第12話 ライノ先輩を追って……。
「……スヴィー?」
目を開けて最初に視界に入ってきたのは、茶色の髪の可愛らしい親友の顔だった。
「よかった……」
スヴィーは横になったままの私に抱きついてきた。
よく見たら、部屋は医務室でエリック様の姿も見える。
「えっと、いったい」
最後の記憶は、ドラゴンの炎。私とライノ先輩の壁が炎を防いで……、
「ライノ先輩は!」
そうだ。私がここにいるってことは先輩は?
飛び起きたので、私に抱きついていたスヴィーが転げそうになって、すかさずエリック様が支えるのがみえた。
「ごめん。スヴィー!あの、それでライノ先輩は?」
「ライノはここにはいない」
抱き止められて頬を赤らめているスヴィーに代わり、エリック様が答える。
「いないって、どこにいるんですか?まさか、ドラゴンに連れて行かれたんですか」
「ああ」
「なんてこと!私が魔力を使い果たして倒れたばかりに!」
「メルヤ。あなたのせいじゃないから。私たちがもっと早く駆けつけていれば、少しは……」
「俺たちが辿り着いた頃には、ライノはすでにドラゴンの背に乗っていた」
「ドラゴンの背に!?」
「しばらくドラゴンのところへ行くといっていたが……」
「連れていかれたんじゃないんですか?」
「なんとも、それはちょっとわからない」
「え!」
ちょっとまって、あのお色気たっぷりのドラゴンはライノ先輩に惚れこんでいたよね。連れて行くってことは……。ライノ先輩が合意したってこと?
私への告白はなんだったの?
「私、ドラゴンのところへ行って、ライノ先輩とちょっと話をしてきます」
「メルヤ!確かに、連れ去られて辛いかもしれないけど、多分待っていたら戻ってくるはずだから」
「そうだ。もしかしたら君のことを考えて、ライノは自ら進んで同行したかもしれないし」
「自ら進んでですか?」
それはますます頭にくる。
足を引っ張るなんてしたくなかったのに。
どっちにしても確かめたい。
「エリック様、スヴィー。私、やっぱりライノ先輩を探しにいきます」
☆
伝説級の魔物――ドラゴン。
百年近くその姿を見たことがないといわれる幻の魔物。
まあ、先輩は平然としてたけどね。
ライノ先輩らしい。
先輩が自らドラゴンの背に乗ったのは事実の様で、多くの人に目撃されていた。
ということで、ドラゴン討伐の話をするものはいない。
先輩を浚った後、どこかへ飛んでいってそれ以来姿を見せていないらしい。
「ドラゴンの伝承のある場所に行くしかないと思うの」
「俺もそう思うな」
「二人とも本当についてくるつもりですか?」
「当然でしょう。メルヤの行くところにはどこにもついていくわ」
「ライノは俺の大切な友人だからな。それに、スヴィーのことも心配だし」
エリック様は本音は後半部分だろうなあ。
まあ、来てくれるのはありがたいし、遠慮なく好意を受け取ります。
「じゃあ、出発は早朝で。魔術師団の宿舎前で集合でいいな」
「はい」
ライノ先輩のことだし、あのお色気ドラゴンも物凄い気に入っているみたいだから、大丈夫だと思うけど……。何かもやもやと心配してしまう。
「ドラゴンが人になった姿って、とても美人だったんでしょう?心配?」
「そ、そんな心配してないから」
「もう、メルヤは素直じゃないんだから」
「そういう、スヴィーもでしょう。エリック様のこと、」
「今は考えたくないの。メルヤ、そのことよりも、ライノ先輩に会ったらどうするの?」
「どうするって……」
勝手に判断してドラゴンに付いていった先輩に対して頭にきて、思わず会おうと気になったけど、その先は考えていない。そういえば、ドラゴンに伴侶かって聞かれて、先輩は近い将来そうなるとか言っていたけど……。
「ご馳走様でした。メルヤってすぐに顔に出るよね」
「そんなことないよ」
「出るよ。そこがまたいいのかも。私もメルヤのそういうところ好きだし」
「メルヤ、お客さんよ」
スヴィーに答えようとすると、扉が叩かれた。
お客さん?誰だろう?
まったく予想ができないけど、私は心配そうなスヴィーを伴って寮の待合室に行く。
そこには身なりのきっちりした使用人が待っていた。
白髪に、顔にもたくさんの皺があったたけど、腰はまっすぐ伸びていて、灰色の瞳は少し厳しい。
「あなたがメルヤさんですね」
「はい」
「私はルシッカ家に仕えるユホです。お初にお目にかかります」
「はい」
綺麗なお辞儀をされて、私も緊張しながら頭を下げた。
「ルシッカ家ってライノ先輩の家だわ」
後ろでスヴィーがそう囁いてくれて助かった。そうじゃないと、ルシッカ家の人が誰かわからなかった。
そうだよね。ライノ先輩も貴族だった。
「主人からこれを渡すように頼まれました。お持ちください」
ユホさんから渡されたものは筒状に丸められた紙だった。
「お部屋でご確認ください。それでは」
「あの、」
何がなんだからわからない。
紙を受け取って、質問しようとしたのだけど、ユホさんは背を向けていなくなってしまう。
「……とりあえず部屋に戻って開いてみましょう」
スヴィーにそう言われて、頷くしかなく、私たちは部屋に戻った。
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