第5話 スヴィーと話し合う。

「それでは洗濯よろしくお願いしますね」

  

 ライノ先輩は意外にも早く戻ってきた。待っている途中、誰も寄宿舎にもどってこなくて、よかった。色々聞かれたくないしね。

 

「今すぐ洗って乾いたら返しますから!」

「炎の魔術で乾かすのはやめてくださいね。燃えたら元も子もないですから」

「……はい」

 

 日干しだと時間かかるのに、でも本当に燃えちゃったらまずいから、ゆっくり日干ししよう。そのほうがぽかぽかして綺麗に乾くかもしれないし。


「それじゃあ、今日はありがとうございました」

 

 服を受け取ってぺこりを頭を下げたけど、先輩は何も返事を返さない。


「どうしました?」

「いえ、何でもありません。まあ、元気だしてください」

「あ、ありがとうございます」

 

 まさか、こんな言葉をかけてもらえるとは、ライノ先輩どうかしたのかな。今日はちょっとおかしい気がする。


「何か言いたいことがありそうですね」

「いいえ、何も!」


 やっぱり先輩は先輩だ。

 私はもう一度頭を下げるとその場から逃げ出した。


 洗濯は個々人でするか、お金を払って洗濯してもらう。

 家に仕送りをしているので、そんな無駄使いはできなくて私は自分で洗濯している。

 急ぐ時には炎の魔術を使って乾かすんだけど、実は燃やしたこともあった。加減ってむずかしいんだよね。

 だから、今回は日干しにする。

 

 騎士団と魔術師団の宿舎は王宮の傍にある。魔術学校は魔術師団に隣接していて、実地訓練には師団長が来たこともある。

 魔術師は水の魔術で水を発生させることができるから、井戸から水を汲む必要がない。だけど、料理や掃除をしてくれる人は魔術を使えないので井戸は設置している。

 洗い場に行くと珍しく誰もいなくて、石で作った水槽を覗くと水がほとんど溜まっていなかった。なのでまずは水の魔術で水を溜める。

 そこから柄杓を使って桶に水を移して、服を洗う。桶に水を溜めるほうが早いんだけど、私はそんな細かい魔法が使えない。

 以前、ライノ先輩に馬鹿にされたこともあるけど、小さい魔法が使えないのだ。

 魔力が大きすぎるせいなんだけど、ライノ先輩は私より魔力が高いはずなのに、小さい魔術もひょいと使える。

 スヴィーは小さい魔術が得意。この間みたいな雷の魔術は苦手で使うと一気に魔力を使い切るみたい。

 気を失ったスヴィーを抱えるエリック様。

 あの時のことを思い出すと、蘇る記憶はあの場面ばかり。

 私の雷の魔術で巨大オオカミは倒れ、歓声が上がる中、あそこだけは時間が止まったようにう見えた。


「はあ……」


 思い出すとまた涙が出てきそうで、私はぐっと堪えると洗うことに集中した。

 洗いすぎてすこしゴワゴワになった気がしたけど、服の水気を絞って、干し場に向う。階段を昇って屋上に出ると、日が丁度真上に来ていた。


「いい天気。きっとライノ先輩の服も綺麗に乾くはず」


 服を叩いて皺を伸ばして、右から左の袖に紐を通して、尖った針金にくくりつける。ぴんと紐が張るようにすると、気持ち良さそうに服がそよいだ。


「さて、と」

「メルヤ!」


 不意に声をかけられ、心臓が止まるかと思った。

 振り返るとそこにいたのスヴィーで、小さな体を縮こませて、本当にリスみたいに私を見ていた。

 

「スヴィー。どうしてここに?」

「ライノ先輩に聞いたら、多分ここにいるだろうって」


 ライノ先輩!なんで言うんですか。今会いたくないのに。酷いことなんていいたくない。今もムカムカ嫌な感情が沸き起こってきてる。


「……スヴィー。今ちょっと話したくないの。落ち着いたら大丈夫だと思うから」

「エリック隊長のことでしょう。私はあなたにちゃんと話したいの」

「聞きたくない。どうせスヴィーは、エリック様のことなんて何とも思っていないからって言うんでしょう?嘘ばっかり」

「嘘じゃない。私は全然そんな気持ちはないの。ただあの時、巨大オオカミがエリック隊長を襲ったのを見て、何かしないといけないと思ったの。防御よりも先に唱えたのが雷の魔術だった。こんな私の魔力ではどうもならないのに」

「それが、恋なのよ。助けたいと思ったんでしょう?」

「違うわ」

「違わないわ。冷静さを失った時点で、それは恋よ」

「メルヤ」

 

 スヴィーは泣きそうな顔をしていた。

 こんな顔させたくないのに。だから話したくなかった。


「スヴィー。エリック様はあなたのことが好きよ。物凄い悔しいけど。私のほうが先に彼に会ったのに。何度も話したのに」

「メルヤ……」


 スヴィーは今度こそ泣いてしまった。


「泣かないで。私はあなたを応援しない。だけど、エリック様の気持ちを踏みにじることはしたくないの。ねぇ。スヴィー。正直に教えて。あなたはエリック様のことが好きなの?」

「……わからないの。目を覚ました時に一番最初にいたのが彼で、ずっと手を握ってくれていたのも彼だった。とても暖かくて……。優しい眼差しで見つめれて見惚れたのは事実。だけど、それが恋なんてわからないの」

「だったら、それが恋なのか見極めて。あなたが本当にエリック様のことを好きなら諦める。その気持ちが恋なのか、どうかはエリック様に何度か会えばわかるから」

「メルヤ」

「だから、お礼のデ、デートには付き合ってあげてよ。羨ましいけど」

「それだったら、メルヤも一緒に行きましょう。お願い!」

「え?」

「私からエリック隊長にお願いしてみるわ。メルヤとデート楽しそう」

「え?待って!スヴィー!」


 止める私に構わず、何か楽しそうにスヴィーはスキップしながら降りていった。

 

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