第2話 ギルド『隻眼の猫』


 少女の名はリーリーというらしい。連れてこられた木造の建物で、最初にあった筋骨隆々の厳つい男がそう呼んでいた。



「マスター、この人、身体強化魔法が凄いんですよ!」



 その木造の建物の奥、酒場のようなカウンターに座っていた、ひとりの男に声をかけたリーリー。そのマスターとやらは、痩身の優男だった。奥様ウケしそうな甘いマスク、というやつだ。ただ、片方の目は厳つい眼帯に覆われている。



「どうしたリリ?お客さんは丁重に扱いなさい」


「お客さんじゃなくて、追い剥ぎさんです」



 ちょい待て!俺は追い剥ぎじゃない!


 ……ちょっと狩りをしようとはしたけど。



「ダメじゃないかリリ。追い剥ぎさんは警邏に引き渡さないと」


「でもでも、この追い剥ぎさんすごいんですよ!あたしのウィンドシャドウを避けるんですよ?」


「ほう。それは凄い」



 あのカマイタチを避けるとそんなに凄いのか?



「あの、ちょっといいっすか?」



 聞いていられないので、俺は恐る恐る口を挟む。



「なにかな?」


「俺、別に特別なことはしてないっすよ。まあ、人よかちょっと身体能力が高いだけなんで」



 と、言うやいなや。俺は瞬時に身を引いた。頭のすぐ横を、銀色のものが通り過ぎる。



「うわあ、本当だ!リリの言う通りだね!」


「でしょ!?」


「ちょっと待てぇ!!今ナイフ投げたよな?投げたよな!?」



 俺の横をすっ飛んでいったアレは、間違いなく小型ナイフだ。それは後方の壁に突き立っている。



「投げたけど、避けたよね?なら大丈夫!!自信持ちなよー」


「おいいぃぃ、なんの自信だコラァ!?」



 ここはヤバいやつしかいないのか?



「いやはや私のナイフを避けるとは。私はクリスティエラ1のナイフ使い。その私のナイフをこんな至近距離で避けるとは……」


「泣き真似ウザッ!」



 うっうっ、と顔を覆う姿なんてもう俺をバカにしているとしか思えない。



「あのさ、俺別に追い剥ぎじゃないし!ちょっと迷子になっちゃったただの旅人だから!」



 苦し紛れの言い訳だ。でも好きだろう?異世界に紛れ込んだ旅人設定!



「ほう、なら君は旅人で、つまりはこの街で仕事をさがしてるんだね?」



 マスター!?深読みしすぎて俺ついてけねぇ!!



「そうなのですか!?あたし、とっても失礼な態度でした!すみませんでした!!」


「ああああ!?」



 話がどんどん俺の想定の範囲を超えて行く!!



「僕は大歓迎だけどねぇ。うちは中々に大所帯だけど、他のところよりアットホームで割と人気なんだよ?」



 マスターはニッコリ微笑んだ。



「どうかな?君が良ければだけど、魔物討伐ギルド、『隻眼の猫』に入ってみない?」



 ギルド。それはネットゲーマーにとって憧れの職業。そして敵は魔物ときた。



「それ、おもしろそうじゃん」



 気付くと俺は、何故かとってもノリノリで。



「よーし。俺も魔物討伐に行っちゃおっかなあ」



 なんて言ってしまったものだから、



「お!新しいギルドメンバー誕生だ!」


「やりましたね!マスター!」



 というわけで、俺は目出度く?ギルドに所属することになったのだった。

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