第4話

▼▼▼


さて、早くも同居人との関係が悪くなってしまった。

まぁ、僕が悪いのだが、100パーセント僕が悪いという訳でもないだろ。家にあるものは自由に使っていいと言ったのはティアだ。

つまり僕よりもティアが悪い。結果僕はそれほど悪くは無い。


完璧な言い訳だ。しかし、それを本人に告げたらもう一度殴られそうなので我慢だ。


僕は夕食を食べ終えると皿を洗う。

ティアとフリアはまだ部屋から出てこない。


そろそろ勘違いに気づく頃だろうか。


確かに俺はフリアの金を食事代として使った。しかし、本当に使った金は極一部だ。肉も売り物にならない切れ端を寄せ集めて格安で売ってもらったものだし、野菜なども形が悪く、見栄えの悪い物を安く売ってもらった。スパイスは料理店に行って異世界のレシピを教える代わりに譲ってもらったものだ。


殆ど無料に近い。

更に言えば料理店の店長からスパイスだけでは足りないと金を渡されている。

そのおかげで金は逆に増えているのだ。


本当は伝えたかったのだが、胸倉を掴まれた段階で面倒になり教えなかった。どうせ気づくことなのだから今言わなくてもいいだろうという僕の悪い癖だ。


「さて、寝るか」


好きに使って良いと言われたがフリアを怒らせた後にティアの部屋に行ってベットを堂々と使うほど僕は人でなしじゃない。だからと言って硬い床で寝るつもりもない。ソファーを使わせてもらおう。

僕はクッションを枕にして眠る。

意外と疲れていたようで直ぐに眠ることができた。


翌日、目を真っ赤に腫らしたフリアが謝ってきた。


「ごめんないさい」


「どうでもいい」


勘違いなんて誰でもするだろう。人間だしな。当然だ。

全てが都合のいいようにいくことなどありえない。


「気にすることないだろう」


僕は特に気にすることなくサラダを口に運ぶ。


「でも、殴っちゃったし」


「フリアがどれだけ謝ったとしても昨日の痛みが消えるわけじゃない。昨日の出来事はなかったとこにはならない。

フリアできることは二度とこのようなことが起きないように努めることだ。

僕の許す許さないは関係ない」


 そもそも勝手に人の金を使った僕が悪いのだけどね。まぁ、有耶無耶にできそうだからよしとしよう。


僕はサラダを食べ終えて食器を洗う。

今日は休日らしく二人は家から出ないようだ。


もちろん俺には関係ないので図書館に行くため家を出ようとしたところ、ティアに止められてしまう。


「お話しましょう」


「会話か?」


そういえば今日までまともに話していなかったな。

僕的には家に勝手に住むダニかノミ程度に思ってもらいたいのだが、それには少し無理があったようだ。


「お名前を教えてください」


ティアがニコニコとした笑みで聞いてくる。

そういえば名前も教えていなかったのか。今思えば失礼な奴だな、僕。

しかしティアは距離感が近いな。僕のことが好きなのだろうか。

まぁ、誰にでもこの態度なのだろう。


「寺田文彦だ」


「聞き慣れない名前ね」


「田舎の方だからな。文彦が名前だな」


「へぇ、ファミリーネームが最初なのね」


それから二時間ほど会話に付き合わされた。と言っても僕も彼女たちの生活について聞けたので有意義な時間だ。

親睦もそれなりに深められたのだろう。フリアの態度もトゲトゲしいものから穏やかになった。


「じゃあフミヒコはたまたまこの街に来たのね」


「そうだな。村が魔物に攻められてあてもなく逃げた。自分が何処に向かって歩いていたかなんて覚えてない。

途中で地図も無くしたから道がわからずフラフラしていたところを後ろからグサリだ。まぁ、勤め先はこの国であってるんだろうが、今更遅いだろうな」


「そうだったんですか」


俺は適当にでっち上げたストーリーで出自を誤魔化す。


「あ、そういえばあの魔法って何なの?

あたしの声が出なくなったやつ」


「秘伝の魔術だな。と言っても戦闘では役に立たないガラクタだ。

だが、一応は秘伝だからな。詮索は控えてもらうと助かる」


「そうですね。

戦闘においても自らの実力は隠すものです。詮索はしません」


よし、これでいいだろう。

異能力なんてこの世界にはないだろうしな。特別な魔術と言えば理解してくれるだろうと思ったが正解だったみたいだ。


それからはそれぞれの趣味に没頭する。

僕は図書館に向かい本を読み漁り、フレアは魔道具の点検、ティアは神へのお祈りを済ませた後は何故か図書館に来て僕の隣で本を読んでいる。


「…フミヒコさんは私のことをどう思いますか?」


お互いが無言で本を読み進め、しばらく経った時、ティアが突然質問を投げかけてくる。だが正直そのボールは何を狙っているのかサッパリだ。変化が強すぎて取れない。

言葉のキャッチボールを練習しろ。

しかし、これまではきちんとキャッチボールはできていた。友達の前でないと他人と会話できないあれだろうか。

友達と一緒じゃないと強気に出られないよね、わかる。


「あ、いや、えぇと、ほら、例えば何考えているのかわからないなぁとか、近寄りがたいなぁとか…」


僕が困惑していると少しだけ具体例を出してきたが未だに狙いがわからん。


「ティアの言葉の意味がわからないな。

まぁそのまま受け取るのだとしたら、まったくそんなことはない。

他人の思考なんて読めないのが当たり前だ。それに近寄りがたいのは相手のことを知らないからだろう。人間は知らないものに対して恐怖心を持ったり勝手な理想を押し付ける。

少なくとも僕はティアの人となりは、表面的なものかもしれないが把握している。君の好物が肉で、冒険が好きなことは先程の会話で知ったことだ。

故に、僕は君に対して近寄りがたいとか思考がわからなくて怖いなんてことは思わない。

むしろ僕は君のことが好きだぞ?」


「ふぁへ?!」


突然ティアが奇妙ま声を上げて驚いている。

いや、こんな美人で、原因はフリアだったにしろ介抱してもらい、同居まで許してくれる人を嫌いにはならないだろう。

君はもう少し自分のした事を振り返りなさい。


「誰だって好意を抱くのは当然だ」


「え、あ、そうですよね。

これで嫌われたら私も困っちゃいます!

えへへっ、そうですか、ふふっ」


なんだろう。凄く嬉しそうだ。

質問の意図が分からず素直に答えてみたが良かったのだろうか。

いや、嬉しそうなのだから良かったのだろう。


僕は困惑しながらも意識を物語の方へと向ける。

ティアは僕が帰るまで嬉しそうに僕の隣で本を読んでいた。

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