第6話 デートのつもりが……。

「普段着は持っていないのですか?」


 なぜか待ち合わせ場所にいたライノ先輩が開口一番で聞いてきた。


「ライノ先輩?なぜ、ここに?」

「俺が誘ったんだ。大勢のほうが楽しいだろう。巨大オオカミに止めを刺してくれたのはメルヤだし、ライノはその先輩だしな」


 それって理由なんですかね。


「私がいたら都合が悪いのですか?メルヤ」

「いえ、そんなことは!」


 あれからスヴィーがエリック様にお礼のデートの返事を直接したらしく、日時は一週間後になった。汚してしまった服を洗濯して返した時にはライノ先輩はまったくそのことに触れなかったから、まさか四人でデート……いや、これはもうお出かけかな。

 そうお出かけをすることになるなんて予想もしていなかった。

 私は普段着を買うお金も勿体無いので、その分貯めて家に送っている。 今回だって付き添いみたいなものだからと服を買うこともなく、魔術師の制服のままだ。

 制服が一番楽なんだよね。学校に通っている時もそんな感じだった。

 まあ、出かけることもほとんどなかったけど。


「やっぱり普段着はあったほうがいいですよね。私もそう言っているのですけど」

「じゃあ、買いに行くか」

「え?」

「そうしましょう。後輩がこんな無頓着では先輩として情けないですから」

「いえいえ、ライノ先輩。私生活は関係ないですから」


 私が必死に言うのだけど、三人が揃いも揃って、服を買いに行くと方針を決め、仕立て屋に連れて行かれた。



「可愛い。何かメルヤの印象が違うわ」

「本当だな。うん」

「さすが、私の見立て通り」


 三者三様に言われながら私はお店を出た。

 かなり複雑な心境だ。

 こんな服なんて着たことないから違和感だらけだし、……ライノ先輩におごってもらったことも複雑だ。


「スヴィーの服も、その、なんだ可愛いな」


 ちょっとどもりながらエリック様がスヴィーを褒める。

 ああ、照れちゃって。私に対してはすらりって言葉が出ていたよね。


「はい。メルヤに選んでもらいましたから」


 スヴィーはエリック様じゃなくて、私に向って微笑みかけた。

 うん、複雑。

 視界に、めちゃくちゃ凹んだ感じのエリック様の姿が入っている。このスヴィーの服は、エリック様が払うって言ったのに、スヴィーが自分で払うといってすこし揉めたんだけど、結局ライノ先輩が払うことでまとまった。

 後輩への労いだということで、私に特別にライノ先輩が服を買ってくれたんじゃないんだけど、ことごとく私の好みを無視されたのはちょっとイラっときた。

 こんなスヴィーの着るようなふわふわっとした裾のスカートなんて、ちょっと恥ずかしすぎる。 

 しかもこれを着たまま、お出かけを続行することになり、もうなんか顔から火が出そうだ。

 スヴィーはいつもと違って、すっきりとしたデザインのワンピースを着ていて新鮮だ。私が選んだっていうか、私が着たかった服をスヴィーが試着して、気に入ったという流れ。

 こういう服が着たかったと笑っていたから、まあ、よかったのかと。

 スヴィーも買った服をそのまま着て歩いているのだけど、何か不思議な感じ。


「何かお腹すかないか?俺のお勧めのお店に連れて行くよ」

「ありがとうございます!」

   

 エリック様の言葉に反応を見せたのは私だけ、スヴィーは頷き、……ライノ先輩はわからない。無表情だから何を考えているのか。


 エリック様の選んだお店は、うーむ。

 スヴィーの好きそうなお店だった。可愛い、きっと、これスヴィーのために選んだんだろう。お店の層も女の子が断然多い。

 

「女性が多いですね。エリックにしては……」

 

 そう言い掛けたライノ先輩の口をふさいだのはエリック様で、彼の意図をはっきり読んでしまった私はスヴィーを連れて中に入る。

 今日のデート……お出かけはエリック様のスヴィーへの想いの深さが分かるようで、何かちょっと胸が痛い。

 私たちの後ろから明らかに不機嫌そうな顔をしたライノ先輩、それを宥めているエリック様が続く。このやり取りも想像できて、本当ライノ先輩もお疲れ様です。


「さて、この店はパンケーキがお勧めみたいなんだ」

「パンケーキ?」


 思わず私とライノ先輩の声が重なってしまう。

 いやいや、エリック様とパンケーキって、これまた何だかなあ。


「そうなのですね。でも私はパンケーキは好きじゃないのです」

「え?ス、」


 スヴィーに反論しかけた私の口を彼女が今度は押さえる。

 だって、だって、スヴィーの大好物だよ。パンケーキ。っていうか、そう教えた私の立場はいったい。

 エリック様に申し訳なくて顔が見れなくなってしまった。


「それでは、私はパンケーキを頼みましょうか」


 微妙な空気を壊したのはライノ先輩で、スヴィーが私の口から手を離す。


「私もパンケーキを頼みます。スヴィーも私と一緒でいい?」

「それなら」

 

 スヴィーの返事に明らかに安堵したエリック様は店員を呼ぶと、四人分のパンケーキのセットを頼む。

 パンケーキといっても色々な組み合わせがあって、私とスヴィーは果物がたくさんついたクリーム添えのパンケーキ。エリック様とライノ先輩は鶏肉の揚げたものとパンケーキのセットにしていた。

 飲み物はこのお店のお勧めの果物のジュース。

 私が林檎ジュースで、スヴィーはバナナジュース、エリック様とライノ先輩は甘いのがいやだとかで檸檬ジュースにしていた。酸っぱそう……。

 お勧めのパンケーキは看板メニューらしく、ふわっとした感触で何枚も食べれそうな勢いだったけど、とりあえず一人分の二枚で我慢した。男の人たちは鶏肉の揚げたものが大きくて、ちょっと羨ましかった。

 物欲しそうに見ているつもりはなかったのに、ライノ先輩が一切れ恵んでくれた。

 美味しかったけど、「メルヤにはそれでは足りないでしょうね」と言われて、なんだからその美味しさもぶっ飛んでしまった。

 エリック様の前なのにそんなこと言わないで欲しい。

 それでも、スヴィーしか目にはいっていないみたいなんだから。

 そんな視線を浴びせられながら、いや浴びせられているから、スヴィーは私ばかりを見て話しかけてくる。

 無視するわけにもいかず、エリック様に話題を振りながら食事の時間を終えた。


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