第8話「助けてはくれたが……」
そう叫ぶと羽ばたきが止み、目に飛び込んできたのはグリフォンの顔。我が意を得たりといった輝かしい表情で、空中で大きく翼を広げたまま停止している。
「その言葉、二言はないな!!」
俺は後悔する間も無くすがり、染み出してきても首を縦に振ってしまい、ようやく「しまった」という冷静な自分が顔を出したがもう遅い。グリフォンは大きく鳴き声をあげ、重圧のような空気を飛ばし、ライオンを追い払う。グリフォンの前では百獣の王もネズミのようで、小動物のように走り去っていった。
助かった、という気持ちと逆らえないという感情がわいてくる。しかしその感情は不思議と染み込み、さも当然かのように思えてきたーーまるで生まれ変わったかのような、そんな感じだ。
(何はともあれ、助かったあ……)
さらに奇妙なことに焦りや恐怖も薄まり、息も深く落ち着いたものに変わる。心音もゆっくりとしたものに戻り、一皮むけたような気持ちだ。
(これが、成長か……?)
その証左かグリフォンを見ても竦まず、怯えのようなものも感じない。むしろ親しみというか、敬愛というか、目上の人に対する時のような感覚を覚える。逃げるライオンを最後まで警戒するような残心も、狂おしいほどに気高き姿も、今はなんとも感慨深い。
「……まあ、お主を鍛えるのは追い追いやるとしよう。手始めとはいえ相手はライオン、ひ弱な人族には過ぎた相手か」
おかしいとは心のどこかで思いつつも、その言葉に感じるのは「俺のことを思ってくれている」という気持ち。果たして俺はこんな殊勝な精神性で、心の広い奴だったかーーいやそうに違いない。俺は元々は楽観的だった。
「ふむ、お主なかなか良い表情をするようになったな」
「そうか?」
「うむ、辛気臭くなくなった。それに胡散臭くもな」
「随分ひどい評価だったんだな……」
「まあ許せ、今はもう違うのだからな」
違和感のないことに違和感を覚えるが、こんなにもグリフォンと話せていただろうか。俺は引っかかりを感じ、無意識に口を手に覆って考え込んだ。記憶には、俺とグリフォンは平行線のような感じだった。いやそれも正確ではなく、探り合うというかメタ的に登場人物と関わるようなーーいや、それも違うか。
(とにかく、こうじゃなかったはずだ……)
「ふむ、ある程度の抵抗力はあるようだな」
そのグリフォンの言葉にすごく引っかかり、俺は「抵抗力?」と言葉を拾う。するとグリフォンは沈み込むように着地し、姿勢を楽にしてこちらを見据えた。
「いずれは勘付くだろうから先に言っておく。お主と主従契約を結んだ」
「主従契約?」
「ああ、ワシが主人のな」
と口のはしを上げるグリフォンを見て、俺は自分を取り戻した。
「おおおお前っ、俺に何した!!」
「ちゃんと聞いてなかったのか? 主従契約だ」
「違うそうじゃない、俺に何をしたんだ!!」
「だから主従けーー」
「だから違う!!」
先ほどまでの心地よい感じはーーいや、あの気持ち悪い感じはどうしたことか。まるで自分ではないような、強制的に思考が誘導されているような、俺だけど俺じゃないような感じは何なんだ。
「……変化について聞きたいのか?」
「……そうだ」
「簡単なことだ。契約によってワシらは繋がり、お主はワシの影響を受けたのだろう」
「どうゆうことだ?」
「わからんやつだな……」
まるで出来の悪い弟子を見るような、物分かりの悪い子供を見るような顔だ。はっきり言って腹がたつ。俺は意味のわからないことをしやがって、と憤慨しつつも先を促した。するとグリフォンはこちらの目の圧力に感じたのか、ため息を吐きさらに説明を重ねる。
「いいか、主従契約とはなーー」
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