首都というだけあり、整然と並ぶ建物は壮観だ。


 リーリーの足取りはいつになく重かった。



「あんたさ、もし、あたしが今自分の秘密を話したら、あんたもあのピエロ面のこと話してくれる?」



 唐突な問いに、俺はちょっと身構えた。


 ピエロ面の事を話すのは構わない。でも、俺の過去に触れないで欲しい。


 それが本音ではあるが、リーリーの様子がどうも変だ。



「言い方間違えた。あたし今からあんたに秘密を打ち明けるから、あんたも答えなさい」


「自分勝手だ」


「知ってる」



 沈黙。


 まあでも、リーリーには沢山世話になっている。この間は噛み付いてしまった。


 と、思い出して顔が火照る。自爆だ。



「俺はさ、今から大体100年くらい前に吸血鬼になったんだよな」


「ちょっと!あたしが先に言おうと思ってたのに!」


「まあ、どうせ知るのならどちらが先とかどうでもいいさ」



 俺は覚悟を決めた。


 海沿いの遊歩道。歩いているのは俺たちだけ。ロケーションは悪くない。たとえ空気が悪くなっても、この景色がなんとかしてくれる。


 納得していない顔で、それでもリーリーは静かになった。



「俺さ、恥ずかしい話だけど、人だった頃は生きるために何でもした。それこそ、ちょっと口には出せないような事もな」



 ニヒヒと笑う自分が虚しい。



「それで、結核にかかって。あの頃は不治の病だったから、俺は14歳にして死を覚悟してた」



 自然と立ち止まっていた俺たちは、二人して海を眺める。リーリーの横顔が硬い。


 ごめんな。こんな嫌な話して。



「そんな時にさ、その人に拾われたんだ。変な人だったよ。俺なんかさ、もうほっときゃその内死ぬような、小汚いガキでさ。こんな俺を買うんだから、こいつも絶対いい大人じゃねえよとか思ってた」



 俺の病気移して道連れにしてやれ、とか、それくらいやさぐれていた。



「でもその人は俺を、息子ができたみたいって側に置いてた。その時には、俺はもう立てないくらい弱ってたから、まあ、たまに逃げ出したりはしたけど。いつも絶対に迎えに来てくれたんだ」



 正直ウザかった。もう死ぬ俺なんかに構うなってな。



「で、俺、死ぬんだけど。その直前に、その人は選択肢を出したんだ。今死ぬか、もう少し先の未来を見てから死ぬか」



 むちゃくちゃ迷った。普通は生きる方を選ぶと思うだろ?


 だけど、違うんだ。人は、死をゆっくり感じていると、どうしてか最期には受け入れられるんだ。


 お年寄りが穏やかに死を迎えるのは、死を迎えるまでに、人は色んな葛藤を繰り返して、それで結局は受け入れられるから。


 よくできた機能のひとつ。人体の神秘だ。



「ま、結局俺は生きる方を選んだ。んならどうよ?吸血鬼になってた。んでまた、先の未来って長えよ!なんて、今なら笑えるけど」



 リーリーが泣いてる。本当に、ごめん。



「そっからはすっかり元気だ。ま、吸血鬼になってからの犯罪行為は、人じゃないから勘弁してくれよな、アハハ」


「笑わないで……」



 俺の為になんか泣くなよ。どうしていいかわかんねーよ。



「その、あんたを吸血鬼に変えた人が、」


「そ!多分ピエロ野郎だ。なんでこっちにいるのかはわかんねぇけどな」



 あの人はある日突然、俺を置いて消えてしまった。


 だからあの人がここで、何をしようとしているかなんてわからん。


 ただ、もう一度会えたら、お礼が言いたかった。



「ありがと」


「ん?」


「ありがとって言ってんの!」



 バシッと俺の肩を殴るリーリーの手は震えていた。


「あー、せっかく海に来たのに、暗い話でごめん」


「いいよ。てか、あんたどんだけ海好きなのよ」


「そりゃ憧れんじゃん?海水浴とか日中しかできないんだから」



 ギラギラの太陽光の下のビキニ女子!


 どんだけ夢見たことか!!



「ふーん、まあ、いいわ。それで、あたしの秘密話してもいい?」



 そうだ、本題はこっちだった。



「なんだよ?俺よりヤバい話か?」


「それはもう勝てないわ。だけど、黙って聞いて欲しいんだけど」



 なんだよ、勿体ぶっちゃって。



「おい、あんま引きずってると驚きが薄れるぜ?」


「わかったからちょっと耳貸して」



 で、リーリーは俺の耳に顔を近づけて、言った。



「ぶふぁああああ!?それマ!?ガチで!?」



 叫び声を上げて驚く俺に、リーリーは溜息をついた。



「あんたなんかに言わなきゃ良かった」









 その後のこと。


 リーリーに連れられてやってきたのは、アメルン城。


 王都アメルンは、海を背に王城がたち、その周りを扇情に広がる街だ。


 その王城であるアメルン城は、俺の前いた世界なら絶対世界遺産に登録されるだろう白亜の宮殿だった。


 宮殿の門の前。リーリーは俺に、



「いい?絶対に余計なことは言わないでよ?」



 と、念を押してきたので、俺はコクコクと頷いておいた。


 門兵が俺たちに声を掛けてきた。



「すまないな、学生の見学時間はおわったんだよ。また明日来てくれるか?」



 門兵は若い男だ。心底申し訳なさそうに言うので、なんか可哀想になった。



「わかっています。見学に来たのではありません。父に会いに来たのです」


「?」



 門兵の頭にハテナがうかんでいるのが、なんとなくわかった。



「私はリリエラ・アメルン。現国王の娘で第一王女です」



 門兵の目が点になった。



「しょ、少々お待ちください」



 慌てた様子で、門の隣にある小さな扉から中へ入って行く門兵。


 しばらくすると、大きな城門が開いた。



「リーリーすげえ」


「やめて」



 それから、あれよあれよと言う間にたどり着いたのは、豪華な装飾で飾られた客間だ。



「ここでしばらくお待ちください」



 リアルメイドがお茶とお菓子を置いて退室する。



「この紅茶旨っ!!つか、このお菓子なに?スッゲーうまい!!」


「あんた何よ?遊びに来たの?」


「え、違うの?」



 リーリーは盛大に溜息を吐いた。



「違うわよ!ここには、国内外の希少な本があるのよ。吸血鬼について、もっとわかることがあるんじゃないかなって思ったからここに来たの!!」


「マジか!?リーリーすげえ」


「バカにしてんの?」



 いや、バカにするってかあんまし話きいてねぇ。このお菓子が美味すぎて。



「ともかく、父に図書室の鍵を借りたいのよ。だからあんた、くれぐれも余計なこと言わないでよね」


「了解でーす」



 と、そこで、客間の扉をノックする音がした。リーリーがどうぞと言うと、扉がゆっくり開いて、背の高い細身の男が入ってきた。



「リリ!元気だったか?会いたかったぞ!!」



 その人はリーリーと同じような茶色い髪で、リーリーと同じような紫の瞳を持っていた。


 これがこの国の国王か。白を基調とした衣服には金の刺繍があり、この白亜の宮殿と揃えられた衣装であることがわかる。


 国王と思うと、なんだか勝手に威厳を感じる。ってのは、一瞬だった。



「パパ、やめてよ!?一応国王でしょ?」


「国王である前に父親である」


「ウザい、そういうところがウザいから」 



 さっき感じた威厳はどこへやら、リーリーを見るなりペカーっと眩しい笑顔を浮かべ、ひしっと娘を抱きしめた。


 ただの親バカな大人にしか見えない。



「それでリリ。学園に通うと言って出て行って、男連れで戻ってくるなんてどういう事だい?」



 リーリーの隣に座った国王は、向かいの俺に睨めつけるような視線を向けてきた。



「申し遅れました。わたくしはクリスティエラ第一魔法学園で、お嬢様と同じクラスであります、リク・カイドウと申します」



 俺は待ってましたとばかりに立ち上がり、何回かシミュレーションした、王子様キャラ風に挨拶をした。丁寧に片膝を床について、片手を胸に当てるやつ。


 一回やってみたかったんだよなぁ、こういうの!!



「リリ、パパどうしたらいい?娘はやらーん!!とかやるべき?」


「絶対やめて。ってか、あたしべつにこいつと付き合ってるわけじゃないからね」


「そうなの?」



 あれ?なんでそんな痛い子見る顔で俺を見るの?



「じゃあ何かな?この子はお菓子を食べにきただけかい?」



 俺の顔を見て嘲笑う国王。ハッとして口元を拭うと、めちゃくちゃ食べカスが付いていた。


 ただのめっちゃ恥ずかしいヤツじゃん、俺。







 まあともかく、リーリーはギルド『隻眼の猫』に所属する、クリスティエラ第一魔法学園の生徒で、そこの女子寮に住んでいて、俺と同じで金が無いから質素な食事しか出来ない、クラスの中ではクールに振る舞う、あまり友達のいない女子、というだけではなかった。


 このアメルン王国を治める王の一人娘で、次期王位継承権を持つ王女様だったのだ!!


 学園で正体がバレない様にリーリーと名乗ってはいるが、本名はリリエラと言う。


 急展開過ぎて、驚きももはや何処かへ飛んでしまった……



「さて、リリエラ。ここへ来たのは何故かな?リリが今研修でこっちに来ているのは知っていたけどね。むしろパパから会いに行くのめっちゃ我慢したんだからね」



 国王の親バカに、リーリーは溜息を吐きながらも答える。



「パパの図書室の本が見たいの」


「そうかそうか、リリは小さい頃から本が好きだもんね!とくに吸血鬼の伝説や伝記が大好きで、いつも熱心に読んでいたよね」


「や、やめてよパパ!そんな事言わなくていいじゃない!?」



 リーリーがちらりと俺を見る。多分俺はめちゃくちゃニヤニヤした顔をしていた。


 リーリーは真っ赤になって目を逸らした。なんか可愛い。



「えー、ほらあれ、吸血鬼の王子様が、エルフの庶民の子と恋に落ちる話なんかお気に入りだったでしょ?とくにあの、目からビームのあたりとか」



 お前もか!?お前も目からビームが好みなのか!?



「も、もう!いい加減にしてよパパ!!」



 アッハッハと笑う国王。リーリーは更に赤くなっている。



「でもなんで急にそんなこと頼むのかな?」


「そ、それは、か、彼がその、学園の課題で吸血鬼のレポートを書くことになってね」



 俺が、俺のレポートを書くのか?マジか。



「そうか。まあ、いいよ?好きなの持って行きなよ」



 と言って、国王はポケットから鍵を取り出し、リーリーに渡した。


 えらくあっさりした態度に、俺は少し違和感を感じたが、まあ、気にしないようにしようか。



「ありがと、パパ。じゃあ本借りて帰るね。夕食までに研修施設に戻らないとだから」


「わかったよ。パパはもう一仕事するよ。気を付けて帰るんだよ?」



 それに頷いて、リーリーは俺を連れて客間を出た。


 最後に俺の背を睨む国王の視線をヒシヒシと感じたが、それはリーリーには黙っておこう。


 国王の図書館は、どちらかと言えば書斎といった感じの、そこまで広くはない部屋で、両側の壁が一面本で埋め尽くされていた。


 その中から吸血鬼について書かれてあるものをリーリーがいくつか選び、俺はまだあまり字がよめないので、適当にそれっぽいやつを選んだ。


 中でも黒い革の表紙に赤字が浮かぶやつなんかは、厨二心をくすぐられた。


 借りた鍵をメイド預けて、俺たちは城を後にした。








 夕食はブュッフェ形式で、施設内のレストランで摂ることになっていた。



「いやああああほっおおおい!!」


「ど、どうしたの?」



 ノアと取り皿を持って料理を選びながら、俺は感激のあまり叫び声を上げる。


 だってビュッフェって初めてだったんだもん。



「これ、なに?」



 気になる料理を、片っ端からノアに聞く。



「えっとね、サザエの、」


「パスッ!俺貝類はダメ。こっちのは?」


「四種のキノコ、」


「パスッ!キノコ類もダメ」


「ねぇ何なら食べれるのさ?」



 そりゃもちろん、肉か、肉か、肉だろ。



「ここさ、漁業の町でもあるんだよ?肉って、リクくんはこの町の人を馬鹿にしてるの?ほら見て?シェフがめっちゃ君のこと睨んでるよ?いい歳して好き嫌いなんて恥ずかしくないの?」



 チビのクセに相変わらず毒舌なヤツだ。



「ノアの言う通りよ。好き嫌いばっかりしてるから身長伸びないのよ。あ、そっか、もう遅いか」



 背後に現れたリーリーの追加攻撃!


「グハッ、精神攻撃が激しすぎるぜ……」


「いいから邪魔よ。あんたなんかあっちで野菜でも選びなよ」


「フッ、俺は野菜も嫌いなんです」


「おいコラいい加減にしろ!!」



 そんなこんなで楽しい夕食が終わり、続いてお風呂の時間だ。


 しかし大浴場か。



「むぅ。なんで人間は大勢で風呂に入るんだ?」


「楽しいからじゃない?」



 脱衣場でさっさと服を脱ぐノア。俺はなかなか脱げないでいた。



「でもさ、誰かが水虫だったらどうする?つか、みんなちゃんと洗ってから入ってる?」


「もー、うるさいよリクくん!」



 前も言ったけど、俺はへんな所で潔癖なのだ!だからこういう大浴場はできれば入りたくない。



「クソ、こうなったらヤケだ。だれも俺を止めるなよ!」



 俺は目にも留まらぬ速さで服を脱いで、ダッシュで浴室へ。秒で全身を洗い、滴る水を撒き散らしながら脱衣所へ戻る。



「うわっ、リクくん!?水浸しだよ!」


「うるさい!俺はもう部屋に戻る!」



 呆気にとられるクラスメイトをかき分けて、俺はまたもダッシュで廊下を駆け抜けた。










 翌朝は漁業の盛んな町らしく、アメルン一の市場で水産の話を聞いて、午後からは城に勤める魔法研究者が講義にやってきた。


 これは大変つまらない話だったので、クラスメイトの半数は机に突っ伏し、起きているものは、この後の自由時間についてかしましく話し合っていた。


 そんな俺も、午後からはノアとリーリーと街へ繰り出す予定だ。


 講義後、正面玄関で落ち合った俺たちは、早速とばかりに観光客に人気の店がある区画へ歩き出した。


「ここはアメルン王国で一番に街が出来た所なの。だから、他の街よりも色々な種族が住んでる」


 さすがこの街の王女様だ。色々詳しいらしく、所々で立ち止まっては、その場所の説明をしてくれた。



「この石碑は、吸血鬼と人間の共存の証として建てられたと言われてるわ。ここにも昔、吸血鬼が住んでいたの」


「へぇ」



 ノアがキラキラした瞳で、リーリーの話に耳を傾けている。


 俺はというと、その石碑に顎が外れそうなほど驚いた。



「残念だけど、この石碑書かれている文字は吸血鬼以外誰も読めないの。ま、だからってあんたが読めるとは思ってないけどね」



 バカにしたようにリーリーは言う。


 俺は曖昧に頷いておく。



「さあて、次はね、今流行りの最新のタピーオの店に行くわよ!」


「えぇ、僕アレあんまり好きじゃないよ」


「文句言わなーい!」



 ノアとリーリーが楽しそうに歩き出す。


 俺はもう一度石碑に目を向ける。


 そこには、ひょろひょろのよくわからない繋げ文字が書かれている。これは平仮名か?


 だけど今の字じゃない。1000年前に建てられた石碑だ。両方の世界が同じ時間感覚ならば、1000年前の日本は平安時代だ。



「どういうこと…?」



 なぜこの世界に転生したのかも謎だが、この石碑の意味も謎だ。


 釈然としない思いを抱えたままだが、また後で調べればいい。


 そう決めて、俺はリーリー達の後を追った。









「ね、リクくん!こっち来て!」



 散々広場を探し回り、途中でノアに呼ばれて追いかければ、広場にいくつもある細い路地のひとつに、タピーオと思われる黒いブツブツが大量に散らばっていた。



「なぜこんなところにカエルの卵が!?」


「ねぇそれわかってて言ってるでしょ」



 さすがノア、鋭い!!



「これ、絶対リーリーのだよ」


「うっそだぁ」



 あのタピーオ教がこんなところにぶちまけるわけないだろ。


 もし誰かにここに連れ込まれたとしても、あの暴力女が誘拐とかされるわけねぇよ。そういうのは超美少女のお姫様とかのイベントだろーが。


 ……可愛い、は、とりあえず置いておいて。



「……そういやあいつお姫様だったわ」



 キョトンとするノア。こいつはリーリーの正体を知らないから、キョトンとするのは仕方がない。


 が、これ、結構ヤバイんじゃね?



「ノア、今すぐ戻るぞ!」


「どうしたの?」


「リーリーは多分、ガチで誘拐された!」


「なんでリーリーが?」


「それは言えん!世間には物好きな奴がいるとだけ言っとくわ!」



 急がないとヤバイ事になる。主に国王が。


 ノアと二人走り出す。が、人間に合わせている時間が勿体無い。



「悪りぃ、先に戻るわ」



 それだけ言うと、途中で俺はノアを置いて走り出した。


 広場を出た辺りで、その辺の木箱やらを踏み台にして屋根へ跳ぶ。そのほうが人を避けなくて済むから速く走れる。


 海沿いのリゾート地は、屋根の上からだとすぐに分かる。


 建物の屋根と屋根を跳びながら走り抜け、ものの5分程で研修施設へ辿り着いた。


 正面から中に入ると、ちょうどウルシュラ女王に遭遇した。ウルシュラは夕食の会場であるホールへ向かう途中の様だった。



「先生!ヤバイ事になった!」


「敬語!」


「ヤバイ事になりましたっ、てそんな場合じゃねぇ!リーリーが誘拐された可能性がある!」



 ウルシュラは冷めた顔だが、それが少し険しくなったのがわかった。



「なんでお前にそんなことわかる?」


「広場で逸れて、捜したんだが見つからなかった」


「どこか寄り道しているだけかもしれないだろ?」



 このアマ!急いでんのにどんだけ俺を疑うんだよ!?



「いや、誘拐の可能性が高い」


「なぜだ?」


「それは……」



 クソ、リーリーの正体を話すのはダメだ。俺だって隠していることを、人に話されるのは嫌だ。あいつは俺を信じてくれたから、秘密を教えてくれたんだ。多分。自身はない。



「おおい、ちょうどいいところに!国王がお前をお呼びだ!」



 膠着状態のところに、思わぬ助っ人が現れた。


 王国軍師団長、ダンテ・クロードだ。



「おっさん!って、国王がなんで俺を?」


「お前はお嬢さんの男なんだろう?そのお嬢さんが誘拐されたらしい」



 お、男?なんで?


 いや、それは今はいいや。



「わかった、今すぐ行く!」



 反転して出口へ向かう俺に、ウルシュラが水を差す。



「待て、勝手なことは許さん!」


「ウルシュラ殿、少し落ち着くんだ。これは国王直々の呼び出しだ。後でしっかり説明をさせて頂くが、今は堪えてくれ」



 おっさんは優しい笑みを浮かべいるが、その声には有無を言わさない強さがあった。さすが師団長だ、カッコいい。



「では、このボウズを借りていく」



 俺はひとつ頷いて、おっさんと国王のいる城へ向かった。

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