第7話「これは夢だと思っても」

 グリフォンに聞かれ俺は「夢にしては都合が悪すぎる」と震え、言葉を返すことができなかった。


(どうしてだ!! 夢ならもっとイージーモードでもいいだろうに!!)


 グリフォンは固まっている俺を、胸中吹き荒れている俺を見てため息を吐く。


「納得いってないようだな。ならば先ほども言ったが譲歩してやろう、魔術を教えてやる」


 随分と心踊る提案をしてくれる。俺は現金にも気分は急上昇。俯いていた顔はバネでも仕込んであったかのように戻り、それを見てグリフォンは思わずといった感じで苦笑をもらす。


「ワシほどの存在から魔術を習うのだ。お主は強くなる、それは保証しても良いぞ」


 言葉にならない感動の声ーーになる前の音が漏れる。夢であれ魔術を教えてもらい、それを使えるかもしれない。俺の心は大空に舞い踊った。これほどにリアルな夢で、現実感のあるこの夢の空間で、俺は心踊る体験ができる。


(この夢は、当たりだ。なるべく長く続け)


「……返事は、聞くまでもないようだな」


 自分でもわかる、ものすごくニヤついた顔をしているって。たかが夢、されど魔術。俺は最早これは現実でーー異世界転移であってくれと心の中で叫び。グリフォンの言葉に胸を叩いて答えた。


「ああ、どんとこいだ!!」


「そうかーーん?」


 俺は嫌な予感を覚えた。急にグリフォンがそっぽを向き、遠くを見るように目を細め、悪いことを思いついたように表情を変化させたからだ。


「おい、丁度良い。あれで実戦訓練といこう」


 その言葉を聞き、俺は怯えるように視線を追った。


 だが視界には脅威となりそうな生物は見当たらず、俺は目を動かし続けるーーそんな時、遠くから何かが迫ってくるのを発見。大きさはよく分からないが色は明るい茶色で、四足歩行の動物のようだーー嫌な予感は的中した、あれはライオンだ。


「最初はあれくらい手頃なやつが最適だ。ほれ、勝ってみせろ」


 グリフォンのお使いでも頼むような気軽な口調に、俺は大いに慌てた。


 無茶を言わないでほしい。いくら夢でも武器らしいものは何もなく、服装は厚手とはいえ学生服。自転車を振るうような腕力はないし、間合いに入ればお終いだ。


 いや、いざとなったら助けてくれるに違いないーー


(いや、これは夢。何でもできるんだ、今度こそ……)


 と気持ちを奮い立たせるも、次のグリフォンの言葉を聞いて消え去ることになる。


「このままでは襲ってこんからワシは空から見ているぞ」


 と言うや否や羽ばたく音が聞こえ、強い風を巻き起こす。まるでヘリコプターの離着陸のような強風で、目も開けてられない。


 その時に訪れたのは恐怖だった。俺の夢のくせに甘くないと嘆き、夢であろうと肉食獣に捕食されるのは真っ平気だと電気が走り、気づいたら叫び喚いていた。


「待ってくれ!! 頼む待ってくれ!!」


 その声に返事はなく、風は弱まっていく。俺は本格的にグリフォンが離れていくのを感じ、何とかしなければと思考が渦を巻いた。濁流のように規則性なく回る頭脳。


(どうすればいい、どうすれば、一体どうしたらいい)


 過去に戻れるのなら是非やり直したい。なぜ俺はこの時、不用意に考えなくその答えにたどり着いたのだろう。相手の望んでいるであろう言葉で引き止めようとしたのか、はたまた浅ましい性根に刻まれていたいたのか。


 それは分からない、分からないが安易だったと思えてならない。しかしこの世界が現実と知り、この選択に安堵したのもまた事実ーー


「子分でも手下でもいいから置いてかないでくれ助けてくれ!!」

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