第陸章  花嫁乱心の変 後片付け編〜判決決定〜 

【亜神】に【日本】の【天津神】が加わっていたことに、結構何でもアリだなとはじめは考えている。


 現在は、【善神】【悪神】が外れて【荒神あらがみ】【和神にぎがみ】が在籍している。この2柱は、元は【人間】の【僧侶】だ。


 シン「【妖狐】の【元花嫁】は、【異域・大原の箱庭ガーデン】にて【終身禁固刑】と考えている」


 どうだろうか、と【シン】は葛葉くずはに訊く。どうやら葛葉たち【古族】は、この為に【召喚】されたようだ。


 葛葉「【空気】代わりに喚ばれたと思うておったが、判決の『承知』『不承知』の為であったか」


【亜神】の成り立ちなど、葛葉には興味のない退屈な話だったので少し意趣返しの皮肉を交えている。


【古族】の中には、【亜神】と【同格】の者もある。ここに喚ばれた葛葉、朱貍しゅり律鹿りっか忍武しのぶは【亜神】と【同格】だ。もしかしたら、【神女】と呼ばれた【鈴鹿御前の元娘】の律鹿は【格上】になるかもしれない。


ヴァール「特に【酒呑童子の】、貴様の所の【花嫁】だ。異論があるなら聞き入れる」


 その口振りでは、【死刑】判決を求めても聞き入れると言わんばかりだ。


 朱貍「【花嫁】は『殺さないでくれ』と頼んでいたと、きのえ様から聞いた。俺個人の意見でよければ、甲様のお陰で助かったから【花嫁】の意思は尊重してやりたい」


 朱貍は、脳裏に玲鵺れいやの姿がよぎる。【血判】をもらう為に指先を少し突いただけで睨まれたので、この【判決】は気に入らないことだろう。


【鬼神族】の意見は聞いておくつもりなのだろう。【シン】は律鹿と忍武にも意見を求めた。


 律鹿「私は【神女】さえ無事なら異論はない。何しろ、私の父上以来の【花嫁】に【神女】だ。慶事を血生臭くしたくはないものだ」


 律鹿の父親の坂上田村麻呂さかのうえたむらまろは【武神】に【覚醒】──────────【花婿】の場合は【神人】と呼ばれる──────────していた。武人だったので【武神】なのだろうが、数々の武功を上げたことは歴史に刻まれている。


 忍武「俺は、律鹿様と同意見っす。律鹿様、アバズレ女がまた襲って来たら、次は消していいっすか?」


 後半部分は、完全に律鹿の命令待ちだ。『消す』ということは、物理的なアレになるのだろう。【古族】の【花嫁】には『貞淑』が求められるので、年若い忍武から見れば十代で男を手玉に取っていた愛美理えみりは『アバズレ認定』されていた。


 律鹿は、忍武に簡単に息の根を止めてはいけない、と手順を話している。長生きしているだけあって、なかなか残酷で物騒な内容を話している。


 朔「ドSだったか………」


 俺の周りドS率高けえ、と呟いた。


 すばるが挙手して、質問と言った。


 おみがおかしな発言しないだろうな、と言いたげな視線を送る。


 シン「【王族】の質問を無視するわけにはいかぬな。聞こう」


 昴は、ありがとうございます、と先に礼を告げる。問題のある性格だが【王族】だけあって礼儀正しい。


 昴「【神女覚醒】の謎ってわかりますか?」


 一同は、昴がマトモなこと言ってる、と驚いた。


 コスモス「それについては、【鬼道衆】が解明済みです」


 それが答えだった。【鬼道衆】は『研究中』と言っていたが、確信がなかったので断言できなかった。


 コスモス「あのタイミングでは、きのえの【治癒効果】から【覚醒】したように勘違いする者も現れそうなので、シンくん、ヴァールちゃん、助けてあげてくださいね」


 殊勝なことを言っているが、【シン】と【ヴァール】は【人間界】では【影の組織】のトップだ。『助ける』イコール『始末お願いね』と【秩序】の【亜神】だけあって、コスモスは中々手厳しい。


 昴「よろしくお願いします。うっかりあずさを誘拐した日には、そこかしこに………」


 影連「即死確定じゃ」


 昴が言い終わる前に影連かげつらが割り込んだ。


 朔「『ジジバカ』ヤメろ!恥ずかしいわ!」


 影連は、若い頃──────────正確には出会って一目惚れした時──────────の甲にソックリな顔の梓を孫の中で最も溺愛している。それは曾孫ができた今も序列が変わらない。【風魔】でそれを知らない者はない。昴の言った『死屍累々』に1番貢献しそうなのが影連だ。次点はあきらだろう。かなりヤバい領域の『シスコン』だ。


 甲「そんな馬鹿なことする奴いるかい?」


 甲は、けっこう呑気なことを言っている。影連が全力で潰してかかることを判っているからだ。


 将成「奥方………残念な脳みその人間は多いのですよ」


 既に予想できているのだろう、事が起こっていないのに疲れた表情をしている。


 ヴァール「それならば、【鬼道衆】から正式に公表すればいい。そのほうが影連が積み上げる【屍】より数は少ない」


 決して被害0《ゼロ》と言わないあたり、流石は【影の組織】のトップだけのことはある。


 コスモス「元々、洸が『死亡寸前の瀕死状態』まで自身を追い込んで【阿頼耶識あらやしき覚醒】に至ったのがキッカケです。【裏高野】が責任を持つべきでしょう」


【コスモス】は、【逆召喚】(本来は喚ばれる側が【帰還】前提で【召喚】すること)直後のイタいキャラは、すっかりナリを潜めて【秩序】の【亜神】の毅然とした態度になっている。

 

 朔「【裏高野】で『裏口エセ坊主』どもから、ヒドいイジメをされてたのか?」


 少なくとも洸ならやり返すことを知ってる上でのはじめの質問だ。洸なら、自身で『死亡寸前』に追い込んだ上で「コイツらにやられました」と嘘八百並べ立てるぐらいの返しをする。


 臣「お前が、洸をどう思っているかがわかる発言だな………だが違う。【裏高野】の【奥之院】に【荒神】様がだろう。俺も洸も【荒神】様と【契約】しているから、身の回りのお世話をさせてもらっている」


 お世話をする側がさせてもらっているというあたり、臣の【荒神】に対する敬意の深さが表れている。


【荒神】は世話をしてもらっている時に、【弘法大師空海】の頃の話や元服前の【真魚まお】の頃の話などを暇つぶしにしてくれた。その中には、【遣唐使】として留学していた話もあった。


【平安時代】の【留学】は船で海を渡るので、命がけだったという。【遣唐使】の船は4隻出たが、【唐国】に辿り着いたのは内2隻で【空海】が乗っていた船は途中、嵐による荒波で遭難して命からがら辿り着いた【唐国】では【海賊】の嫌疑をかけられたりと、踏んだり蹴ったりの波乱万丈な道のりだったらしい。


 嵐の中、船が荒波に呑まれた時は【死】を予感することが幾度もあったという。そんな中で【空海】は【末那識まなしき】【阿頼耶識あらやしき】の片鱗のようなものを掴んだ気がする、と話していた。


 それを聞いた洸は、「一度、死にかけてみよう」と実行したらしいので、なかなか頭のネジが幾つか外れているようだ。結果的には【覚醒】したので、『終わり良ければすべて良し』と本人談だ。


 影連「今の『平和な世』では、それが最良の方法じゃろうな」


 甲「私らは、戦三昧で【覚醒】したけど………【戦争】以外の方法があるなら、提示してやればいいじゃないか」


【起源の大戦】を戦いぬいた【英雄】の言葉は重く実感がある。朔は、孫の狂人じみた行動には言及なしか、と呆れていた。 


 匡「ですが、そうすることで『被害者』が出ることは確実です。【上位国民】という人種は【愚者集団】ですから」


 ここに【王族】という【上位国民】の頂点がいるにも関わらず、キッパリ言ってのけるあたり匡は肝の座った性格をしている。


 昴「そういう【上位国民】のは、殺っていいだろう」


 お前は【王族】なんだから、もっと言葉を選んでくれ、と臣は頭痛を覚える。


 将成「情報公開することは、俺は賛成だ。被害者については、する必要がある」


 将成まさなりは、必ず【実験台】に使われる【人間】【古族】【亜人種】は出てくるだろうと、ここまでは同意見だ。


 将成「だが、中には貧困で金銭が必要だから自ら【実験台】になる者、余命宣告をされて『どの道死ぬなら』と賭けに出る者もいる」


 任意で【実験台】になる者と、拉致誘拐されて無理矢理【実験台】にされる者との【ボーダーライン】を設けなければならない、というのが将成の言い分だ。


 朔「何気に見分けるのが難しいな………拉致されたのに、脅されて志願したと言わされたら何もできねえ」


 アホのくせに、悪知恵だけはしっかり機能しているからな、と朔は辛辣だ。 


 ヴァール「いっそ、大々的に『【実験体】募集』して集めるか」


 いや、【実験体】は字面がダメだろ、と朔は【実験体】の部分を変更するのを要求する。


 ヴァール「朔は見た目チャラ男なのに………意外とおカタイな………遙は、ノリで『いいね』とかやってくれるぞ」


【ヴァール】は遙の名を出して、遙が不定期で行う【強化合宿訓練】を利用しないか、と言い出したのを全員で全力で止めた。


 シン「ヴァール………【ターミネーター】を作りたいわけではないぞ」


 コスモス「ヴァールちゃん、ダメです!それ、は確実に【ターミネーター】ですよ」


【コスモス】が忍武を指して、彼のような【生物】が量産される、と力説する。確かに、【体格】【性能】で例えれば、忍武は【ターミネーター】そのものと言える。


 昴「えー!ウラヤマ!俺、それに参加したい!」


 なぜかノリノリの昴はスルーして、甲が【治験薬実験】として集めれば、と提案した。


 コスモス「それです!やってることは、【実験体】扱いで同じでも何か人の役に立ちそうな響きです!」


【秩序】の【亜神】的には【治験】も良い印象ではないようだが、成果を出しているのでギリギリ許容範囲といった感じだ。


 シン「話がまとまった所で、影連、甲、君たちが【宴】に参加していた理由を聞きたいのだが?」


 どうやら、【亜神】でも影連と甲が表舞台に顔を出した理由は知らなかったようだ。


 影連「てっきり判っておるものと思うておりました」


 影連は【亜神】はすべてお見通しと思っていて隠していたワケではなかったと言った。


 シン「【亜神】は万能ではない。出来る事と出来ない事があるから【神】の頭に【亜】の文字がついているのだ」


【全能神】にも判らなかったらしいぞ、と【シン】が言うので影連は甲に話してやれと言った。


 甲「ひのとの【神託】ですよ」


 甲は『世界唯一の【夢見】』である実妹の丁の呼びかけに応じた、と答えた。


 ヴァール「『丁姫』か………」


【亜神】が『姫』と敬称を付けて呼ぶほど、『【神々の寵愛】を受ける【比類子ひるこ】』は尊い存在のようだ。


 コスモス「『丁姫』の【夢見】を覗くことは、【亜神】の私たちにも許されていません。護衛役に私の【眷属】の者を付かせてますが、彼女たちにも【御家族】との会話は聞いてはなりませんと言い聞かせているので、私の元には甲とみずのえの2人と面会していたとしか報告がありませんでした」 


 プライバシー厳守ということだろう。さすがは【秩序】の【亜神】だ。徹底している。


 ヴァール「おい!お前、知ってたのか!」


 知っていて黙っているのは悪質だ、と【コスモス】に詰め寄るが面会を知っているだけで会話内容が皆無なのだ。


 甲「喧嘩しないでください!あなた方、年齢幾つですか!」


 甲の活入れに、【ヴァール】と【コスモス】はシュンとなって、ゴメンナサイ、とつぶやいていた。


 臣「奥方殿………お見事ですね………」


【亜神】を黙らせた上に謝らせた甲に、称賛の声をかけるが臣は心なしか自分の声が若干震えている気がしていた。


 シン「………では、『丁姫』から【神託】を聞いたのは、甲と壬の両名だけか」


【シン】は、平静に見えるが内心は緊張していた。言葉を発する前の沈黙で気分を落ち着けてから、ようやく声が出せた状態だ。


 甲「影連さんには話してますよ」


 だから同伴してるじゃないですか、夫婦ですよわかるでしょと、甲の視線が言っている。


 シン「夫婦で共有、素晴しいね。隠し事は良くない………同感だ」


 ちょっと調子が狂ってきたのを察して【シン】は甲に話を合わせていた。


 昴「甲バアちゃん、最強だな」


【亜神】を調子外れにした甲は、逆らってはイケナイ人のリストに入れておこうと昴は決めた。


 ヴァール「では、壬もまりに話したと解釈していいのか」


 毬とは、壬の妻だ。影連の母親違いの【異母妹】で【ドイツ】で生まれ育っているので『マリーア』という【ドイツ名】が本名だが、結婚の際に【日本名】の『毬』に改名した。


 甲「話していないと思います。まあ、『久々に丁に会って来たよ』ぐらいは言ったでしょうけど………」


 あの子、見た目『もやしっ子』で女みたいだけど、口が堅い所だけは男らしいですよ、と甲は褒めているのか、けなしているのか微妙なことを言っている。


 コスモス「つまり、『丁姫』の【御神託】は壬が口を噤むほどの内容だった、ということですね」


 甲の言葉の内容から壬は、誰にも内容を漏らしていない、ということだ。


 甲「ああ………でも、もうバレました。朱貍しゅりが【宴】で【神女覚醒】を話したじゃないですか」


 どうやら丁の【御神託】は【神女覚醒】だったようだ。因みに壬が気を聞かせて【宴】の参加権利を影連に譲ったのが影連の参加理由だ。


 甲「私たちが黙っていても、【神女】の存在は隠し切れません。バレる時期が遅いか早いかの違いです。叱らないでやってください」


 甲の言葉に【コスモス】は、そんなことしません、と答えた。


 シン「では、【妖狐族】【鬼神族】双方の合意を得た【判決】は、名雲愛美理なぐもえみりを【終身禁錮刑】に処す」


【生命】ある限り、愛美理は【大原の箱庭】から出ることを許されない。


 ヴァール「これは、あくまで【茨木の花嫁】の【殺害未遂】に対しての刑だ。ここからは、【神女殺害未遂】の【判決】になる」


【花嫁】と【神女】を別件扱いで【二重刑】にするようだ。この場合は、【死後】の【魂魄】をどうするかになるが、これは既に決定していたようだ。


 ヴァール「名雲愛美理は、【死後】は【破魂刑はこんけい】!これは最も重い刑だ」


【破魂刑】とは読んで字のごとし、【魂魄】を【破壊】する【刑罰】だ。破壊された【魂魄】は修復不可能。【魂魄】の【浄化】を許されず、【転生】も許されない。


 臣「重すぎる………とは言いません。あのような【人間】、二度と世に解き放ってはならない」


 匡「【人間】に【破魂刑】………初めて聞いた………」 


【鬼道衆】のツートップには、【破魂刑】がどういった内容か判っているようだ。ふたりから簡単に説明されて、非常に重い【刑】だと理解したが当然だね、と誰も同情しなかった。


 シン「ついては、名雲麻衣那あいなの両親も【大原の箱庭ガーデン】に【終身幽閉】とする」


 事実上一生涯、両親は麻衣那に会えない。


 シン「両親に関しては、死後は【餓鬼界】か【畜生界】のいずれかへ【異世界転生】することになる。【今生】はおろか、【来世】含め未来永劫【人間界】に【転生】することはできない」


 この世界での【異世界】は、【天上界】【人間界】【地獄界】【修羅界】【餓鬼界】【畜生界】の【六道界りくどうかい】を指す。他の【異世界】っぽい場所は【宇宙飛行士】の長年の努力と功績で、【火星】と【木星】でも【生物】が生活できることが確定されたが、【宇宙船】で物理的に行き来可能な【火星】と【木星】は【異星】であって【異世界】扱いにならない。尚、【地球】は【青い月】、【火星】は【紅い月】、木星は【緑の月】という【別名】が付けられている。


 臣「【餓鬼界】は子どもを親の行き先とされている」


 匡「【畜生界】は【ネグレクト】や【ドメスティックバイオレンス】を行った人物の行き先」


【鬼道衆】のツートップは【僧侶】だけあって詳しい。麻衣那の両親はそれらに該当しているので、この【判決】は妥当ということだ。 


【ヴァール】は、夫婦同じ【場所】へ【転生】させるぐらいは、助言してやろうと言っている。


【転生】案件は、【閻魔天】──────────【閻魔大王】の呼び名で有名な【神様】───────────の管轄なので、決定権を持つのは【地獄の閻魔様】である。 


 他に質問がなければ【人間界】へ戻す、と影連たちが【宴】の会場へ戻った時には、狐月こげつは将成の【ボディーガード】役の【英雄級ハンター】に背後と左右を固められて連行され、甲の【《治癒攻撃》】を受けた愛美理はヒステリックに騒いでいたが、【人間】側の【官僚】たちの【SP】に取り押さえられると、嗚咽の声を洩らすだけに収まって連行されて行った。



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【二重刑】という用語が出てますが、【二重刑】はプラス【魂魄】をどう扱うかが加算されます。【魂魄】の場合は死後なので、執行猶予付きではあるけれど必ず死後には執行されます。


 本作の【異世界】の概念は【六道界】になります。【過去】や【未来】や【並列世界】の人は【タイムトラベラー】ですが、本作は【異世界人】【タイムトラベラー】を一括りで【漂泊の者】にしています。

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