第陸章 妖狐の花嫁が破滅した日・結
回想シーンです。
暴力描写と残酷描写が後半部分にあります。
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壇上には
一同は、沈黙して一挙手一投足を傍観するだけだ。
【茨木童子の
更に【茨木の花嫁】は【神女】に【覚醒】した。危害を加えた者たちだけを【生け贄】にするだけでは済まないかもしれない。
律鹿『【
この【念話】は壇上の3人、
壇上では朱貍が律鹿に頷いて了解を示しているが、語彙力を心配されていることに気づいていないのだろう。
朱貍「まずは、個人的なことだが皆、長年沙汰無しで済まなかった。皆も噂を耳にしていると思うが、俺と律鹿は【角】を折られて未動きが取れなかった」
朱貍は、【人間】に【角】を折られた ことを肯定した。
朱貍「今は、元通りとはいかないが、見た目には様になる程度に【角】が復活したので帰還した」
身勝手を心から詫びる、と頭を下げた。
【鬼神の大将】が頭を下げたことに会場がざわめく。
冥鵺「朱貍様………みっともない姿を曝すのは、その辺でやめていただけますか?」
柔和な笑顔を向ける冥鵺だが、目は笑っていない。
はいすみません、と言って朱貍は頭を上げる。
葛葉(【酒呑童子】が【茨木童子】の尻に敷かれるのは、テッパンのようじゃの)
どうやら、この構図は【初代】かららしい。
朱貍「【
律鹿の【念話】を復唱しているだけだが、一部を除いて皆がそれを知らないので、朱貍が一気に言い終わった後、盛大な拍手を送られた。
朱貍は、この拍手を了承と取り【罪状】を確認する、と裁きの時間が始まった。
最初に【妖狐・
このことは【事件】の発端になる重要なことなので、明確な答えを聞きたい所だ。そもそも言われたことに従っていれば【事件】そのものが起きなかったのだ。
葛葉は、まず狐月に尋ねる。狐月と愛美理は今は拘束を解かれて自由の身だが、それは逃亡が不可能だから自由にしただけのことだ。
狐月「【宴】の席です。偶然鉢合わせになることはあり得るでしょう?」
狐月は、葛葉の目を正面から見返して答える。
しっかり目を見て話したことは褒めても良いと葛葉は感心したが、どういう状況で婦人トイレで鉢合わせになるのか疑問しかない、と苛立ちを覚えた。しかしあえてそこは突っ込んで聞かない。
朔『お粗末だな。鉢合わせた場所が婦人トイレだと覚えていないのか?【狐】は狡賢い生き物だと思っていたが………その日のことも覚えていないアホだったか』
朔の落胆混じりの皮肉は、狐月に【念話】で送られる。葛葉が言及しなかったのは、このためだ。葛葉より【格上】の朔(【
同じ質問を葛葉は
愛美理「私たちは姉妹よ!他人にとやかく言われる筋合いはないわ!」
ここで将成が挙手して愛美理への質問許可を取る。
将成「君たち姉妹の家庭内事情を調べさせてもらった」
愛美理は、家庭環境が常識から逸脱していたことはわかっていた。顔色が変わる。
愛美理「プライバシーの侵害だわ!断りもなく許されないことよ!」
こういう時は【男】より【女】のほうが肝が座っているものだ。開き直ってまくしたてる。
将成「君は養女だね。君の義理の両親………いや、
将成は、麻衣那の両親が彼女に対して【DV行為】とみなす行いをしていたこと、中学時代に麻衣那が同級生の少年と交際していたが、その交際相手を愛美理が略奪したことを話す。
玲鵺は麻衣那に過去に交際相手がいたことにかなりショックを受けた表情をしている。母親の
愛美理「っ………どこにそんな証拠があるのよ!」
怒りで声を震わせながらも、まだ開き直る。周囲は呆れ返ってシラケていた。
葛葉「
身辺調査は【夜狩省】を通して【ギルド】へ依頼が出される方法と、直に【ギルド】へ依頼を持ち込む方法の2種類がある。【夜狩省】を通すと若干お高くなるが、買収されて内容を隠蔽したり捏造されたりする不正行為が行われることがない。
葛葉「【Ω】特有の【ヒート】を利用して、中学時代は同学年の小僧どもを食い散らかしておるのう………」
葛葉の言葉に狐月が顔を上げて、愛美理を見る。自分は愛美理だけが唯一なのに彼女にとって自分は大勢の有象無象と同じなのか、と目が語っている。既に【破談】を言い渡されているが、【古族】にとって【つがい】になる【花嫁】は【特別】な存在で、【長】の命令なので【頭】では従わなければならないことは理解できているが、【心】のほうが追いついていない。
愛美理は、人前でなじられて涙をポロポロ零した。
昴「あー………あんまり泣かないほうがいいな………」
昴は、【古族】の集団の中から出て来た。胴上げの時からずっと混じっていたようだ。珍しく泣いてる女性を気遣っているのに
昴「厚化粧が落ちて、目も当てられないから」
ほら、涙の色がベージュ色、と言う昴に、「あっホントだ」と律鹿がつぶやいていた。案外、気が合いそうである。
将成からは質問を終わると言葉があり、愛美理は素行が悪いと印象付けられた。【人間】側からは、こんな【悪嫁】が付いた為に人生を棒に振ることになるなんて、と狐月への同情の声があった。まだ、【事件】が【傷害事件】と思われているからである。
次の質問の前に、影連が【破談】の件をはっきりさせよ、と言った。
いきなり口を挟んだ青年(実年齢は老人)は何者かと【人間】側から疑問の声が上がる。しかし、すぐにおとなしくなった。
【起源の五英雄】に数えられる影連は有名だ。年配の【人間】が影連に気づいて、それが伝わった。
影連「
【花嫁】は【Ω異能力者】なので【つがい】の証になる【噛み痕】を付けて【パートナー】がいますアピールをしなければならない。【噛み痕】は基本、【うなじ】だが【俺のモノアピール】をより強調したい者は、左手薬指に【噛み痕】を付ける等、噛む部分の決まりはない。
【破談】が前代未聞なので、措置と言われても何をどうすれば良いのか全員知らない。否、1人知っている者がいた。
律鹿『くぅちゃん、私の父上が受けたものと同じでいいなら知ってるよ』
律鹿の父親ということは【
律鹿『お坊さんがいることだし、それほど手間ではないけど………』
素直に愛美理がそれを受けるかだ。
律鹿『最悪の場合は、焼いてしまえばいい………【狐火】、【妖狐族】の
けっこうハードな方法かもしれない。これは、後回しでいいだろう。
次の質問は、冥鵺が行う。柔和な美青年の見た目をした冥鵺を、愛美理はチョロそうと軽く見るが狐月は顔面蒼白で若干震えていた。彼は、冥鵺が秀麗な顔の下に隠している本性を知っているからだ。
冥鵺「まず、【
冥鵺の表情筋は笑みの動きをしているが、目は瞳孔が開いて凶暴さを帯びていた。
狐月は、恐怖に耐えきれず絨毯に頭を擦り付けて土下座した。
馬鹿が、と朔は相手の策略にまんまと嵌った若い【妖狐】を冷え切った目で見下ろしていた。
謝ったということは、認めたということだ。隣で狐月に「何してるのよ」とふてぶてしい態度の愛美理にはツラの皮が厚いと呆れるが、犯した罪を認める気がない者の態度としては、それが正しい。
朱貍は、土下座する狐月を見て【妖狐の小僧】は、一応反省しているようだと考える。もっとも、冥鵺がものすごく怖過ぎて土下座一択しかないことも事実だが。そして、愛美理を見てトラウマが刺激される感覚を覚えた。20年近く自分を【呪縛】し続けた忌まわしくも愛しい女──────────
朱貍(紫蘭様は、悪いという自覚がなく只々、我が儘だった。だが、この小娘は違う。悪いとわかっているし【妖狐の小僧】が逆らえないと知って行動している)
朱貍自身が身を持って、抗えないことの辛さを経験しているから気持ちは理解できるが、同情はできない。【茨木童子の末裔】の大切な【
律鹿『朱貍、まさかと思うけど………【妖狐のお子様】に同情してない?』
律鹿は朱貍だけに的を絞った【念話】を送って来た。朱貍と同じトラウマを持つ律鹿にも狐月の気持ちは理解できる。しかし、【人間】を【狐火】の的にするのは道徳観念を疑う非常識だ。その的が【派閥】は違えど【鬼神族】の【花嫁】だ。律鹿の父親の【
朱貍『正直言うと、苦しかっただろと思った。だが、俺の【家族】に手を掛けた報いは受けさせる!』
律鹿は、朱貍が麻衣那を【家族】と断言したことに安堵する。【酒呑童子】の【血筋】は【家族愛】に厚い一族だ。
朱貍と律鹿が【念話】のやりとりをしている間、葛葉が反省どころか自分は何をしても許されるという態度を崩さない愛美理に「ならば、そなたも食ろうてみい」と【狐火】をお見舞いしようと【妖力】を溜めている。冥鵺は止める気がない様子だ。いい薬かもしれないねと考えてそうだ。
朱貍は、【妖力】を溜めている最中の葛葉の手首を掴むと、【
突然割って入っただけでなく【妖力】まで【中和】された葛葉は、朱貍に後方へ追いやられた。
朱貍は一歩前に出る。
朱貍「自分で頭を下げられないなら、俺が手伝ってやる」
朱貍は愛美理に向かって親指を下向きに立てる『ブーイングポーズ』をした。
会場にいる者たちは、三半規管が空気で押された感覚を味わった。しかし、特に体に異常はないので、今のは何だったのかと首をひねる。
異常が起こったのは愛美理だけだ。愛美理は、腕、頭、背中、臀部、脚部を不可視の【重力】で押さえ付けられて『スライディング土下座』のポーズを取らされていた。
先程の三半規管が押された感覚は、【重力操作】の余波だった。
朱貍「冥鵺、これでいいか?」
どうやら朱貍は、冥鵺の気を晴らす為に【通力】を無駄遣いしたようだ。
冥鵺はフッと口元を笑みの形に緩めた。それは、威圧的な笑みではなく心の底からの微笑みだ。
冥鵺「君たちの謝罪は受けよう。僕はね………君の過去の所業のあるひとつには感謝している。君が略奪してくれたお陰で、僕たちの大切な【
冥鵺は、まさか火遊びしていたなんて苦しい言い訳はしないよね、と再び顔は笑って目は瞳孔が開いた表情になった。
昴「それって、【殺人未遂事件】じゃねえか!」
昴はクワッと目を見開く。
昴が【宴】に参加している理由は、【王族】の外交の為である。【古族の花嫁】をお披露目する【宴】には、必ず【王族】が参加する。決まりではないが、【人間】と【古族】の交友会に【上位国民】のトップと言える【王族】不在は格好がつかない。【現国王】は王子の喪に服していて、祝い事を避けている。【初代国王】は参加したがったが、今でも権勢が強い為、【暗殺】の可能性から自重して代理に孫であり【三代目国王】の次男でもある昴に白羽の矢が立ったのである。
昴「俺、【王族】枠で参加してるのに………【殺人未遂】じゃ【刑事】の仕事しなきゃなんねえじゃん!」
【殺人未遂】の罪状に【人間】側には動揺が走った。一方、【古族】側は既に知っているので【人間】がどう動くかを観察する余裕がある。
昴の発言は、実は完全なアドリブである。臣が昴は計画を知ったら、面白可笑しくしようとして台無しにするが、知らなかったら思わぬファインプレーをすると予測したので、詳しい情報を与えていなかった。
【人間】側から【茨木様の花嫁】様は【神女】様に【覚醒】されたと言っていた、と発言が出て【殺人未遂】で収められるのか、と議論している。
葛葉「先にも言うたが、【妖狐族】の【婚姻】は【破談】じゃ!小娘は【人間】で好きにせい!【子狐】は、そうじゃな建築の【人柱】に使うかのう」
【第ニ次世界大戦】前後まで、建築物の【柱】部分に【人間の遺体】を入れて、文字通り【人柱】にするという建築方法が一部行われていた。あくまで迷信だが、【人間】が入っている【柱】で建てると頑丈で壊れないという。地方の【人魚伝説】や【天女の羽衣伝説】のような真偽は不明なので、廃れていって既にその建築方法はない。今のご時世だと心霊現象が起こる事故物件扱いされることは間違いない。
臣は、ここで挙手して意見をさせて欲しいと言った。
【鬼道衆】を束ねる【鬼道衆首席】だが、【初代国王】が父である臣も【王族】だ。彼の発言は無視されることはないだろう。
臣「【神女覚醒】のいきさつを知りたい。また、【鬼道衆】は【覚醒】に至る過程を研究済みだ。今回の【神女覚醒】が、こちらの研究結果と一致する点があれば、【他種族】の【花嫁】も【神女】に【覚醒】する可能性が出てくる」
【鬼道衆】は【神女覚醒】のキッカケになる情報を教えるから、そちらも情報寄越せという交渉だ。
【神女】を量産できるかもしれない可能性に【人間側】では、一部活気づいている者が数名いた。おそらく【科学者】の類だろう。
朱貍は律鹿を見る。どうする、と目が聞いている。
律鹿『治癒で大火傷が完治したら【神女
】に【覚醒】してましたって事実を話せばいいよ』
将成『ちょっと待った!それで『覚醒』したのか?』
将成は、【神降臨】とか人智を超えた現象が起こって【覚醒】したとずっと考えていた。
朔『それ………言わなくてもいい気がしてきたな………』
匡『いや、それを話してほしい。【
まさか重症からの完治で【神女覚醒】か、絶対に信じてもらえそうにない、と朔は言いたいなら言えば、と思い口を挟むのをやめた。
律鹿が、じゃあ朱貍には見たままを話してもらうよ、と指示を送った。
朱貍は頷いた。
朱貍「皆が気になる【神女覚醒】の件だが………俺と律鹿が見た麻衣那嬢は、腕と足にムゴイケロイドを負った瀕死の重症だった」
火傷の状態を聞いた【人間】【古族】両陣営の女性たちから、「女性に何てことを」「痕が残るじゃないの」「女の敵よ」などなど罵声の言葉が飛び交う。
律鹿が【念話】で黙らせろ、と指示してきたが朱貍は女性たちの迫力にドン引きしている。
冥鵺「皆様、お静かに!今、朱貍様のお話の途中です」
営業スマイルと威圧眼光を兼ね備えた冥鵺の仲裁に、会場は沈黙する。
律鹿は、もう【茨木童子】が【大将】でいいのではないかと冗談とも本気ともつかない思考をした。
朱貍「だが幸いにも【宴】に
【医療忍】篁甲は、世界一の【治癒術】を使うことで知られているが、【起源の五英雄】の1人として有名だ。今回の【宴】に影連と甲は夫婦同伴で参加している。理由は不明だが、甲がいたから麻衣那は一命を取り留めた。
その時、扉が開いて「邪魔するよ」言って甲が入って来た。連れがいる。今、話題になっていた麻衣那だ。
甲「すぐに戻してやれなくて済まなかったね。何せ、【狐火】でドレスを焼かれてたものだから、新しいのを調達するのに時間がかかったんだよ」
大衆の面前で膝より上の生脚さらすなんて下品だろ、と甲の言葉に一同は愛美理を見る。ミニ丈ドレスで見ろと言わんばかりに脚を露出させている。
甲のジャブの効いた言葉に、愛美理は参加者から誹謗中傷の集中砲火される。
他者を貶して、罵って、小馬鹿にすることしかして来なかった愛美理は、メンタルが弱い。自分がされる立場になって、カッとなって走り出しテーブルからカトラリーのフォークを数本掴むと、麻衣那目がけて突進した。
愛美理の拘束を解いて自由にしたことが仇になったかと、【人間】側は焦るが麻衣那を守る立ち位置で甲は仁王立ちして腕を組んでいる。いい度胸だ掛かって来い、と視線が語っているのが影連と朔に判った。
朔(五体満足でいられるかな………)
影連(やれやれ………女は怖いのう………)
予想していることは別だが、2人とも甲が何かヤラカシてくれるのは間違いないと考えている。
甲は、向かって来た愛美理の右手首に拳を叩き込む。
ゴキリと骨が折れる音がして、床にフォークがバラバラと落ちるが一流ホテルの床に敷かれるカーペットはフカフカなので、落下音は全て吸収された。続いて、愛美理の悲鳴と号泣が上がる。
愛美理の手首は、あらぬ方向へ曲がっていた。
愛美理「痛い!………オバサン、【治癒】できるでしょ!治しなさいよ!」
治癒を命じている相手に骨折させられたのを念頭から忘れてしまっているのか、エラそうに命令する。
甲「嫌だね。だいたい、戦闘中の敵に塩送る真似をするいわれはないよ!」
おい戦闘してるつもりなのか、と内なる朔がツッコミを入れている。
今度はこっちから行くよ、と甲は愛美理の頭を掴んで床に叩き付ける。
昴「今度はって………さっきも先制攻撃してた!」
朔「ツッコんだら負けだ」
影連「充分手加減しておるから、即死することはないじゃろう」
朔/昴「いや、アレ………ガチだろ!」
甲に叩き付けられてから動かない愛美理を見て、本当に
すると、愛美理が半狂乱で悲鳴を上げた。
愛美理「顔!………私の顔がぁー!」
頬を片手で押さえて顔を上げた愛美理の顔面は、ケロイド状態の醜いミミズ腫れが走る容貌だった。
「「「「「!」」」」」
会場じゅうに戦慄が走る。
今しがたの行動に顔面ケロイド状態になる要素はなかった。
高校生ぐらいの若い女性参加者が複数名、愛美理の面相を見て、失神する。
状況から見て、甲の張り倒しが原因としか考えられないが、甲は【火属性】の【忍術】を使うが今のは腕力任せの只の暴力だった。
甲「お前たちがウダウダグズグズしてるから、私がカタ付けてやるよ」
甲は、これまでの威勢を失った愛美理の髪を乱暴に掴んで【うなじ】の部分を見せた。
そこにはくっきりと【噛み痕】が【刻印】のように刻まれている。
甲「【医療忍術】ってのは、こういう風に攻撃に使えるんだよ。【活道・
甲が唱えた【言霊】は【鬼道】の【治癒術】に当たる【活道】だが、愛美理の髪を掴んだ甲の手からは癒やされ感のある淡い緑色ではなく、紅黒色と紫紺色が螺旋状にミックスした不気味な【気】が【色彩】として見える。
あまりの色合いの悪さに【呪詛】か、と臣と匡は身構えるが、影連がアレは只の【加虐】じゃと言った。とりあえず【呪詛】ではないということだ。
愛美理「イヤッ!何するの!私の顔をこんなにして、もう満足でしょう!」
はぁ、何言ってるの、とこの瞬間会場内は心をひとつにしていた。【神女殺人未遂】を顔面ケロイドで許してもらえるなら黙っとけ、と誰もがそう思った。
愛美理は、言葉の限り甲に悪態つく元気があるので、確かに【呪詛】ではないだろう。甲は【治癒忍術】を攻撃にするようなことを言っていたが、甲のしたことは髪を乱暴に掴んだだけだ。
甲が愛美理の髪を掴んだ時、不謹慎にもそのまま引きずり回してほしいと考えた者は全体の9割以上いた。なので甲が【活道】と【言霊】を紡いだ時には「何だ結局治してあげるのか」と、皆がガッカリした。
しかし、依然として愛美理はケロイドでミミズ腫れが走る面相のままだ。痛がっていないので痛覚を消す等は施しているのは予想できる。
甲「いっちょ上がりだ!」
甲は一端、愛美理の髪から手を離して再び今度は襟足部分を力任せに掴んだ。その際にブチブチブチと愛美理にしかわからない音を立てて髪の毛が引きちぎれる。甲の名誉のために、ワザとではない。甲自身、自分の怪力握力で愛美理の髪が引きちぎれた時、バツが悪くなった。
会場の参加者の視界に愛美理の【うなじ】が晒され、そこには【噛み痕】のない若い娘の真っ白な首筋が見えるだけだった。
甲「【うなじ】の【傷痕】治してやったよ」
【つがい】の【刻印】を、甲が【治癒系鬼道】で治す形で消滅させた。ドヤ顔でキメた甲に会場じゅうから拍手が送られた。この拍手をもって【婚姻】の破談成立とみなされた。
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