第二話(3/4):先生、流行ジャンルってやつがあるじゃないですか。
「まず手を付けるならば、基本は、ウェブ小説のお手本とも言える老舗サイトのランキングを参考にすれば良いだろう。最近アニメ化しているものは、過去の流行のものが多いので、そういうものから手を着けるものありだね」
なるほど、確かに。
先生の言葉に頷きつつ、私は先生の説明に付け加えるように、隣に座る友香に向かって言った。
「私も多少は追ってたから分かるけど、そうかも。男性向けの深夜帯のものはちょっと刺激が強いものが多いけけど、今ならウェブ発の女子向けの作家さんの作品もアニメになったりしているから、女子にも手を着けやすいかもね」
中、高の頃は無駄に時間があったけど、大学生になってからはとにかく時間が足りなくて……あれだけ親しんでいたウェブ小説からも最近は遠巻きだ。
今、アニメになって世間から認知を受けるようになってきたのも、もう四年前とかになるのか……なんていうか、時間が過ぎるのが早い。
「あれ、澪先輩はウェブ小説とか読むんだ?」
「そうだよー。私基本雑食だし、昔は暇でしたからー」
「澪くんは読者だったのか。なるほど、それなら話が早い。その頃の流行の傾向はどんなものだった?」
「ええと、私が見ていた範囲……当時のランキング基準になっちゃいますが。男性は異世界転生ものが多かった気がします。色んなバリエーションがありましたが、生まれついての才能があったり、チートと付くタイトルが多かったかな……」
「成る程。続けて」
「ああ、アニメにもなった「現代装備を持って異世界や過去に行くことで活躍」 もチート系に入りますか。現代知識チート、なんて言うのもありましたよね。個人的には歴史上の誰かに転生してイフの世界を描くような、戦国ものとかが好きでしたね。どちらも、ハーレム要素は殆どが入ってたような」
先生が頷き「女性向けは」 と先を促す。
「それから……女性向けは基本的にずっと恋愛ものが強いですよね。オフィスラブや格差婚とかは、女性向け作品の掲載が多いウェブ小説では根強い人気かと」
私はうーんと思い出しながら口に出す。
「あ、ゲーム世界にゲーム知識を持って転生するような話が流行してた気がします。今はファンタジー世界の話が多いですけれど、まだ現代ものも数多かった気が」
「それだけかい?」
「ああ、いいえ。あの頃かもう少し前かな? 悪役令嬢とか婚約破棄ネタが台頭してきて、ウェブ作家みんなで大喜利的に誰が上手いことやるるかを競ってるような空気があった気がします。あれはあれで楽しかったんですよねえ……作家の個性が見れて。毎日ワクワクしながら読んでました」
「それらを纏めると?」
十津先生に促され、私はなんとか要素を纏めようとする。
「ええと……男性はいわゆる最強もの、特別な才能、生まれ変わりなどのやり直すチャンス等が要素として多いのかな。ハーレムものは常に人気ですよね」
「なるほど。女性向けはどうかな?」
「うーん。女性の場合はやはり恋愛要素が多いかと。この場合も、イケメンに見初められるとか、降って沸いた幸運を掴むような特別感はどうしても必要になるのかなあ。まあ、私が読んでたものが中心なんで、定番のバリエーションが全部追えてる訳ではないと思いますが……」
最後はしどろもどろになる。
何せ、ただの読者でしかないので、流行を完璧に捉えられていたとは思えない。
実際、私が追えていないだけで、もっとさまざまな要素の作品がヒットしていたりしたのだろう。
……そうでなければ、大手がこぞって小説投稿サイトを作ったりするような今の現実はないだろうから。
「うん。有り難う澪くん。参考になったよ」
本当か? と私が疑問の眼差しを向けると先生は丸眼鏡の奥の目を細めにこりと笑う。
「ウェブ上の小説はテンプレばかりだ、と言われているが、それもその筈。古来から人が好むものは共通していて、何処かで読んだような気がしてしまう。友香くん、君の好きな作品にも、その傾向はある筈だ」
友香は十津先生の言葉にしばらく思案した後、納得したように頷く。
「そうですね……確かに、そう言われると物語は語り尽くされてしまっているのかも知れません。その上で、あえてセオリーを外し挑戦したものがあるならそれを応援したいですが……」
友香はそこで言葉をとぎれさせた。
彼女が言いかけた事はなんとなく予想できる。それすらも、誰かの後追いでしかない可能性が高い、という事実は重いよね。
「そうだね。その挑戦がめざましいものであれば良いが、新奇的な事だけを追ってしまうとなかなか物語が成立しなくてね。これは創作する者、誰しも通る道ではあると思うんだが」
十津先生はそう言って肩を竦めた。何ですか、先生もそんな時期があったんですか。
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