第11話 伝説級の魔物……!?
「エリックとどこに行ったのですか」
「屋台のある通りを歩いただけですけど……」
「ではそこからですね」
屋台の出ている通りに行くと、さっきも通ったことを覚えている店主もいて、何やら痛い視線を感じる。
えっと、私はそういうタイプの人間じゃないんですよ。
「メルヤ。エリックは何かあなたのために買いましたか?」
「いえ、何も。私たちはただ歩いていただけなので」
「私たち?」
え、何か悪いことを言っただろうか。
ライノ先輩の黒い瞳は細められ、物騒な雰囲気をかもし出す。
「まあ、いいでしょう。何か食べたいものか、飲みたいものありますか?」
「食べたいもの……」
ぐるりと屋台を見回る。
焼きたてのパイが美味しそうだった。
「あれですね。買いましょう。喉が渇きそうなので、何か飲み物を買ってきましょう。メルヤは林檎ジュースでしたよね」
「はい」
ライノ先輩が何か甲斐甲斐しい。
こんなことしてもらっていいのだろうか。
屋台で買い物してもらうなんて……。
何か申し訳なくて、先輩の後を追うと、銀髪の美女がそこにいた。
「ですから、邪魔です」
「この妾(わらわ)を無下に扱うとは……。まあ、そこがよい。妾(わらわ)の城に連れてまいろう。そなたの望むものなんでもそろえてやるぞ」
「必要ありません。急ぐのでどいていただけませんか」
「ライノ先輩!」
なんなんだろ、この美女は。
話し方もおかしいし、城って。
服も露出しすぎな感じ出し、ちょっと頭がおかしい人なのかな。
「ああ、メルヤ。待たせてしまったようですね。さあ、行きましょう」
「行かせぬものか。これほどの上玉はなかなかおらん。魔力の量も人間にしては……」
美女はその細い腕にどんな力があるのかと首を傾げたくなるほど、馬鹿力で先輩の方を掴んでいた。
「しつこいですね」
ライノ先輩は美女の手を容赦なく振り払う。
「なんと。ますます欲しくなったわ。そこの女。まさかお前ごときが、この者の伴侶ではあるまいな」
「は、伴侶!そんなわけあるわけないでしょう!」
「まあ、近い将来はそうなるはずですけど」
先輩、違うから。飛躍しすぎ。大体、まだ付き会うとかそういう段階でもないのに!
「ほほほ。伴侶ではないか。それはよいことじゃ。男、いやライノという名であるか。ライノ。妾(わらわ)についてまいれ」
「だから行くわけないでしょう。何度も断りましたよ。私は」
「頑固な奴だ。まあ、そのうち変えていくのも一興というもの。この妾(わらわ)に欲情しないでいられるものなんておらぬからな」
「私はまったく興味がありません。他をあたってください」
美女は赤子の頭くらいの大きさのおっぱいをぷるるんと揺らしていて、なんていうか恥ずかしくなる。布で半分くらい隠しているけど、ちょっとそれは犯罪。
ライノ先輩はいつもの通り無表情だけど、パイ屋の主人とかは悩殺されていて、なんか酷いだらけた顔をしている。
「ふふふ。これくらいでは駄目かのう。続きは城に戻ってからじゃ」
美女は諦めが悪いみたいで、また先輩の腕を掴もうとする。
今度は先輩が避けて、美女の手が宙をすくう。
「ああ、面倒じゃ。力づくじゃ」
はき捨てるように美女が言うと、一気に服ははじけた。これはなんていうか……。そう思ったのは一瞬で、美女は骨格が硬そうな銀色のドラゴンに変身していた。
「やはり魔物でしたか。しかもドラゴンとは。貴重な魔物ですね」
「ふふふ。驚かないのも好みじゃ」
いや、先輩。なんでそんな普通に話ししているんですか?
ドラゴンですよ!!伝説級じゃないですか!
突然現れたドラゴン、大きさは二階建ての家と同じくらい。
そんなものが登場して通りはパニックだ。
さっきまで惚けていた主人とか、目を剥くと驚いて倒れてしまった。
「さあ、来るのじゃ」
「いやだと言ってるでしょう」
「それではこれでどうじゃ」
ドラゴンは吼えると、真っ赤な炎を吐き出した。
「水よ。我らを守れ」
「水よ。邪悪な炎を凍らせろ」
私は守りを、ライノ先輩は攻撃を重視して、暗唱した。
ドラゴンの炎はやはり並大抵じゃなくて、半分凍ったけど、後は屋台に襲い掛かる。私の作り出した氷の壁も完全ではなく、炎がこぼれ屋台一軒を燃やしてしまった。
人がドラゴンに驚いて逃げていたのが幸いして怪我人はなかったけど。
パイ屋の主人の屋台もどうにか炎から逃れたし。
「ほほほ。おぬしたちは魔術師か。妾(わらわ) の炎を防ぐとはなかなかやる。ますます欲しくなった。そこの女は召使として置いてやってもいい。どうじゃ?」
「誰が召使!」
「メルヤを差し出すわけがないでしょう。こちらから行きますよ!」
ライノ先輩が目を閉じた。
精神を集中しているのがわかる。
私は防御魔法が苦手だけど、守りの壁は作れる。
「水よ。彼を守れ」
隙を縫ってドラゴンが攻撃を仕掛けてくるかもしれないと、氷の壁をライノ先輩の前に作った。
「助かります」
「こしゃくなことな!」
氷の壁が気に食わなかったみたいで、ドラゴンはその前足の鍵爪で壁をぶち壊そうした。
「水よ。かの生き物にその力を見せたまえ」
先輩は目を開くと唱える。
手の平はまっすぐドラゴンに向けられていて、数十の氷の矢が襲いかかった。
「やるのう」
咆哮すると先ほどよりも強力な炎を吐き出す。
炎は氷の矢だけではなく、先輩まで焼き尽くそうとしていた。
「水よ!彼を守りたまえ!」
「水よ。我らを守りたまえ!」
私は全魔力を使い切る思いで、必死に唱える。
そのかいあって氷の壁は厚く、先輩の前に聳え立つ。先輩自身はもっと広範囲の氷の壁を築いていた。
私のところは大丈夫なのに……。
久々に全魔力を使ってしまったらしく、必死に目を抉じ開けようとするけど、睡魔は容赦なくやってくる。
薄れていく視界で、ドラゴンの炎が全て阻まれたのが見えた。
それにほっとすると、気力は完全になくなり、意識を失ってしまった。
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