第202話 VIPの到着の件

「────ねぇねぇ、湯冷めって知ってる?ぽっくんは身も心も冷たかばい」


「────長湯してのぼせそうになってたみたいだし、むしろ丁度良いでしょ」

直立不動で玄関に立っているマナ・Bが軽く俺をあしらう。

ちなみにマナ・Bはさっきから絡みまくっている俺に対して視線を敷地の入口に固定したまま直立不動で対応している。

お前はイギリスの近衛兵かっての。

VIPが何様か俺にはわからんが、所詮豆腐屋の入婿がトップの組織だぞ?

なんの権威も脅威も俺は感じないけどな。

なんでそんなにガチガチになってるんか俺には理解できないね。

豆腐屋が硬くなってどうすんだっての。


マナ・Bの他にも未知博士やこの温泉宿の関係者やT.O.F.U.の警備担当なんかもズラ〜と玄関前に並んでいる。

…VIPのお出迎えってやつだ。


………そう言えば、俺が到着した時は誰も迎えに出てこなかったな。

────ふむ。その事実、しかと心のページにメモっておいてやろう。

「俺はチヤホヤされたいんだ。

いや、御殿様のように敬われたいんだ。

ヘイヘーイ頭が高ーい!」


「………ブルー、頼むから大人しくしくしていてくれよぉ」

未知博士は全くのノーリアクションでつまんないからさっきから俺はマナ・Bに絡みまくっている。


「ねぇねぇ~ハラスメントって知ってる?ぽっくんは普段の疲れを癒やす為にお風呂にのんびり入ってたのに、どこかのどなた様の依頼で文字通り未知博士に首根っこを押さえられて連れてこられたんですがぁ?」


「────あぁもうわかったよ。ブルーが正しいよ、謝るから許して!」


「そっかー、それならこの業界での謝罪はどんなしきたりなのかな?893ヤクザ屋さんなんかは指を詰めるらしいから102トウフ屋さんは何詰めとく?シチリアンマフィアのオメルタみたいに口にオカラでも詰めとく?」


「────ブルー、君は本当にやりそうで怖いからそう言うのやめてくれる?」


「────とうとう到着の様よ。ここから先は貴方達のおしゃべりはバツ!」

未知博士の言う通りVIPのご到着のようだ。

敷地の中にリムジンが数台連なって入ってきた。


「────それじゃ俺はあの中に居るであろうVIPを暗殺すれば良いのだな?」


「────いつ誰がブルーにそんな事頼んだの?頼むから大人しくしておいて!」


「なんだ?もしかしてVIPだけじゃなくあのリムジンをすべて証拠も残さず殲滅か?…うーんそうなるとブルーウォーターガンじゃ無理だな……Tバズーカ?それともアオマルのレールガン?」


「────ブルー、それホントやめて。冗談に聞こえないから」


そうこうしているうちにリムジンは俺達の前に停車して、黒服の警備担当にエスコートされてスーツを着た白髪の大男が降車した。


────こいつがVIP?

やけにスーツの右ポケットを意識した降車姿勢が気になった。

降りたあとも右ポケットに何か重いものが入っているのがわかる様に皺もなくピンと張っている。

────これはきっと銃か何か持ってるんじゃないか?

警備担当もいるのに警備対象本人も武器を携行してるのか?


────ここは日本だぞ?

しかもここはT.O.F.U.が貸し切りにしてるってことはこの建物周囲何キロかは監視はもちろん、かなりの警備体勢は敷かれているはず。

どんだけの危険を想定しているんだ?


俺は今まであんまりこのVIPに興味なかったが………



────やっぱりあんまり興味無いわ。

もう帰っていいかな?






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