第14話 「ヤンデレ」な旦那様
「ライノ先輩の先祖が魔王!」
帰り道の森はまるで道が拓かれたように、静かなものだった。
なので、あの城でのことを聞いてみる。
ライノ先輩の先祖、ルシッカ家の始祖は魔王だったそうだ。人間の身でありながら魔王。その時の部下があの銀髪美男だったみたい。
人間って魔王になれるのか。
人間に王になられて、魔物はいいのかと思って聞いてみたけど、魔物は力で判断するから種族は関係ないとのこと。ドラゴンを側近に置くくらいだから、力も認められたみたいで。
「……いや……。すごいな」
「ええ」
エリック様もスヴィーも何か遠い目になっている。
私も同じ気持ちなんだけど、前からちょっと魔王っぽいって思っていたから、妙に納得する部分もある。
「それで、私の話はこれくらいでいいしょう。メルヤは私を助けるために来てくれたのですよね。しかもたくさんの魔物を倒して」
ライノ先輩にぐいっと手を引かれ、いつの間に私はその腕の中にいた。
「じゃあ、俺は先に行ってるから」
「森の入り口で待ってるわ」
ちょっと恥ずかしくてどこかに避難したい私に、エリック様とスヴィーから声がかけられる。
逃げるの?私を置いて?
「メルヤ。聞かせてください。あなたの気持ち」
二人の背中を追いそうになった私を再び引き寄せたのは先輩だ。
逃げたい。逃げたい。
卑怯だと分かってるけど。だって物凄い近い。先輩は絶対に魅力の魔術を使っているんだ。魔王の末裔なんだから。
「メルヤ」
囁きは熱を帯びていて、くらくらする。
絶対に魅了……。
「メルヤ?メルヤ?」
ああ、そうだ。
全力で魔力を使い切ったんだった。
もう、このまま眠ってしまえ。
私は逃げるように目を閉じて、体が欲するままに眠りに落ちた。
☆
目が覚ましたら、ライノ先輩がいて、もうお手上げだった。
先輩は魅了の魔術なんて使っていないことは知ってる。
どきどきしたり、くらくらしたり、先輩をあのドラゴンに渡したくなくて頑張って魔物を倒した気持ちは、きっと恋だ。憧れとは違う。
「……ライノ先輩。私も好きです」
「やっと言いましたね。メルヤ」
それから数ヵ月後。
私、ハカラ村のメルヤは、魔王の末裔の妻になった。
あの銀髪美男はまだ諦めてないらしくて、魔物退治に行くとなぜか魔物に恐れられる。どうやら裏で手を回しているみたいなんだけど。
ライノ先輩……えっと、私の旦那様は自分は魔王にならないけど、子どもがなりたいなら、子どもの意志を尊重すると言ったらしくて、銀髪美男が私に子どもはまだかと聞いてきたり、なかなか可笑しな毎日を送っている。
最近は烈火のメルヤではなくて、竜使いのメルヤとか呼ばれてして、もうなんだかわからない。
私の旦那様は相変わらず無表情で、時々嫌味も言う。私が困った顔をするととても嬉しそうに微笑む。その微笑がとても貴重で、すっかり怒りを忘れてしまうんだけど、スヴィーによると、私はすっかり毒されているみたいだ。
そのスヴィーはやっとエリック様と付き合いはじめたみたい。
エリック様は早く結婚したいみたいだけど、スヴィーはゆっくり関係を続けたいと言っている。
私の片想いは結局片想いどころか恋でもなかった。
ライノ先輩……旦那様に恋をして、私は恋って何なのかを知った。
その旦那様の私に向ける愛情はちょっと歪んでいて、その態度もいかほどかと思うところもあるけれども、巷ではそれを「ヤンデレ」と呼んでいるみたい。
(おしまい)
ライノ先輩は少しヤンデレ気味かもしれない。 ありま氷炎 @arimahien
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