第198話 小さな奇跡の件(ピンク視点)

────怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!


更にアクセルを踏み込む。


────何!?あの女!?


────あの距離からこっちに気づいたわけ?

もう望遠鏡って言っても良いような双眼鏡で何キロ先から見てたと思ってるの!?


────でも私に気づいたからってなんで追いかけてくるわけ?

────今の私は変身してるわけでもないし、どう見たって私は車に乗ってる普通の民間人よね!?

それとも気づいてないだけで私なんかしくじった??

────全く心当たりないんだけど!?



────ヤバいヤバいヤバい!


もう少し先の森に逃げ込めたらなんとかなるかもだけど、毎秒何メートルで走ってるのよ!?

────私があの森に着く前に絶対に追いつかれちゃう!!


ああ、もう絶対追いつかれちゃう…………


あれだけ遠くに離れていたのにもう数百メートル先まで来ちゃった………


────もうなんとか誤魔化すしか無いわ。

車を停めて話しかけて道を間違えた振りでもしせてやり過ごせれば………

こっちの正体に気づいて迫ってきたのならすぐに変身するしか無いわね………。


あの女は絶対生身の人間じゃないから、場合によってはあのスピードで体当たりとかも攻撃手段としてあるかも知れないわね。


私は運転席から降りて仁王立ちして待ち構えた。


女は手前50メートルくらいまで来ると少しスピードを落として小走りになった。


────後40メートル。

思ったより小柄な女だ。


────後30メートル

もう女の表情までわかる。

表情からは激しい敵意は感じられないが……


────20メートル

あれだけの速さで走り続けていたのに息が乱れていない。

やはり何らかの改造人間の可能性が高い。

戦闘になるなら変身の準備をする必要があるわね。


────残りは10メートル。

万が一に備えて変身出来るように変身ペンダントを確認。


…………あれ?

私の変身するガジェットはペンダント型なんだけど………あれ?なに?鎖じゃなくて紐?


────手触りがおかしい。


………あ、変身ペンダントだと思ってたの、これパスポートケースだわ。

────あ、首からかけるパスポートケースにペンダントのチェーンが絡んで邪魔だから変身ペンダント外して寝室に置いてきちゃったわ。


…………これじゃ私は変身出来ないじゃない。


────つ、詰んだ。完全に私詰んだわ。



────久々に打つ手なし。

────9………8………7…………断頭台の階段カウントダウンしてる気分。


────神様!もし助けてくれたなら好き嫌い言いません!シュウマイのグリーンピースも食べます!レーズンパンのレーズンも避けずに食べますから助けて!



「────キャッ」


バタン!

────残り5メートルの所で地雷女が足をもつれさせて倒れた。

勢いよく倒れたため見事に私の足元にヘッドスライディングをかます形になった。



………コードネーム【地雷原の社長令嬢】は私の目の前でうつ伏せの状態で固まっている。


────え?何が起こったの?

────倒れたまま動かないんだけど?


────もしかして助かった?

────え?神様って居るの?

────私の願いが届いたの?


…………て事はシュウマイのグリーンピースとレーズンパンのレーズン残しちゃ駄目ってこと?


────そ、それは無理!

願いが叶うと思ってなかったから、とりあえず口が滑って言っちゃっただけ!



────あ、そんな事考えてたらコードネーム【地雷原の社長令嬢】がゆっくり起き上がった。


────あぁ、そうよね、そんな上手く行かないわよね。

でもこれで良かったのかも知れないわ。

もし助かってもシュウマイのグリーンピースとかレーズンパンのレーズンを一生避けずに食べるなんて私には守れなかったもんね。


────もう少し簡単に守れる約束にしとけばよかったかな…………

例えば1ヶ月間だけピラフの中のグリーンピースは避けずに食べますとか………。

1ヶ月間だけならなんとか守れそうだもんな〜。

約束変更で神様お願いします!!


そんな事を思っている間に地雷原の社長令嬢は私の前に立ちはだかった。


見事にスライディングかました地雷原の社長令嬢、略して地雷嬢は土で汚れた服を手で払いながら……………えぐえぐ泣き出した。



「────うぇ〜ん、お姉さんにここは地雷原だから危ないよって教えようとしただけなのに転んじゃったよ〜。お洋服汚したからお母さんに怒られるぅ~」


そう言って泣きながら地雷原の社長令嬢は私の横を通り過ぎて森の中をゆっくり歩いて消えて行った。



「ナニコレ────私、助かったの?」


状況が理解できない。


でも、神様に1ヶ月間はピラフのグリーンピースを避けないと約束してしまった事を守らなければまた何かバチが当るかもしれない。

罰が当たる様なのはやだからなぁ。


「────1ヶ月間ピラフのグリーンピースを避けて食べるなって言うなら、1ヶ月間ピラフを食べなきゃ良いだけよね」





────さて、日本に帰りましょうか。

何しに来たか意味全くわからないけど。


────とりあえず日本に着いたらシウマイ弁当でも食べようかしら。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る