第3話「会敵」

 あまりの恥に膝からも崩れ落ち、四つん這いになってしまった俺。頭には後悔を煮詰めたような叫びが駆け巡り、無意識に地面を叩いてしまう。


「あぁ、くそったれぇ……」


 その時、遠くから羽ばたくような音が聞こえてきた。しかもそれは近づいてきており、嫌な予感を染み出させる。これは、大きな個体だと容易に想像させるものだ−−


(まさか……)


 突然聞こえる咆哮


 俺は反射的に振り返ると、圧倒的な暴力が迫ってきていた。これは助からない、一瞬でそう理解させられた。


「グ、グリフォン……」


 気付いたら俺は逃げ出していた。いつ走り出したのかはわからない。


 死にたくない。これは夢のはずなのに。なんでこんなに恐怖を感じる。息が苦しい。足が重い。体が思うように動かない。誰か助けてくれ。


 無様に走り転げ、もつれても這うように駆け続けた。


 でも不思議なことに頭の中は冴えている。心がいくら叫んでも頭は冷静だ。このままではいけない、もっと綺麗なフォームで走らないと、呼吸をもっと深く、隠れられる場所はないか、あの声は祝福を与えてくれると言った……と平時よりも働いている。


 そんな時、なぜか恐怖が緩んだ。


(……え?)


「アッハッハッハッハ!! 何度見ても愉快だ、人間の無様な姿は」


(え……?)


 俺はその親しみ感じる声につられて振り返る。すると奇妙なことにグリフォンと思われる生物は地面を叩きながら笑っていた。前足でストンピングしては体を震わせ、俺を目で捉えては我慢できないとばかりに大笑い。


 どうゆうことだ、理解が追いつかないんだぜ。


 俺はあまりの事態に混乱していると、笑い声の主は転げ出した。砂浴びする馬のように、苛立たせるほど爆発的に笑いながら。


 ここまでくるとムカつくなオイ。夢の主導権は俺だ!!


「いつまで笑ってやがるグリフォン野郎!!」


 俺は大仰に見栄を張り、指をさして言い放った。無駄に彫刻のようにキメて、現代アートのように先鋭的に。


 ルールは俺だ、夢よ世界よひれ伏しやがれ。


「あん?」


 ……鷲って睨むとめっちゃ恐いんだな。

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