第5話

 ○


 初めは、クラス内でのささやく様なうわさだった。それがどんどんふくらみ、いつの間にかぼくと鹿野さんが付き合っていることにまで発展してしまった。


「お前と鹿野って付き合ってんの?」


 クラスのイケイケ男子にそう問われた。


 そんな威圧的いあつてきな態度を取られたらぼくは、ちっぽけだから萎縮いしゅくしてしまう。


「そんな、鹿野さんと付き合うだなんて……ないよ」このぼくがあるわけないじゃないか。


「だよな、お前となんかわねーよ」


 イケイケ男子はぼくの返事に納得なっとくしたのか、そんな台詞ぜりふいて去っていた。


 そうなんだ。ぼくと鹿野さんとじゃ、全然わないんじゃないか。


「そうだね、わない。わないよ……」


 ぼくは自分にだけ聞こえるようなトーンでつぶやいた。しかし、聞いている人が一人ひとりだけいた。


わないって、なんだよ」


 鹿野さんだった。


 怒気どきをはらんだ声で、こちらを真っすぐにらみつけている。いかりなのか、悲しみなのか、判別できない表情だったが、とにかく傷ついていることだけは分かった。


 その鹿野さんの視線にえ切れず、ぼくは視線を反らしてしまった。


「なんだよそれ」


 鹿野さんの声が聞こえたけど、ぼくこわくてかえることが出来なかった。


 その日から、鹿野さんはぼくつづけた。

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