第3話

佐々木加奈子は、ドアノブをひねった。




「おじゃまぁ。飲み物、オレンジジュースでいいかしら」




まあ用意してきてしまったのだから、断られても困るけれど。




「うん、そこにおいておいて!」


「はいはい。あら、こんにちは。はじめまして」


「あ、はい、こんにちは」




少年は、たどたどしく、でも礼儀正しくお辞儀をした。


高校生。しかも菜々と同い年くらいの。背はあまり高くなく、私と同じくらい。きれいな黒髪、目尻の垂れ方。少しえらが目立つ、そんな顔立ちがどこか___そんなわけないか。きっと考えすぎなのである。


加奈子は少年の耳元でささやく。




「ななったら、学校をほっぽって君を連れてきたのだからね。今まで、家に男の子連れてきたことないのに」


「そ、そうなんですか!?」




照れてる。さすが思春期男子ってとこね。菜々はきょとんとしているけれど、ほうっておこう。




「じゃあ、ごゆっくり。なな、学校には体調不良って言っといたから、今日はその子の面倒を見なさい。それと___君、名前は?」


「小泉和です。」


「そう。じゃあ和くん。よろしくね」




ドアノブに手をかけ、部屋を出ようと___




「待ってください!!」「ひゃっ」




隣りにいた菜々が小さくはねた。




「あら、和くん。なにかしら?」


「ななのお母さん...その...名前、伺ってもよろしいですか...?」




なんで?となるのが普通なのだろう。だが私は素直に質問を受け付けた。




「佐々木加奈子___。」




それが口から放たれた刹那、小泉和の表情は「やっぱり」と言っていたように見えた。


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