第13話 魔物の森と灰色の城

「これってドラゴンの居場所が書かれた地図!?」

「そうとしか思えないわね」


 筒状の紙を開いてみると、そこにはざっくりした地形をドラゴンの絵が描かれていた。丁寧に矢印もつけてあって、どうみてもドラゴンの居場所を示す地図だ。


「どうしてライノ先輩の実家の人が?」

「探していたのではないのかしら?ほらやっぱり心配だと思うのよ。普通」

「確かに……」


 スヴィーの言うことは一理ある。

 だけど、なんだかもやもやする。

 闇雲に探す手間が省けたと喜ぶべきなのだろうけど、とりあえずお礼は無事ライノ先輩に会えてからしようと、私たちはその場所を目指すことにした。


「意外に近いな」

「そうですよね」


 翌日先輩の実家の使用人から渡された地図をエリック様にも見せたけど、驚くこともなく、スヴィーと仲良く話している。こう見るとやっぱり二人はとても仲がいい。

 馬を用意していたので、今度は一人づつそれぞれ馬に乗る。

 私とスヴィーはかなり飛ばしたつもりなのだけど、エリック様はさすがに余裕で後方を付いて来た。多分、エリック様からしたら遅いくらいなんだろうね。

 

 地図上でドラゴンの絵が描かれ、矢印がつけられている場所は森の中だった。

 馬に乗ったまま踏み込もうとしたのだけど馬が激しく嫌がる。仕方なく入り口で馬を木につないでから森に侵入した。


「魔物の森だろうな」

「でしょうね」


 二人の緊張が伝わってくる。

 先頭をエリック様が務め、真ん中がスヴィー、最後は私。お互いの距離はとても近くて、スヴィーの息遣いまで聞こえてる。


「来るぞ!」


 エリック様の声がして、同時に彼が剣を抜いたのがわかる。


「光よ。我らを邪悪なものから守りたまえ」


 スヴィーが防御力を高める暗唱をして、体に光に包まれる。優しい暖かい光だ。

 防御と治癒は光の魔術だ。

 私は目くらまししかしたことがないけど。

 さすがスヴィー。

 さて、出てくる魔物の属性を見てから、炎か、水か、雷か決める。

 前方を睨み、魔物の姿を見極めようとした。


「巨大ミミズ!?」


 魔物の中で一番弱いとされているもので、私は拍子抜けしてしまった。

 エリック様が剣を振り降ろし、両断されて終わりだった。

 それからも魔物がちょくちょく出てきたのだけど、私たちの力を推し量るように魔物の階級がどんどん上がっていく。

 階級は、魔物図鑑に載っているもので、下級、中級、上級の三つに分けられる。


「さすがにきつくなってきたな」

「そうですね。スヴィーは大丈夫?」

「背負っていこうか?」

「大丈夫です」


 スヴィーはそう答えたけど、顔色はとても悪い。


「エリック様、この調子だと、後出てくるのは巨大トカゲ、巨大オオカミ、巨大クマだと思います。私がやっつけるので、スヴィーを背負ってください」

「メルヤ!」

「いいから。なんだか、これは私の力を試されているような気がする。魔物がその階級の順番ごとに出てくるなんて、おかしいと思うし」

「そう言われてみるとそうだな。作為的なものを感じる」

「メルヤ、エリック様」


 スヴィーは疲れた顔で首を横に振るが、エリック様がその前にしゃがみ込んだ。


「スヴィー。お願い。大丈夫だから。私を信じて」

 

 そう、これは、あの色っぽいドラゴンの仕業に違いないから。

 絶対に負けない。

 スヴィーがエリック様の背中に乗ったのを確認して、再び歩き始めた。


 「雷よ。裁きを下せ!」

 「水よ。凍てつく息を吹きかけよ!」

 「炎よ。怒りをもって、全てを焼き尽くせ!」


 予想通りやってきた魔物を、尽く魔術でやっつけていく。

 そうして辿り着いたドラゴンのいる場所、そこには灰色の城がそびえていた。


 ☆


「お見事。妾(わらわ)の仕掛けた物を全て退けおったか」

 

 生き物の気配がまったくしない城の中を歩きつづけ、一番奥の扉を開けると、そこには三人の人影があった。

 声を発したのはあのお色気ドラゴンの人型の美女だったけど、王座に座っていたのは別の人だった。多分本当は人じゃないと思うんだけど。


「ライノ先輩!」

「メルヤ、無事でよかったです。もし何かあったら、全魔力を使って崩壊させるつもりでしたから」


 ライノ先輩は暫く見ない内にまた魔王に近づいたみたいで、物騒な雰囲気をかもし出していた。

 いや、よかった。本当。

 

「さすが、ライノ様が認めた人間だ。キーア。あきらめよ。これ以上騒ぐようなら、わしが許さぬぞ」


 王座に座っていた銀髪美男が睨むと、色っぽい美女は顔を伏せて黙ってしまった。

 なんだかちょっとかわいそうな気がする。

 でも、この人があの魔物たちを私に仕掛けたんだよね。同情は禁物だ。


「アートス様。もうこれでよろしいでしょうか。キーア様も気が済んだようですし。これ以上するようなら、私にも考えがあります」

「ライノ様。ご安心ください。これ以上はキーアに手出しはさせません。しかし、もう去るつもりですか」

「はい」

 

えっと、ライノ先輩がこの物凄い威厳のある銀髪美男に「様」付けされている。

どういうこと?

私と同じ疑問を、スヴィーもエリック様も持ったようだ。

だけど、何か口を挟むのはためらわれる空気がだし。


「仕方ないですな。それが先代の希望ですから」


 先代?

 もう勇気を出して聞くかない。


「あの……ライノ先輩。どういうことなのでしょうか?」

「メルヤ。あとで説明します。とりあえず帰りましょう。エリックもスヴィーもありがとうございます」

「やはり帰られるのか。名残惜しい」

「私の子ども、孫が望めばまた来るでしょう」


 ライノ先輩は銀髪美男、多分ドラゴンだと思うんだけど、その人にも笑顔すら向けずそう言って、私たちは灰色の城を後にした。

 

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