第陸章  逆襲花嫁事変〜人工転生戦士〜

【人工転生戦士】とは文字通り人工的に造られた【転生戦士】だ。【人造人間】に似ているが、全身を【人造】するのではなく【ヒトゲノム遺伝子】を【移植】して造られる。


 尚、使用される【ヒトゲノム遺伝子】は【英雄】【偉人】など歴史に名を刻む傑物の【遺伝子情報】だ。


 この【ヒトゲノム遺伝子】は、【風魔十二番隊・隊首】の【隊長】氷疋圭ひびきけいが大学生の頃に研究対象として着手したのが始まりだ。


 氷疋圭は、【研究者】としては非常に恵まれた環境にいた。どれほど素晴しい研究も、金銭が工面できずに頓挫するが、氷疋圭の父親は先祖をたどれば【公家華族】の由緒正しい【財閥資産家】であり、【第三代日本国王】だった。潤沢な資金、【王族】という立場で何不自由なく好きな研究ができた。また、氷疋圭自身が類稀なる【天才的頭脳】の持ち主であったことから、彼の【ヒトゲノム遺伝子】の研究は世界中から注目され、当時【国王】だった実父は最初の【人間】への【ヒトゲノム遺伝子】移植を【国王】の後添え女性が産んだ【王子】すばるを指定した。


 己の子を失敗率が高い最初の【実験体】に指定したことを世界中の研究者や評論家は、【日本の国王】の身内の犠牲を厭わず研究に貢献する姿を立派だと褒めそやした。【第三代国王】が我が子を最初の【実験体】にした理由はわからない。しかし、【日本の国会】では依然支持率を維持し続け権勢と発言力がある【初代国王】への対抗心だと囁かれた。


 最初の【実験体】氷疋昴に移植された【ヒトゲノム遺伝子】は、【剣神】【剣聖】【剣王】など【剣術】に優れる者に与えられる称号で呼ばれ続けている生涯無傷、生涯無敗の伝説を残した【塚原卜伝つかはらぼくでん】である。


 結果は成功を修めた。しかし、昴が【古代中国史】で語られる【聖者】が始まりの【前世】である正真正銘の【転生戦士】ということは、知られていない。


 つまり、【転生戦士】に【ヒトゲノム遺伝子】を移植したことになる。世界最初の【ヒトゲノム遺伝子】移植は、言い方が悪いが出来レースだ。【転生戦士】に【ヒトゲノム遺伝子】を移植した前例はないが、失敗しても元が【転生戦士】なので結果は成功になる。しかし、セコい考えからの【人体実験】だったが【塚原卜伝】の【記憶】は継がれずとも、【塚原卜伝】の最強と言われた【剣術】と【剣技】は昴に移植されていた。


 洸「偶然にも、【人造モノ】だが【柳生十兵衛】vs【塚原卜伝】のだったんだな………あの一戦は」


 あきらは、【鬼道衆首席】であり洸の【兄弟子】でもあるおみに【宴】での出来事を報告しに【裏高野】へ行っていたので、その一戦を見逃した。


 洸「昴と十鎖じゅうざの決闘見たかった………えっらそうにマウント取って満悦してる十鎖が昴に手も足も出せずにボロッボロに負かされた惨めったらしい姿を見逃したのが悔やまれる」


 朔「お前………本当に見たかったのは後半だろ」


 何なんだその悪意に満ちた悔しがり方はと、朔は素子に気を使えと注意するが素子は、洸は十鎖に恨みがあるからその言い分は当然だと理解がある。


 素子「【高野聖】を20人斬り………だったか。罰当たりな奴め」


 十鎖は、宗典むねのりから【柳生武藝帳】奪還の主導権を任される前は、【隠密】で細々と【柳生武藝帳】に記載されている【門弟】たちの口封じをして回っていた。


 しかし、自己顕示欲が強い十鎖には人知れず忍んで活動するということは、フラストレーションが溜まる。それが耐えきれる範囲を超えた時、十鎖は兇行に走った。


【柳生武藝帳】に名が記載されていた【門弟】を探して【裏高野】へ来た時に、外界から閉鎖された【仏門】の世界が十鎖の兇行を加速させたのか、結果20余名の【僧侶】が惨殺された。


 臣は、【奥之院】で【宴】の出来事を報告に来た洸を迎え、そこを住居にしている【荒神あらがみ・空海】も加わり、洸から【柳生武藝帳】が盗まれ【柳生】の刺客が【裏高野】にいる【柳生門弟】を口封じに来ることを知らされて、彼らの身の振り方をどうするかを見当していた。


【柳生門弟】の者が、日本国内では数少ない【聖地】(霊的な意味)の【高野山】を血で汚さない為に、出て行こうとすることを予想して臣は【柳生】の手が届かない場所へ匿うことを考え、【最澄】が管理している【異域】に避難させる所まで話がまとまっていた矢先の出来事だった。


 洸は、刺客の動きが早すぎると不信感を持った。【柳生門弟】の口封じではなく臣の暗殺か──────────臣は【初代国王】の子つまり【王子殿下】だ──────────と別の考えが過ぎり、それを伝えるとどちらとも取れることから、下手に動けなくなった。


 惨劇が終わった後、犯人は立ち去り20余名の【僧侶】が兇刃の錆になった。惨殺された【僧侶】の内2名が【柳生門弟】であった。他の犠牲者たちは、庇って戦闘になり討たれたかと見られたが、正面の拝み斬り(頭上からの斬り下げ)や背中の袈裟斬り、逆袈裟斬りなど問答無用でいきなり斬られたとしか見えない状態だった。


【空海】が【水鏡の術】で犠牲者一人一人の死の直前を映し出すと、に斬り殺されていたことが判明した。 


 洸は、自分が暗殺を疑うなどの見当違いをしたせいでこうなったと自責の念に駆られ、は必ず水戸國光みとくにみつの行き先に現れるから【鬼ヶ島】へ行くと、勢いで来た。【空海】は、頭に血を上らせた洸のお目付け役をする為に付いて来た。もっとも、そんな様子はおくびにも出さず悟らせない。


 朔「つまり、2名の【僧侶】だけを始末するだけだったのに、その10倍の【僧侶】を手に掛けて来たってことか」


 朔は、念の為にと【人工転生戦士】製造失敗の後遺症か、と素子に訊く。朔は、表向きは刑事だが【医師免許】を持つ刑事だ。専門は【基礎医学】──────────【病理学】【法医学】など──────────である。【人工転生戦士】は、【基礎医学】か【臨床医学】かの2択だと【基礎医学】になる。つまり、朔は専門分野なので聞くまでもないが聞いていた。


 素子「意地の悪い質問をする。失敗の後遺症は【成りそこない】の【異形の化物】になるだろう」


 素子の言うように、失敗の後遺症は【異形の化物】になって【人間】ではなくなってしまうので、『討伐対象』だ。


 朔は、十鎖を討伐する為の言質を取りたかったと言って、詫びの言葉を素子と暁魚に告げた。別居しているので、事実上では離縁のようになっているが籍は抜けていないので、暁魚にとっては十鎖は義弟になる。暁魚は、迷惑なので認めたくないが。


 素子「しかし………十鎖はなぜ【覚醒】した?が生まれ変わっている以上、【覚醒】はあり得ないのだろう?」


 実は、【柳生十兵衛】は【転生】している。自然の摂理による【輪廻転生】なので【魂魄】の【浄化】をされて記憶がリセットされたまっさらな状態である。


【ヒトゲノム遺伝子】を研究し続けていた氷疋圭の更なる探求により、【変生へんしょうの者】──────────生まれ変わりの【転生者】──────────がいる場合【二重存在ドッペルゲンガー】の現象で言われる偽物(造り物)は本物に吸収されるというのが適応されて【人工転生戦士】ではなくなると解明されている。


 朔「【五代目小太郎紅蓮2廻目の俺】だった頃に、【柳生十兵衛】が【柳生十兵衛】と相討ちで両者死亡したのを見ている」


 それは、朔の【前世】での出来事だ。【柳生十兵衛】は【柳生十兵衛】と相討ちによる討ち死にだった、と朔は言い切った。


 素子「【裏柳生】の【頭】をしていた十兵衛の双子の弟、【柳生十壱兵衛じゅういちべえ】のことを言っているのか?」


【柳生本家】の秘匿事項で誰にも知られていない。家系図からも【柳生十壱兵衛】の名は消されている。それを知っているのは素子が、【柳生宗矩】本人だったからである。


 朔「宗矩は身罷った後のことだから、知らないのも無理はない。十兵衛は強すぎた。【三代将軍の江戸時代】に十兵衛を相手取れる者はなかった。まあ、【義仙ぎせん】がもっと早く生まれていたらそれなりにいい相手になっただろうがな」


【柳生義仙】は、十兵衛の【異母弟】だ。末っ子なので、かなり年齢が離れている。【時代劇】の【子連れ狼】に登場する【柳生烈堂】(出家後の名前)で知られる人物だ。【剣術】の腕は十兵衛と匹敵する実力だったが、気性に難があった。


 朔「【伊賀の世阿弥ぜあみ】の【忍術】で【並列世界】から【柳生十兵衛】を【転移】させて血闘した。【世阿弥】は【転移】で【チャクラ】を大量消費したせいで、【能】の【舞台】に穴空ける始末だ」


 朔が名を挙げた【世阿弥】は【能楽師・世阿弥】のことを指しているようだ。襲名なので何代目なのかは知らないが。歴史上、これが【転移術】だ。【能】という伝統芸能が【人間】の知恵で創り出された最初の【転移術式】だった。


 空海「そうだよ!【神】が関与していない正真正銘、【人類】初の快挙だぞ!」


【空海】は、【仏門】の出ではなかったことは少し残念だが【日本人】が世界で最初に【転移術】を【亜神】の手を借りずに成功させたことは、実に誇らしいとドヤった。


 洸が【転移術】の話は長引きそうだから後にしろ、と言って【並列世界】の【柳生十兵衛】とやり合ったってことでOK、と聞いた。


 朔「ああ。【転移】なんてオモシロ………もの珍しいことやってるから、直に見に行った」


 どうやら、直接見て確認しているようだ。最初に朔がオモシロイと言いかけたので、野次馬が本来の目的だったのだなと一同は理解した。


 洸「【空海】知ってたか?」


 洸の知ってたかが指すのは【並列世界】から喚んだ人物が、別の【並列世界】で死亡した事実のことだ。


 空海「【亜神】は【神】だが完璧ではない。【人間】独自の【転移術】に気を取られて、【並列世界】のひとつがどうなったか俺は全然、まったく、これっぽっちも気にしなかった」


 この【亜神】は大丈夫なのか、と【空海】の言動を問題視される中【空海】は【最澄】に知ってた、と聞いている。


 最澄「私の【権能】は【和御魂にぎみたま】なので、【並列世界】の改変には全く役に立ちませんが、【光神・コスモス】様と【闇神・カオス】殿が何やら口論になってましたよ」


 干与はしなかったが、【最澄】は【柳生十兵衛】が消えた【並列世界】の行く末は気にしていたようだ。


 洸「【コスモス】様と【カオス】が口論………【柳生十兵衛】がいない【世界】として軌道修正するか、【世界】そのものを無かったものにしてしまうかで割れたか」


【秩序】の【コスモス】は前者、【渾沌】の【カオス】は後者だろう。


【並列世界】は、概ね同じ事象が起こり同じ結果で終わり、同じ過去、現在、未来というのが【真理】だという。


 しかし、ひとつの【並列世界】でイレギュラーが生じた時はひとつの【並列世界】だけ異なる歴史が残る。


 空海「そもそも、何で【並列世界】から喚んだんだ?アレか!『オレを倒せるのはオレだけだ!』ってヤツ!」


【厨二病】を患った【亜神】は目も当てられないな、と洸は溜め息をつく。


 朔「空海くん、スッゲ!流石【神】だよ」


 洸「はあぁ!?そんなマンガみたいな理由!」


【厨二病】は【空海】ではなく【柳生十兵衛】のほうだったか。


 流石に素子も【前世】では親だったので、ソワソワして気にしている。


 朔「空海くんの言った通りだ。十兵衛の最後の言葉が『俺を倒しきれないとは情けない』だ」


 朔は、相討ちと言ったが正確には一方が先に息絶えて、残る一方は瀕死でまだ息があったが助かる見込みのない致命傷だった。どっちがどっちかは、十兵衛の最後の言葉で判断できよう。


 洸「で、一連のマンガネタのような出来事を聞かされただけにしか思えん話と【二重存在ドッペルゲンガー】の【ことわり】がどう関係する?」


 ここまでの話を國光は、マンガみてえと思って聞いていたが桂は納得する内容だったようだ。


 桂「おそらく、この【世界】では【柳生十兵衛】は2人存在していたことになっている」


【コスモス】と【カオス】どちらの意見が採用されたかは、わからないがこの【世界】は【柳生十兵衛】が2人存在した【世界】という認識になっている。


 國光「それって………その【並列世界】は【カオス】が消しちまったってこと………」 


 桂「例え【並列世界】が1つ消えていても、この【世界】に【柳生十兵衛】が2人存在したことに変わりはない。【時間】を司る【生神せいしん】【死神ししん】が手を加えて【柳生十兵衛】の血闘をにしていないのが、その証拠だ」


【生神・サクヤ】【死神・チルヤ】字面では【生】と【死】を司る【亜神】に見えがちだが、【生】とは【流動】動いている時間、【死】とは【静止】止まった時間あるいは終焉を意味する。この2柱は、元は【古事記】【日本書紀】の【神話時代】に記される【天津神】の【木花咲耶姫】がその正体である。


【天津神】から【亜神】では、グレードダウンの気がしなくもないが、【亜神】とて【神】なので実際はどうかわからない。だが、【サクヤ】と【チルヤ】は【時間操作】という強力な【神通力】が使える。そして他の【亜神】にはない【サクヤ】【チルヤ】の2柱が揃った時だけ可能な【上位神召喚】により【生命神・イワナガ】を【降臨】させて【生命】の【ことわり】を改変することができる。 


 最澄「おっしゃるとおりです。サクヤ姫、チルヤ姫はイワナガ姫の【召喚】をされていませんので【時間】的改変は、ないはずです」


 そして【最澄】は、私の愚考では【並列世界】から喚んだ【柳生十兵衛】をとしてこの【世界】で受け入れた、と告げた。


 最澄「【亜神】がその【権能】を使えば、【無】を【有】に変えることは訳無いことです」


 素子は思い当たることがある。


 素子「【柳生十壱兵衛】ですね」


【裏柳生】の【頭】だったにも関わらず、【柳生の家系図】から名を消された存在。【柳生十壱兵衛】は【家系図】には名が記載されていないが、【江戸時代】の【柳生武藝帖】に【島原の乱】鎮圧や【由比正雪の乱】の阻止などに貢献した記録が残っている。


 暁魚「だが、素子の【前世】の記憶に残っているのだろう?」


 暁魚は記憶にあるなら、【柳生十壱兵衛】は【裏柳生】という【影】の組織だから極力名が残らないようにしたのでは、と言う。


 朔「暁魚、【亜神】の【権能】ってのは【制約】で的を絞れば【江戸時代】の【柳生十兵衛】が生まれてから死ぬまでの期間の出来事なんて、簡単に上書きしてしまえる」


 だから【神】なんだ、と朔の言葉には実感がこもっている。


 桂「つまり、もっちゃんの【前世・柳生宗矩】の長男は【十兵衛】と【十壱兵衛】の【双子】だった」


 という風に上書き修正されているわけだ、と桂は納得した。


 桂「それなら十鎖は【人工転生戦士】失敗作ではないぞ。そもそも、【柳生十兵衛】ではなく、【柳生十壱兵衛】を人造していたんだ」


 桂の言っていることは、仮説の域を出ないが【亜神】が手を加えて『事象の一部』を改変しているなら、それは確定だ。



◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆



※本編で【能】を【転移術】に利用する描写がありましたが、『忍法帖シリーズ』の『山田風太郎氏』が元ネタのオマージュです。元ネタは【タイムスリップ】に利用していましたので、【転移術

】と若干変えてますが、問題にならないために記載しておきます。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る