第4話 ライノ先輩の調子がおかしい。
それからエリック様が変わってしまった。
……うん。別に変わっていない。
ただスヴィーのことが好きになってしまったのだ。
朝の練習に行くと、スヴィーのことを聞かれて、命を救ってくれたお礼をしたいと言われた。
エリック様は私の気持ちに気がついていると思っていた。
でも全く気がついてなかったみたい。
知っていて、こんな酷いことを頼むような人じゃないもの。
本当は橋渡しなんて絶対したくない。だけど、私は嘘をつけないし、エリック様にはそんな子だと思われなくない。
だから、スヴィーに聞いた。
「お礼なんていらないって答えてくれる?」
「なんで?」
「だって……、それじゃあ、私の代わりにメルヤが、」
「いやよ。そんなの。絶対行ってよね。エリック様が是非って言っていたから」
「メルヤ!」
それ以上傍にいると酷いことを言いそうだったので、私はスヴィーから離れた。
私は知っている。
目を覚ましたスヴィーが傍にいたエリック様に対してどんな表情していたのか?
彼女はエリック様を好きになり始めている。
一目ぼれってあるんだから。
私はエリック様に一目ぼれした。
だから、二人もきっとそう……。
「メルヤ。険しい顔をしていますね。炎の魔術なんて誰にも使わないでくださいね」
「あたり前です。私もそれくらいの分別はありますから!」
こんな状態でライノ先輩には絶対に会いたくなかったので、避けていたのにばったり出会ってしまう。予想通り嫌な事を言われた。
泣きそうになりながら答えるとなぜがぎゅっと抱きしめられた。
「ライノ先輩?」
「辛い時は泣きなさい。そうじゃないと気持ちは晴れませんよ」
彼らしくない言葉。
優しい抱擁。温もり。私は声を押し殺して彼の胸で泣いてしまった。
「す、すみませんでした!あの、その服は私が洗いますから!」
どれくらい泣いていたかわからないけど、やっと涙が止まって、気がつくと、ライノ先輩の服が……鼻水と涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「ふうん。洗ってくれますか?それじゃあ、私の部屋に来てください」
「え!?」
「何を驚いているのですか?ここで服は脱げないし、換えも無いので裸になるわけにはいかないでしょう?」
「は、そうですね」
そういえば、そうだ。けれどもライノ先輩の部屋って……。
っていうか私意識してる?ライノ先輩はそんな対象じゃないし、私はエリック様のことが好きなんだから!
心の中で自問しつつライノ先輩の案内で歩いていると、魔術師団宿舎の男性寮へ辿り着いた。
「ここで待っていてください」
「え?」
「部屋まで着いて来たいですか?まあ、あなたがどうしてもというなら、許可を取って案内しますけど?」
いつも無表情なのに、何やら意地悪そうに笑われて、いつもよりイラっとする。
「そんなことありません。ここで待ってますから」
「そうですか。残念ですね。それでは着替えてきます。喧嘩などせず大人しく待っていてくださいね」
「しませんよ!」
私を何だと思っているの!?
怒鳴り返すと、またまたライノ先輩が笑う。
今度は意地悪そうじゃなくて、見惚れそうになった。
これは、ライノ先輩。顔だけがいい、ライノ先輩。油断したら駄目!
慌てて顔を引き締めて、先輩を見送った。
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