第8話 ギルド対抗戦、本場!!②
甘い匂いが鼻を刺激して、俺の意識は少しずつ覚醒する。
この匂いは知ってる。
俺たち吸血鬼にとって生きるために必要なそれだ。
そしてもう一つ、これはよく知る人の血の匂い。この世界に来てから、この人の血を何度か貰った。
俺のために自分でナイフを使って集めてくれて、そんな事までしてくれるのに、普段は全く可愛げのないリーリーだ。
「ちょっと、いつまで寝てんの?もうそろそろ陽が暮れちゃうわ」
またぶたれる、と思って勢いよく身体を起こす。
「うわっ、なによ急に。ビックリしたじゃない」
至近距離にリーリーの小さな顔が。みるみる真っ赤になっていく様が面白くて。
「なに照れてんの?」
「うるさい!もう、元気になったんなら行くわよ!!」
おう、と言って立ち上がり、俺は気付いた。リーリーの左腕には真新しい布がまかれていて、俺の怪我は完治とまではいかないが、マシになっている。
さっき嗅いだ甘い匂いは確かにリーリーのものだった。
ま、そういう事だ。
まったく素直じゃないが、いいヤツだぜ。
「僕たちにも説明してくれないかな」
四人揃って歩き出すと、待ってましたと、ばかりにワクワクした顔のテオが口を開いた。
「君さ、ほんとなんで死なないの?さっきの怪我はホントに死んだと思ったよ。棍棒が当たった時すごい音がしたし」
今まで黙ってきたが、この先輩にはもう説明するしかないだろ。エリノアも巻き込む形となってしまうが、あのピエロ野郎の事もある。
リーリーを見ると、仕方ないよ、と首をすがめた。
「俺、実は吸血鬼なんだ」
もとの世界では、血を吸う怪物。決して陽の光の下には出られない日陰者の化け物だった。だが、この世界では人とそれ以外の種族の争いを止め、魔物を撃退した英雄たちとして語られる、伝説の生き物だ。
「吸血鬼、ね。あらかた予想はしていたが……本当に存在するとはね」
エリノアは驚きで言葉も出ないようだった。
1000年前よりこっち、一切その姿を見せることは無くなったと言われていた。
その伝説の存在が、俺!!
「こんな弱そうなのに……」
「おいコラ、テオ先輩!!」
「冗談だよ」
割れた丸メガネの奥の目がニヤついている。
「さっきの、男のことだけど……」
難しい顔のリーリーが切り出す。その話はあまりしたくはないが、そうもいかないだろう。
「あんたの事知ってたっぽいよね。それもなんだか、とても……」
気を使ってくれたのか、リーリーはそこで黙る。
「親しげだって言いたいんだろ。残念だけどわからん」
「そっか」
皆んなには言えないが、気になるのは男がなぜ、俺の過去まで知っているのか、だ。
この世界に転生する前のことを知られている。
ならばやっぱり、前の世界での俺の知り合いなのだろう。
しかし過去をひっくり返したところで、100年分の記憶など、もう殆ど残っていないものもあるわけだ。
今を生きる上で人は忘れる事を必要とする。俺だってそうだ。もはや昨日の晩飯すら思い出せん。
「さっきの事、やっぱり先生に話した方がいいよね?」
「いや、黙っておく方がいいと思うよ。場合によっては、明日のトーナメントがなくなってしまうだろうし」
テオの提案は危険なものだ。本来なら直ぐにでも運営に伝えるべきだろう。
でも、だ。
俺の事めっちゃ好きそうなピエロ野郎が現れて、俺の過去ベラベラしゃべって帰って行きました。などと話してみろ!?
間違いなく俺は明日トーナメント戦に出られないだろう!!
その上間違ってオーガの首まで燃やしてしまったから、得点もなにもないわけで。
明日のトーナメント戦は20人が足並みを揃えて参加することになる。
正直四人全員出場が決まっているのだから、このまま参加する方が勝てそうだ。
「あんた今物凄く下衆の顔してるけど見なかったことにしとくわね」
「ああ、そうしてくれ」
はあ、と溜息で答えるリーリーだった。
幸いにも、あのピエロ野郎とのことは、どのモニターにも映っていなかったようだ。
俺たちは疲れた足で闘技場に戻ると、進行役の先生に、オーガを間違って燃やしてしまった事を伝えた。
すると先生は、ああああと気の抜けた息を吐き、最後に「また『隻眼の猫』か。ほんとお前ら毎年めちゃくちゃだよな」と零した。
魔物が倒された事を、魔法を使って各参加者に知らせ、それで今日の催しは全て終了。
会場内の観客達から大ブーイングが起き、肩身の狭い思いでもって俺たちはそれぞれの寮へと戻った。
それでも競技中、森の中では、各グループが潰しあったらしく、それなりに盛り上がってはいたようだ。
ノアなんかさっきから興奮気味にその話を捲し立てていた。
自分のベッドにうつ伏せになり、枕で耳まで覆ってアピールしているのに、空気を読まないノアはずっと話しかけてくるのだ。
「ジルくんは嫌味な俺様気取りでムカつくけど、やっぱりめちゃくちゃ強くてね、先輩ばっかりのギルドに挑んでいって勝っちゃったんだ」
「ああそう。それはもう、楽しんだみたいで何より」
「それにね、うちのクラスって結構有望株が揃っててね、アンネとライナスもトーナメント戦に残ったんだよ」
誰だよそれ。
「明日当たったら、やっぱり緊張する?クラスメイトだし、手加減してあげるの?」
「この俺が手加減なんかするか!!」
「えー、でも伝説の吸血鬼は、みんなとっても優しいんだよ。リクくんって、なんか吸血鬼っぽくないね」
このチビはなにを勝手なことをッ!!俺だって吸血鬼らしい吸血鬼を模索中なんです!!
「もう、わかったから寝かせてくれよ……」
思いもよらぬ大怪我のせいでしんどい。もう寝たい。なんで俺こんなうるさいやつと同じ部屋なんだよ……
「仕方ないなあ。明日もあるし、寝かせてあげるよ」
「ほんと、そうして、お願いだから」
それからは静かなもので、俺はそのまま夢の世界へと旅立った。
翌朝、いよいよトーナメント戦が開催される。
闘技場に集まった出場者のうち、四人とものこっているのは、『隻眼の猫』、『銀の流星』のみだった。全部で六つのギルドが残った。
トーナメント戦優勝者には50ポイント。準優勝で30ポイント、3位は20ポイント。ちなみに魔物の首があれば40ポイント加点で、トーナメントには出れなくとも、総合では3位以内に入れるはずだった。
ま、6チームでそのうちの四人が同じギルドの仲間なのだ。優勝も目指せるだろう。
「あんた今軽く考えてるんでしょうけど、トーナメント戦に出る先輩は、みんな去年も出てたのよ。それに一年生にはジルたちもいる」
「だからなんだ?所詮は学生のままごとみたいなもんだろ」
昨日の障害物競走を見た限り、そんなに凄い奴は居なかった。
「昨日は実力を隠してたに決まってんじゃない。トーナメント戦にさえ入ればいいんだから、自信のある人はただ走る事に集中していたのよ!」
そう言われればそうか。しかしどれも俺の敵じゃないだろうな。
なんせ俺は100年を生きてきた吸血鬼だから。
しかしジルのやつ、俺がリーリーを助けている間にさっさとゴールしてやがったんだな……
トーナメント戦で当たったらどうやってイジメてやろうか。
「あと、あんたはできるだけ目立たないようにね。只でさえ、どんどん正体がバレてってんのに」
「そうだな、それはマズイ」
とまあ、こんな感じで、ついにトーナメント戦が始まった。
張り出されたトーナメント表を見ると、俺とリーリーは3位決定戦まで当たらない。
それから俺は第2試合目、リーリーは第4試合目だ。第6試合目にはテオが、第10試合目にエリノアの名前がある。
競争の順位によって試合が振られたため、最後から四番以内のものは1試合多くなる。
『ただ今より、本日のメインイベント、トーナメント戦を開始します!』
進行役の先生が張り上げた声に反応して、会場はワーワーギャーギャーと大歓声に包まれる。
『ルールは例年通り、戦闘不能となった場合、または、致死量の魔力を使用した場合に負けとなります!』
闘技場の真ん中に、第1試合の二人が立つ。
『試合開始!!』
そうして運命のトーナメント戦が開始となった。
第1試合の二人のうち、ひとりは『銀の流星』。ジルの取り巻きのひとり、バリーだ。こいつも俺を抜かして行きやがったらしい。
バリーは同じ歳のクラスメイトの中ではガタイが良く、武骨な印象のとおり武術を得意としている。
魔法攻撃をバンバン撃つタイプではなく、小出しにして隙を作り、長剣で斬りかかるスタイル。
試合は終始バリー優勢で進んだ。相手は一つ上の男の先輩だったが、見ているのが可哀相な感じで、攻勢に出れずあっさりと負けてしまった。
つまらない試合だった。こうも相手が弱いと、バリーについても語ることはもう無い。
「よし、じゃ、俺の出番だな!」
意気揚々、まさにそんな気分でスキップでもしてやろうかという俺の肩を、リーリーがガシッと掴んだ。
「なんだよ!?邪魔すんなって」
「あんたがボロを出さないように、はいこれ」
渡されたのは、リーリーのと同じような長剣、二本。
「一本でよくね?」
「ダメ!片腕が自由だったら、またあのむちゃくちゃな威力の魔法使うでしょ!?」
「え、ダメなの?」
派手にかましてやろうと思ってたのに。
「なんのためにあんたと剣の稽古したと思ってんの?」
「お前の特訓に俺が付き合ってやった」
「ちっがーう!?」
えー、違うの?
「あんたが必要以上に目立たないためには、両手を封じなきゃなんないでしょ!」
「おい、だったら最初から二本で練習したかったわ!」
「それじゃ意味ないの!!」
なんつー横暴な女だ。
「いい?絶対に二本で戦ってね!?」
「了解でありますタイチョー」
何故か二刀流となってしまった俺は、意気消沈と闘技場へ向かう。
うるさい観客に見守られ、闘技場の真ん中で、相手選手と向き合った。
キャー、レオン様ー!!
素敵ー!!
がんばってぇぇえ!!
と、黄色い声援が上がる。そんな彼は、四年生の先輩らしい。太陽の光に照らされて輝く、少しウェーブの効いたツヤツヤの髪。爽やかに笑って女子に手を振る姿は確かにモテるだろう。
「やあ一年生の君。オレは優しいけど、手加減はしてやれないからね」
ウィンク。
ウッザ……
「結構です!先輩みたいな顔面偏差値の高いやつに、俺が負けるわけないです!」
ギルド入団試験の際にも公言しているように、俺はこういった美意識高い系自信過剰王子様気質な男が嫌いだ!!
野郎、我がコンプレックスを刺激しやがるわ……
『第二試合、開始!』
それを合図に、王子様先輩が金色に光る長剣を抜いた。
思わず、エクスカリバー!!と叫びたくなるが、そんな伝説の聖剣をこんなヤツが持っているはずがない。
「君は二刀流なのかな?」
「今日から二刀流だ。明日にはもうやめているつもりだ」
先輩が訝しげな顔をした。
「ハハハ、君は中々ユニークな後輩くんだね」
「先輩はキャラ作ってんですか、大変っすね」
ガギィィインッ
金の長剣が飛来し、鍔迫り合いとなる。
「君、歳上は敬った方がいいよ?」
「そうですか、なら俺の方が遥かに先輩っすね」
先輩の王子様な眉間にシワがよる。
「ハハハ、君、面白いけど、少し腹が立ってきたよ」
「奇遇ですね、俺もだ」
バッと互いに身を離し、接近を繰り返し、一合二合と刃を交える。激しい打ち合いの音がこだまし、客席はシーンと見守っている。
「君の左手の剣は飾りかな?」
先輩はまだ余裕のある笑みを浮かべて、さっきから使っていない左手を見た。
「飾りで結構!つか、二刀流なんかできるか!!」
今すぐにでも投げ捨てたい。
「じゃ、そろそろ決着としようか」
ニコリと笑う先輩が、急に立ち止まる。
「〈ライトニングスピアーズ〉!!」
シュバババ、と放たれた光の矢。それはまさに光速。避けるすべはない。先輩はコントロールが上手いらしく、矢は全て俺の足元を狙って放たれたために致死判定にはならない。
「うおらぁ!」
でも俺吸血鬼だからね。
左手の長剣を、ゴルフよろしくフルスイング。音もなく、光の矢を全て斬り払う。
「なっ、何故わかった!?」
「修行がたりんって事っすよ」
もちろん矢が見えていたわけではない。先輩の視線から、矢が来る場所など一目瞭然だ。
「さて、俺のターン!!って、あれ?」
左手の剣が無い。
どうやらスイングし過ぎてすっぽ抜けたらしい。
どこ行った?
視線をあげると、空中をクルクル回転する長剣が見えた。
それはそのまま、重力に従って落下。
「先輩、ヤバイっす」
「え?」
ゴン!!
あちゃー。
長剣は先輩の頭頂部に、見事に突き刺さった。幸いにも柄の部分である。
「セーフ!!」
叫ぶと同時に、先輩は白目を向いて倒れた。
『だ、第二試合終了ー!!』
進行役の先生が叫ぶ。
ガッツポーズする俺。
しかし会場は、女性客からの大ブーイングで溢れかえった。
「泣かないでってば」
「うう、俺勝ったよな?勝ったよなぁ!?」
「勝ったよ、めちゃくちゃダサかったけど」
「それは俺じゃなくて先輩の方だ」
リーリーが慰めにならない慰めの言葉を吐き出し、ますます悲しくなった。
「お前のせいだ……」
「あたし!?」
そんな遣り取りを、控え室のメンバーがヒソヒソしながら見ている。
「はあ。ほんといつまで泣くのよ。ほら、第3試合終わっちゃったじゃない」
「興味ない」
「ああそう。もう、次あたしの出番なんだから、ちょっとは見ててよね」
そういやそうだった。俺は気を取り直し、
「がんばー」
と、リーリーを見送る。
リーリーはなんかうざいと言って闘技場へ向かった。
リーリーの相手は、ツインテールの女の子だった。二つ上の先輩。愛らしい表情の魔法特化型だ。
初めこそ押され気味だったリーリーだが、俺と剣を撃ち合うだけのことはあって、ツインテール先輩の放つ魔法攻撃は威力はあっても当たらない。
およそ10分もしないうちに、リーリーが先輩の背後を取り、その首に剣を突き立てたところで試合終了となった。
そんな感じで、俺らは順調に勝ち進んだ。テオ先輩は俺と同じブーイングの嵐で試合を終えていた。
試合開始直後に握手を求め、仕込みの電撃でノックアウトしたのだ。
テオは全く悪びれもせず、面倒そうに一勝したのである。
そりゃブーイングも起こるわ。
エリノアはか弱い見た目だが、さすがあのイリノアの妹だ。試合が始まるや、いいやあああと奇声をあげて爆風を放ち、相手を場外に吹き飛ばしてしまった。
無茶苦茶なところは姉妹そっくりである。
次で準決勝というところで、俺はジルと当たった。
「絶対に勝つからな!」
相対し、叫ぶジルバート。
無視してやった。
「貴様っ、この、化け物め!!」
これも無視してやる。
「ぐうううっ、絶対殺す!!」
顔を赤くして怒るジルは、なんかめっちゃ子どもっぽくて笑えた。ザマァ!!
試合開始と同時に、ジルは召喚魔法を使う。
「お前なんか焼き殺してやる!〈ファイアドレイク〉!!」
クリスタルを使用し、召喚したのは炎を纏った変な生き物。ラ○ンににてるなぁと思った俺はあの特撮が大好きだ。
「消し炭にしてやれ!!」
ギョアアアア!!
熱風が会場内に吹き荒れ、慌てた先生たちが、観客を保護するための障壁魔法を展開する。
今までに見た魔法のなかでも、圧倒的だった。
「あっついなぁもう」
「無駄口叩けなくしてやる!」
「ああそう」
俺はファイアドレイクと向き合い、ニィッと笑ってやった。
これぞ異世界だ!楽しくもなるさ!
俺は迷うことなくファイアドレイクへと突き進む。ファイアドレイクは二階建ての家くらいの大きさだが、動きはかなり速かった。
俺の動きを読むように火を放つ。迫り来る業火の渦を、ギリギリで避けると、さらに大きな火が放たれる。
地面を滑るように移動。頃合いを見て、スライディングでファイアドレイクの股下を抜ける。ついでに胴体を斬りつける。
こういう奴は、大抵腹側が弱点だ。
ファイアドレイクは痛みに叫び声を上げて飛び上がった。
「っ、逃すか!!」
スライディングの勢いを殺し、体勢を整えて地面を踏み、飛び去ろうと宙に浮き上がったファイアドレイクへと肉薄する。
二本の剣を構えてファイアドレイクの背中に着地。思いっきり叩きつけてやった。
ギャアアアア!!
と雄叫びを上げ、地面へと叩きつけられた衝撃で、闘技場がズーンと揺れる。尚も火を噴くファイアドレイクだが、俺はもう上空にはいない。
「ウッラアアアッ!」
ドス、と鈍い音がし、ファイアドレイクの首を切り落とす。
巨体がみるみる黒いモヤとなって消えていく。
叩き落とした時に、既に移動していた俺は、上手くファイアドレイクの顔の横に陣取っていたのだ。
ウオオオオオ!と、会場が沸く。
「フン、俺が今までどんだけのドラゴンを倒してきたかっての」
もちろん現代日本にはそんな生き物はいない。ネトゲの話だ。
「う、マジ、かよ……」
ひ弱な声はジルのものか。
「次はないのか?お前はこういうの召喚するのが得意なんだろ?」
「ヒッ」
剣を向けると、ジルは後ずさりで逃げる。
「くそ……僕の負けだ。これ以上は魔力が足りない」
「そうか、残念だ」
両手を挙げたジルを確認し、進行役の先生が告げる。
『試合終了!』
ワアッと会場から歓声が上がった。
これで一応、俺の株も持ち直した事だろう。
ルンルンと控え室に戻ると、リーリーを始めそこにいた参加者が、ギョッとした顔で俺を見た。
てっきりチヤホヤされるのかと期待していたから、予想と違う反応に少し残念な気持ちになった。
「君、さ」
ちょいちょいと肩を突かれ振り向けば、テオが今にも吹き出しそうな顔をしている。
「なんすか?」
「あれはダメだよ」
「なにが?」
「君が今ひとりで、しかも無傷で倒したヤツ。あれは倒しちゃダメだった」
どういうこと?
と、首を傾げれば、リーリーの怒鳴り声が響いた。
「こんのアホーッ!!ドラゴン相手に無傷で首を落とせる人間が、どこにいるのよバカヤロー!!」
ああ、そういう事ね。俺頑張ったのになあ。ちょっと楽しんでたことは認めるけど。
「お、ま、え、は!!人間の自覚があるのかドチクショー!!」
「……ゴメンナサイ」
結局俺は、何をしてもリーリーに褒められることなんて無いんだろうな……シクシク。
やっとこさ準決勝。
今年は進行がはやいそうで、昼までには全ての試合が終わりそうだという話だった。
準決勝に上がった俺の次の相手はテオだった。
でも同じギルド内で試合をする事にあまり意味は無く、テオは棄権してしまった。そのため俺の不戦勝という事になり、決勝へと進む。
観客は不服そうにブーイングをしたのだが、テオは何食わぬ顔で、疲れたと言って戻っていった。
エリノアは2回目の試合で『銀の流星』のチェスターに敗れ、仇を取るように準決勝でリーリーがチェスターを破った。
これでもう総合優勝は『隻眼の猫』に決まった。
テオが帰ってしまったので、チェスターが3位不戦勝となり、総合2位は『銀の流星』だ。
決勝戦、俺とリーリーはどちらも棄権する気はなく、闘技場の真ん中で向かい合っていた。
これが最後の試合だ。
観客席は、今日一番の熱狂に包まれていて騒がしかった。
「別に手加減してくれなくて良いんだからね?」
「そりゃそうだ。ここまで来て手加減はお前に失礼だろ」
「わかってるじゃん」
これは殺し合いじゃなくてゲームなのだから、ただ全力で楽しむ。それがゲーマーの流儀だ。
「んじゃ、あたしのとっておきの、見せてあげる」
「おう、まあでも、俺には勝てないさ。だって俺吸血鬼だからな」
ふふっとどちらとも無く笑い、試合は開始された。
「切り裂け、〈ウィンドシャドウ〉!」
放たれた風の斬撃を、左右の剣で留める。そこにリーリーが突っ込み、下段からの突きが首を狙って来る。
上体を後方に逸らし、反動で蹴り上げた脚をリーリーは軽く躱す。
「リーリーの動きにはムダがないな」
「当たり前よ!小さい時から、必死で技を磨いてきたんだからね!」
俺の勘だけの二刀流を易々と弾き、リーリーがまた間合いを詰めて来る。
「俺の間合いによく入れるな」
「そんな事言って、全然本気じゃないでしょ?」
ガギィン、と打ち合った長剣越しに、リーリーが溜息を吐いた。
「ああ、まさか、俺のスピードがこんなもんなわけないだろ?」
「だよね!知ってる!」
それでも諦めない姿勢は彼女の美点だ。
「剣に隙があったとしても、あんたの反応速度を超えての攻撃はできない。わかってる、あたしに勝ち目はないわ」
だから、ムダに魔法を撃ってこない。どうせ当たらない。逆にその時間がムダだというリーリーの考えはわかる。
間合いを詰め続けるのは、不用意に離れないため。俺を見失わないためだ。
「お前、やっぱすげぇヤツだな」
「あんたに言われても嬉しくないわよ」
このやり取りを最後に、俺は本気を出す事にした。
リーリーには着いてこれないスピードで離脱、半周駆け抜け、リーリーの背後を取る。
しかしリーリーもそれは読んでいたようで、上手く剣筋を合わせてきた。
ギィイイインと小気味のよい音が響く。
少し離れた場所に突き立つ長剣。リーリーは剣を手放しており、勢い余って尻餅をつく。
持っていられないくらいの強さで打ち込み、俺はリーリーの長剣を弾き飛ばしたのだ。
『試合終了!トーナメント戦優勝は、『隻眼の猫』!!』
わああああっと会場が盛り上がる。
俺はリーリーに手を差し出した。彼女は、やれやれというふうに息を吐き、俺の手を取る。
「お疲れ様、リク」
「ああ、これで借りは返したからな!」
「それ今言う事?」
「大事な事だろ」
などと笑いあい、これにて学園内ギルド対抗戦は終了となった。
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