第陸章  逆襲花嫁事変〜山の民の王と猫叉の邂逅〜

 戦闘の前準備と、前に出ていた麻衣那の友人2名が新キャラで登場しています。


 新キャラ紹介のお話とご理解お願いします。



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 侵入者が【鈴鹿峠】に入ったと律鹿りっかから【念話】で知らせが来た。


【鬼ヶ島】は、【鬼神族】や【鬼人】【亜人】などが住みやすいように、【故郷】を模した地形に創られている。【鈴鹿峠】も三重県と滋賀県の県境の鈴鹿峠を模している。そこに住んでいるのは【鈴鹿御前の末裔すえ】とその【眷属】たちだ。


 あきらの【鬼道・回覧伝聞かいらんでんぶん】の警告を聞いた律鹿が協力を願い出てくれた。


 戦闘が予測される場合や確定している場合は、【闘戯とうぎ結界】を【夜狩省よがりしょう】へ要請する義務がある。この【結界】は【結界内部】での破壊行為や損壊物などの事象が【結界解除】後には無効化される。【結界】を展開するのも解除するのも【結界術】が使える【術師】しかできない。


 基本は【夜狩省】が【鬼道衆・土御門】の【陰陽師】に【結界術】の【緊急依頼】を出して【結界】を展開してもらう流れだが、現在【鬼ヶ島】には【鬼道衆・裏高野】の【僧侶】である洸がいるので、【結界展開】はこちらのタイミングでいつでもできる【アドバンテージ】がある。


 最澄「黒竜こくりゅう法師(洸の僧名)、観光者たちが【結界展開】範囲外へ出たのを確認しました」


【最澄】は【和御魂にぎみたま(静の【りょく】)】の【権能】である【補助系能力・探査】で【敵】の進路と観光者の避難状況を知覚している。


【闘戯結界】は、【結界展開】後は【結界】内部から外へ出ることができない。また外から【結界】の中へ入ることも不可能だ。


 洸は【念話】で【結界展開】を伝える。


【茨木童子の城】を中心にそれを囲って周辺に不可視の【闘戯結界】が八芒星状で展開された。【結界】の形状は【術師】によって異なる。一般的には円柱状や立方体状に展開するが、【鬼道】──────────【東洋】の【術】、【西洋】では【魔術】に当たる──────────に長けている者ほど複雑な【形状】を描いて展開する。


 朔「【闘戯結界】に【八方陣】のかよ」


 気合い入ってるな、とはじめは洸が本気で討伐する気になってることを悟った。


 洸が展開した【八芒星】には【八方陣結界】が組み込まれている【二重ふたえ結界】である。【八方陣結界】は点を結んで発動させる【方陣結界】の1種で、3点を結ぶ【三角結界】、東西南北の四点を結ぶ【四方結界】(別名【四神結界】)がオーソドックスである。この【方陣結界】は【方角】に置いた点を結ぶので最大で12点の【十二支結界】も含めて6種ある。【八方陣結界】は東西南北に北東、北西、南東、南西の【八方】の点を結ぶ【方陣結界】だ。点が多いほど難易度が高い。その分、【結界】の効果も優れモノになる。


【八方陣結界】は別名【聖結界】と呼ばれる。この【八方陣結界】の中は完全に【外界】から切り離された【異世界】になる。これは【疑似異世界】と呼称されている。この【疑似異世界】での事象は全て【隠滅】される。つまり、ここでの戦闘行為や【闘戯結界】が展開されたことまでも全て【証拠隠滅】してしまう。


 いわゆる『ここだけの話』というわけだ。


 桂「準備がいいな………対【妖魔】は【戦闘】後の必要がある。【八方陣】は効果があるから正しい選択だ」


 桂は、【夜狩省】任せにしたら【八方陣】が使える【術師】は絶対に確保できなかったと言う。


 現在、【陰陽道】は人材不足している。【陰陽道】の頂点である【土御門家】は、子孫が【陰陽道】なんて古いと言って後継ぎがいない切羽詰まった状態だ。それ故、【土御門家】には【八方陣結界】が使える【結界師】がいない。


 玲鵺「洸は性格には問題があるが、【鬼道】の実力は【英雄級】か【伝説級】。【妖魔】の【残波ざんぱ】に備えた盤石の布陣だ」


 玲鵺れいやの前半部分が余計なひとことだったので、洸から鋭い目つきで睨まれる。


【妖魔】との戦闘時には、討伐後の【残波ざんぱ】というものに警戒しなければならない、と【夜狩省】から注意勧告されている。


【残波】というのは、【妖魔】の内部に残った【りょく】の波動である。


【妖魔】たちは、己が消滅する瞬間に【体内】に残存する【りょく】で【自然災害】を起こす。【りょく】の残存量によって規模は異なるが、周辺に【災害】がもたらされる。


【残波】を撒き散らす理由は、【妖魔】の【王】である【妖主・鬼陸之王きくがのみこと】の【目醒め】を促すのが目的と考えられている。【鬼陸之王】は約ニ千年前に【封印】されて以来、その姿はおろか気配さえ確認されていない。既に朽ちている説もあるが、それでは【残波】を撒く意味がわからない。


 ふと、廊下が騒がしい。【忍】の耳には若者が情けない声をあげて騒いでいるのと、それを叱咤激励する女の声が聞こえている。


 比勇「避難に遅れた観光者がいたのか?」


 比勇ひゆうがそう言ったのは、この【茨木童子の城】内でだからである。逃げ遅れた観光者をここで保護するつもりで連れて来たと思っている。


 桂「この声は………!麻衣那あいな嬢の友人の声ではないか?」


 桂は玲鵺に聞く。【鬼神族】の玲鵺にも声は聞こえている。


 玲鵺「………【猫叉】の少年とその【花嫁】の声ですね」


 玲鵺は、肯定する。【猫叉】は【感知能力】が鋭いから【鬼神】との力の差をダイレクトに感じとって萎縮する傾向にある。あの【猫叉】の少年は、軍を抜いて【感知能力】が高いのでここに着くまで失神しないだろうか、と考える。


 朔「【猫叉】だと?あの一族は、【感知能力】がぶっ壊れ使用だぞ。【鬼神族】の根城に連れて来たりなんかしたら、気絶モンだな」


【前世】では【山の民の王】だっただけあって、朔は元は同じ【山の民】の【猫叉族】のことは熟知している。


 洸「【猫叉族】がいるのか?それは使えるな」


 洸は自身の【感知能力】の無いデメリットを【猫叉族】なら補うどころか、【センサー】や【レーダー】の役を充分任せられそうだと考えていた。


 玲鵺「………使える………といいな………」


 玲鵺は、洸、朔、桂を見て【猫叉】の少年

は発狂しないだろうか、と不安を覚えた。


 玲鵺「朔センパイはともかく、桂センパイと洸が………大丈夫だろうか」


 朔「おい!俺はともかくって、どういう意味だ!お前、いつものことだけど俺センパイだからな!ちょっと言葉のチョイス考えろ!」


 朔はないがしろにされていることを指摘すると、玲鵺は今の『ともかく』は貶しているわけではないと言った。


 玲鵺「朔センパイは、元【山の民の王】なので、【猫叉】の少年もそれほどビビらないと思います」


 朔「ああ………そっちの『ともかく』だったか」


 朔は『ともかく』の意味を理解した所で、確かに桂と洸は【前世】ヤバいな、と同意する。


 程なくして、バアンと勢いよくドアが開いて【猫耳】少年を小脇に抱えた朱貍しゅりが入って来た。


 洸「えっ!猪貍いのり!」


 なぜ、ここに猪貍がいるのかと思った洸に桂は別人だと言った。


 桂「そっくりだが猪貍ではないぞ………もしかして【酒呑童子】殿か?」


 桂は【前世】が【太乙真人たいいつしんじん】という【古代中国】の【神仙の者】だったので、【霊査】(【チャクラ】が自身が知る人物に該当するかを視る)ができる。【霊査】を試みた結果、猪貍に似ているが猪貍より濃度の高い【神通力】を感じとって別人と判断した。


 朔「朱貍さん、このロン毛がうっとうしいのが桂で、そっちの【生臭坊主】が洸だ。りょうの息子たちだ」


 紹介の仕方に物申したい所だが、朱貍の名前を聞いて桂と洸は、まさかの土下座をした。


 桂「その節は、アホな父上が大変なご迷惑をおかけして申しわけありませんでした!」


 洸「頭の沸いた父上がヤラカシて申しわけありませんでした!」


 兄弟揃って、父親の評価がヒドい。


 朱貍に抱えられた【猫耳】少年は、何事だろうと土下座している桂と洸を見て悲鳴を上げた。


 猫耳少年「ヒッ!ひえええぇぇぇー!」


 お助けを、と手足をバタバタさせて暴れているが流石は【鬼神族】の腕力だ。朱貍はがっちりと抱えている。


 朱貍「少年よ、そう暴れるな………ええっと、燎殿の御子息たちオモテを上げて土下座を解除してもらえんだろうか」


 暴れる【猫耳】少年をあやしてから、朱貍は桂と洸に立ってくれと頼む。


 桂と洸は立ち上がったが、國光くにみつ貴輔きすけ伊角いすみは事情を知らないのでいきなりの土下座に完全に引いている。


 このままでは、桂と洸は【鬼神】を見たら土下座する人と思われそうだと感じた【空海】が、ザックリと【水戸家】の3人に理由を話した。


 國光「【鬼神】の【角】を折った………」


 貴輔「片方折るのに【英雄級ハンター】数名でも大苦戦するのに………」


 伊角「たった3人で、しかも2本………」


 息子が尋常でない【ステータス】だから、当然親もそうだろうとは推測していたが予想と事実を聞くのとでは大違いを実感した。しかも内ひとりは後輩の刹那せつな久遠くおん兄弟の母親だ。


 國光/貴輔/伊角「刹那と久遠は、怒らせたらヤバいな」


 意見が一致した。そして朱貍に抱えられて暴れている【猫耳】少年に視線をやると、見知った顔だった。


 貴輔「ひょっとして、猫居宙広ねこいそらたか!」


 伊角「ハチの双子の兄だったか弟だったか?」


 どっちだっただろうと、伊角が思い出そうとしていると【猫耳】少年が兄ですと答えたので、幾分か落ち着きを取り戻したようだ。


 國光「ハチ子の兄貴か!………猫耳!男の猫耳は、あんまカワイくねえな」


 誰得だ、と國光は言っている。


 朔「ミッツ、そう言うな。こういうのが萌えとか言う女もいるんだよ」


 おお結構、美少年だなお前、と朔は猫居少年の顔を見て感想を言って、いつまでも少年呼びは不便なので名前を聞く。


 宙広「猫居宙広ねこいそらたです………って、【王様】!」


 宙広は、今度は声を裏返して驚く。


 朱貍「悲鳴上げたり、驚いたり、忙しい少年だな」


 朱貍の言うとおりである。


 そこへ、宙広の頭にゲンコツが落ちた。


「うるさい!そして、恥ずかしい!」


 みっともないから少しは落ち着きなさいよ、と宙広と同年代の大人びた少女が言った。先程のゲンコツは少女がやった。


 朔は、その少女をよく覚えていた。玲鵺の【花嫁披露】の【宴】で【妖狐族】の狐月こげつを殴っていた【猫叉族】の【花嫁】だ。


 宙広に自分と少女の紹介をしてもらおうと朔が考えていた時、忍武しのぶの驚いた声がした。


 忍武「ああっ!『梓2号機』!」


 本人前にして言うか、と朔は呆れた。


 洸「何!梓がいるのか!」


 妹の名を聞いて、クワッとなっている『重度のシスコン』洸に、桂は『あずさ2号』って歌あったな、とズレたことを言っている。


「えっスゴイ!なんでわかったの?私の名前が『上総()』って!」


 聞き間違えで自分の名前を言い当てられたと思っているので『2号機』は聞き流されているようだ。


宙広「いや………何か名前の後に『2号さん』って付いてたよ?」


 宙広のほうは、ドエラい聞き間違え方をしている。


 朔「宙広、『2号』は聞かなかったことにしろ」


 そう言って、朔は朱貍に運んでくれて(?)ありがとう、と言って下ろしてやってほしいと頼んで宙広は、やっと自分の足で立つことができた。


 宙広「あの………【王様】ですよね!【山の民の嶽王みたけおう様】ですよね!」


 本物だ、1番下っ端だけど抜け駆けで謁見できた、とものすごく喜んでいる。


 朔「嶽王って呼び方は………お前【大ヤマネコ】の子孫か!」


 朔は、【猫神族】の【長】を思い出す。


 宙広「曾々ジイちゃんです!今も元気ですよ」


 朔は、アイツ玄孫までいるんだな、と昔の知り合いを懐かしんでいる時、宙広の【花嫁】が怒声を浴びせる声がした。


 上総「アンタ!どの面下げて麻衣那の前に出て来た!」


 上総は、狐月を視界に入れるや否や掴みかからんばかりの剣幕で詰め寄っていた。間に忍武が割って入っているので、掴みかかれないがドギツい口撃を浴びせている。


 忍武は、狐月を連れて戻ったのである。巨漢の忍武で狐月の姿が見えなかったが、忍武が少し動くか上総が動くかすれば狐月の姿は確認できる。上総は、自分の名前を言い当てられたと勘違いしたまま忍武に理由を聞こうとして近づいて狐月の姿を視界に捉えたのであった。


 その様子に、桂がなるほど『梓2号機』ウマイなと感心しているが、感心してないで止めたほうがいいのでは、と國光は思う。洸は、名前の発音まで梓に似てるな、とシスコンはアテにできない。


 玲鵺は、麻衣那を狐月から遠ざけるのに一緒に自分も遠ざかっているので、最初から止める気がない。


 比勇「君たち、喧嘩は後にしなさい。今それどころじゃないのだぞ」


 今回ばかりは空気を読まずに止めに入った比勇の勇気ある行動を心の中で、よくやったと称える。


 上総「オジサンは黙ってて!」


 頭に血が上っているせいか、巨漢の比勇を前にしても怯むどころか黙れのひとことを突き刺す。


 比勇「桂よ、梓さんよりあの娘のほうが強いぞ」


 言われたとおりに黙って比勇は、お手上げを告げる。


 上総と狐月の間には忍武がいるので、上総の安全の保証はある。間に挟まれた忍武は不運と言うしかないが、上総の気が済むまで口撃させとこうと結論づけた時、意外な人物により上総は大人しくなる。


 宙広「上総、もうそこまでにしよ」


 上総「宙広、無理だよ。コイツは麻衣那のこと………殺人未遂なんだよ」


 上総は、あのオトコマエな【治癒師】のお姉さんのお陰で助かったけれど、間に合わなかったらと考えては恐怖で震える悪夢にうなされる日を送ったのを思い出したら、本当に狐月が憎たらしい、と吐露した。


 宙広「そうだね。俺も、同じだよ。一緒に乗り越えよう」


 宙広は上総に手を差し伸べる。上総は、大人しくなって宙広の手を取った。上総の内面の気持ちはわからないが、もう狐月への関心はなくなったようだ。そして、緊急事態に騒いでごめんなさい、と謝罪した。かなり気の強い性格で猪突猛進気味だが、筋の通った人物のようだ。


 朔(尻に敷かれているかと思ったが、【花嫁】の扱い方は悪くないな………)


 朔は【花嫁】に躾が必要かと考えたが、今のやりとりで不要と判断した。


 静まり返ったタイミングで律鹿りっかから【念話】が届く。洸は律鹿に【金属性】の【鬼道】で全員に聞こえるようにする、と言った。


 洸「【縛道・念話飛語ねんわひご】」


【念話】が全員に聞こえるようになった。更に全員が【念話】で話すこともできる。例えるなら【グループチャット】のようなものだ。


 律鹿『『ターゲット』は、計画どおりに進行しています』


 律鹿が言うには、道順がわかっているかのように迷うことなく【茨木童子の城】を目指しているそうだ。


 律鹿『【下級妖邪ようじゃ】ですらせず、まっしぐらに【茨木童子の城】への順路を進行しています』


【下級妖邪】というのは、露払い役をする使い捨てられる【下級妖魔】だと律鹿は説明する。


 朔「する気配はないのか?ソイツら底なしのアホだぞ。言葉は通じないし」


 散々な言い用だが、事実のようだ。朱貍がうんうん、と頷く動作をしている。


 律鹿『実は………先程、凄まじい怒気を感じたのですが………』


【妖邪】はその怒気に引かれたのと、十鎖ターゲットが正確に【茨木童子の城】までナビゲーションしていると律鹿が告げた。


 一同は、上総を見る。『怒気』というのは間違いなく先程の荒い剣幕だった上総だ。上総が狐月に怒りの矛先を向けた行為が、思わぬ所で効果を発揮していた。


 桂「朔、律鹿殿を呼び戻していいのではないか?」


 桂は、麻衣那に聞こえない声量に下げて【妖狐の元嫁】がナビをしているなら、誘導せずとも自力でここまで辿り着くと言った。


 そうだな、呼び戻すかと朔が考えた時「ひえええぇぇぇー」とあんまりカワイクない悲鳴が聞こえた。


 何事かと悲鳴のほうを見ると、洸が宙広に接近して宙広は腰を抜かしてガタガタ震えている。


 この光景、最近どこかで見たな、と朔は記憶を手繰る。【空海】が麻衣那に急接近して悲鳴を上げられていたのを思い出した。


【裏高野】は人を驚かすのが好きなのか、と朔は呆れる。急に情けない悲鳴を上げて尻もちをついて、醜態を晒している宙広を上総が引張り上げて立たせようとしている。


 上総「だらしないわね!アンタ今日はどうしたの?悲鳴ばっかり上げて、情緒不安定?」


 かなり気が強く向こう見ずな気性の娘だが、情けない宙広の姿を見ても見捨てるどころか私がしっかりしないとと考えてそうな行動の上総の姿に朔は感心した。


 女の子の腕力ではキツそうだと察した洸が立ち上がらせるのを手伝おうとしたが、宙広がめっちゃ涙目になっているのを見兼ねてか麻衣那に頼まれたのか、玲鵺が反対側の腕を引いて立ち上がらせた。その間、宙広は白目を剥いていたが悲鳴を上げることはなかった。


 洸「俺の時とリアクションが違う………だいたい玲鵺!お前、他人に手を貸すキャラじゃねえだろ!」


 不機嫌に玲鵺へ突っかかる洸を上総は勇者に遭遇したような目で見た。


 上総「若様、この超イケメン王子、お知り合いなんですか?」


 美形は宙広や玲鵺で見慣れている上総を以てして、洸の容姿は王子系イケメン判定だった。


 宙広「上総!こちらの御方は粗相しちゃダメだよ!」


 玲鵺「気遣いは不要だ。この生臭坊主は俺の高校の同級生だ」


 生臭坊主で上総は洸が【僧侶】だと初めて気づいたようだ。


 上総「えっ!お坊さん!カッコイイ!芸能人みたい!」


 宙広のリアクションで少し不機嫌だったが、色恋の感情抜きでカッコイイと言われて洸も悪い気はしなかった。幾分か気分が穏やかになっている。


 洸「猫耳!お前、【猫叉】なんだな!」


 また腰を抜かされては話が進まないので、肯定は頷いて、否定は首を横に振ると洸は指示した。


 宙広はコクコクと頷く。


 洸「よし、『レーダー』係に任命する!」


 重要な箇所を省かれているので宙広は、返答に困る。しかし、宙広の優れた【知覚】で判った眼前の【鬼神】より恐ろしい存在を怒らせてはならないと心の板挟み状態だ。


 玲鵺「お前、いきなり『レーダー』になれと言われても納得するわけがないだろう!」


 玲鵺は、知らん顔をしてもよかったが宙広は麻衣那の友人なので、見捨てるのはあまりにも不義理だと割って入ったのだった。


 洸「お前、本当に玲鵺か?他人を庇い立てするとか、ありえねえ………」


 その点は宙広も同感だった。庇ってくれた玲鵺には失礼だが、元の玲鵺は困っている者がいても我関せずの態度だった。しかし、麻衣那あいなという【花嫁】が現れてから玲鵺は変わった。【鬼神族】から見れば、下っ端の【ペット】のような存在の【猫叉族】だが麻衣那の友人という理由で宙広とその【花嫁】の上総に限定で、社交的になっている。


 朔「洸、【猫叉】は【感知能力】が高いんだ。お前のにビビってるんだよ」


 交渉は代わりに引き受けるから、お前は離れていろと言って朔は洸を宙広から遠ざける。


【本性】を持ち出されては洸も納得するしかないので、あとヨロシクとあっさり引き下がって行った。


 朔「悪かったな………洸は俺の従兄弟だ。俺の血縁者だから敵に回ることはない」


 朔は宙広に洸に潜在している存在が牙を剥いて襲いかかることはない、と説得を試みる。


 宙広「【王様】がそう言うなら………わかりました。でも、あの人………今は【人間】だけど本来は【竜種の王族】ですよね!【ブレス】でしないか超怖かったんです!」


 涙目で訴える宙広を見て、【感知能力】が高すぎるのも考えものだな、と朔は同情しながら宙広の言葉にはっとした。玲鵺も驚いた表情をしているので朔と同じことを考えているのだろう。


 朔「宙広、お前洸が【竜王の子】の生まれ変わりだって判るのか?」


 これは結構重要なことだ。【竜種】というのは【神仙】で【種族】のカテゴリーで分けられている【別格存在】なので、【感知】しても【竜種】としか判明しない。


 宙広「ええっと………【竜公】って言い方するんでしょうか?あの人、【黒竜公】ですよね」


【黒曜石】のようなキレイな【鱗】がキラキラして見えた、と宙広は告げた。


 玲鵺「なるほど、それで【ブレス】で溺死と言っていたのか」


【北海黒竜王(洸の前世)】は【水】を司る【水竜】だ。【東洋】の【竜】が【ブレス】を吐くのは聞いたことがないが、宙広は【水】の【黒竜】だと見抜いていた。


 朔「予想を上回る【感知能力】の高さだな」


 桂の提案どおり、律鹿に尾行を引き上げる指示を朔は出した。


 上総は、宙広の袖をクイクイとして朔とどういう関係か聞いている。


 上総「すっごい超絶美形!どういう関係!何か知り合いっぽかったよね!」


 宙広「上総ぁー………野生味がある人がタイプなのか?俺頑張って褐色肌になるまで日焼けするから!」


 褐色肌が野生味の最低条件ではないと思うのだが、情けない姿ばかり晒していた宙広そらたは上総に捨てられる心配をしだした。


 上総「褐色肌になってもチュウタは変わらないよ。ヘタレのままだよ」


 実際、ヘタレだがストレートに言い過ぎだろ、と朔は宙広そらたが気の毒になってきた。


 上総「それに、ヘタレじゃなくて手がかからなくなったら、もうチュウタじゃないね」


 なんだかんだ言って、ヘタレの手がかかる宙広がイイと上総が言いたいのはわかった。


 宙広「あの………【王様】、俺の【花嫁】を紹介させてもらえますか」


 状況的にどうなのかと思って伺いを立てる宙広にいいぞ、と朔は返事した。


 朔「俺も紹介してもらわないと、いつまでも『宙広の嫁』と呼ぶしかないからな」


 宙広が、『宙広の嫁』イイ響きと感動しているので朔は先んじて自己紹介をした。


 朔「陵朔みささぎはじめだ。職業は【刑事】。【忍ギルド・風魔】所属。先代の【頭領ギルドマスター】だった。【前世持ち】でな………宙広の玄祖父(曾々お祖父さん)の古い知り合いだ」


【猫叉】の【花嫁】なら【前世持ち】で話が通じるだろうと、包み隠さず話した。


 上総「ええっ!じゃあ、結構なお齢………ああ生まれ変わってるから見た目どおりのお齢なんですか?」


 上総は最初は宙広の玄祖父の古い知り合いと聞いて、千才は超えていると思ったようだが【前世持ち】という言葉を思い出して、引き継ぎ転生しているんだと理解しているようだ。


 上総「刑部上総おさかべかずさです。漢字は刑事の【刑】に部活の【部】に上下の【上】に房総半島の【総】です!」


 わざわざ漢字まで教えるのには何か意味があるのだろうか、と朔は考えて気づいた。 


 朔「スゴイ名前だな!名字も名前も昔の【官職名】だ」


 上総「でしょう!祖父母が時代劇好きで、【刑部】なんて名字だから下の名前もそれっぽいのにって付けたらしいです」


 どうやら、昔の【官職名】とツッコミが欲しかったようだ。しかし、両親は男の子が欲しかったのかな、と朔は想像する。どう考えても【上総介】と予定していたが、生まれたのが女の子だったので【介】を外した気がしなくもない。


 朔と上総は会話が弾んで、朔が玲鵺の高校の先輩だということまで上総は聞き出していた。そして、洸は飛び級スキップしているから玲鵺と同級生でも年齢は玲鵺の3才下だと聞いて上総は納得した。


 上総「【アラサー世代】にしては若すぎるなあって思ったんですよ!」


 宙広「【王様】と随分、仲良しになったね、上総」


 お家に帰ったら【王様】とお近づきになったと自慢するつもりでいたのに、と吐露するがショボい野心ねと上総に鼻で笑われていた。


 上総「そんな小っさいことより、【王様】と一緒に闘ったって言うほうがカッコイイよ」


 宙広「えっ!カッコイイ!俺、やる!【王様】、『レーダー』でも『スカウター』でもやらせてください!」


 朔「コイツ、結構チョロいな」


 しかし、『レーダー』役を宙広にさせようとしていた目論見は上手くいった。



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 戦の前に和んでいる感じですが、新キャラの人物設定を伝える為に1話使いました。


 何気に【水戸家】には『うっかり八兵衛』ポジのキャラもいますというネタバラしもしてます。



 

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