第陸章 妖狐の花嫁が破滅した日・転
回想シーンです。
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律鹿「【鬼神族】は【長命】だが不妊気味だからね。若い【鬼神】が生まれてくれて嬉しいよ」
朔「今、そういうこと言ってる場合じゃねえんだけどな………」
呆れてボソッとつぶやいたが、【鬼神】の【聴覚】は鋭い。バッチリ聞こえていた。しかし律鹿は特に気にしていない。むしろ忍武のほうが
律鹿は、朔を
【
律鹿「まだまだ、改善する余地がございます。影連様、お久しゅうございます。先程、
どうやら、先に甲に会って
麻衣那の名とお救いいただきの言葉から、無事なことがわかり玲鵺の暴走気味だった【
朔は、とりあえず玲鵺暴走の危機から脱することができたのにほっとする。
朔(後は………この場にいない【獣族】の意向だな)
遠方を理由に参加していないが、【琉球】からわざわざ【キジムナー族(小鬼族)】が参加している。今回は、それがどこまで本音か信用ならない。
そんな朔の心を見透かしていたのか、律鹿が【念話】を送って来た。
律鹿『朔様………でよろしいですよね。
朔は、この【念話】が第三者に聞かれることを警戒していると、律鹿が「私と朔様だけの内緒話専用にしています」と言った。私、【鈴鹿御前】の元娘なのでこういうの得意なんです──────────【鈴鹿御前】は【神女】と呼ばれていたので、優れた【特殊能力】を多様できたと伝わっている──────────とニコニコと笑みを向けた。。
朔『確かに俺は朔だ。それより、元娘って何だ!鹿鳴の父親なんだよな』
律鹿『ああ………それ気になりますか………私、性別を自在に変えられるんです。貴方も遙様もそうでしょう』
朔『っ!どうやら、後でじっくりと話し合う必要がありそうだな』
性別を自在に変えられるというのは、男からも女からも言い寄られる──────────【
律鹿『怖いですね。私、遙様には一生かかっても返しきれない恩があります。秘密は厳守しますよ。それとは別に、【花嫁】様のことで発言いいですか?』
【鬼神】の一生というのがどれほどの長さかわからないが、【花嫁】の現状は未だわからないので知りたい。
朔『何を言う気か聞いてもいいか?』
律鹿『発言するのは朱貍です。私、【鈴鹿御前派閥】ですから【派閥】が別なんですよ』
ものすごく俗っぽいことを言われた。
朔『【派閥】なんかあったのかよ!【鬼神族】同士で揉め事は困るんだが………』
律鹿『【鬼神族】は少ない【種族】ですから諍いはありません。貴方がた【忍】にも【流派】があるでしょう。同じことです』
なるほど、と朔は納得した。【忍】は【他流派】と基本は争っていない。任務で邪魔をされたら戦闘にはなるが、【ギルド】を潰そうとするほどの争いにはならない。せいぜい、邪魔された者と邪魔した者同士で闘って終わりだ。
朔『朱貍さん………だったか?あの人が発言するほうが説得力あるなら任せる』
律鹿『【茨木童子】は【酒呑童子】の【眷属】ですから………説得力は充分かと』
そういやそうだった、と朔は思い出した。【大将】不在で【酒呑童子の
将成に朔は【念話】を送る。内容は【酒呑童子の大将】が【茨木の花嫁】の現状を話してくれると伝えた。
【人間】側と【古族】側でどよめきの元になった朱貍を壇上から
将成(生きていたのか!それに、朔の隣の女顔!律鹿か!行方不明だった2人が生きていたとは………)
【鬼神族】の行方不明は、死期を察して人知れずその時を迎える為の行動と取られる。27年間の消息不明は、そう思わせるだけの歳月だった。もっとも当人たちは数ヶ月間留守にしていた感覚なのだが。
将成「皆様方、【鬼神族】の【酒呑童子の大将】殿と【鈴鹿御前の大将】殿がご帰還されました」
将成は、朱貍のほうを見て周囲を視線誘導する。頭ひとつ分飛び出ている朱貍は目立つ。
【人間】側からどよめきが起こる。【酒呑童子】は【日本三大妖怪】に数えられる。【平安時代】は【災厄】【災害】と呼ばれた。
将成「【酒呑】殿、【
朱貍「わかった。皆の者、喜べ【神女】の誕生だ」
【神女誕生】は【国】を挙げての慶事だが、朱貍の語彙が残念なせいで今ひとつ伝わっていない。質問した将成は、瞳からハイライトが消えるほど心ここにあらずになっている。
朔『
【茨木童子の
冥鵺と玲麗が拍手したのを見て、【古族】たちは右ヘならえで拍手した。玲鵺は、いかに【酒呑童子の大将】といえど、主語がなく話の繋がらないことを言われて戸惑う。
朱貍は、【古族】たちのノリの良さに満足して玲鵺を見た。
朱貍「お前が【婿殿】で間違いないな?」
玲鵺は、気の抜けた表情で頷く。相手は【主家】に当たるので、粗相があってはならないと一応リアクションだけは返す。
朱貍は、折りたたんだ紙を渡す。
玲鵺「?」
言葉の足りない人だと玲鵺は思った。何を意味するのかわからないまま紙を開いて、目を見開く。
そこには、麻衣那の直筆で【茨木童子の末裔】の玲鵺に嫁ぐという内容の文章と、【神女】への取り次ぎは【茨木童子の末裔】を通じて行うこと、【神女】は『
このご時世に『血判』と玲鵺は思わずつぶやいたが、『血判』を押しているということは麻衣那は指を傷つけたということだ。
玲鵺「麻衣那………怪我を………」
この『血判』を押させたのは、紙を持っていた朱貍だろう。玲鵺は朱貍に鋭い目を向ける。
玲鵺に渡したものと同じ内容のものを朱貍はあと2通持っていた。1通を
臣は、無言で渡されてもと言いながら紙を開いて内容を読んで二度見する。横から
朔「『血判』か………悪くない判断だ」
何が書かれているのか見ていない朔にはわからないが、『血判』は血液の拇印だ。【DNA鑑定】で人物が特定できる。
匡「ああ………そういう考え方もあるな!」
臣「この内容と、先程の主語がなくて訳がわからなかった【酒呑童子の大将】の【神女誕生】が繋がった」
やっぱり、ワケわからなかったんだ、と朔は同じ考えの人がいて安心する。
匡「【茨木童子の
おそらく『死にかけた』のがキッカケだ、と匡の言葉に臣は頷く。
臣「語彙力はどうかと思うが………証文を用意するなど、なかなか頭がよく回転するようだな」
【人間】の【上位国民】が【神女】を奪いに来る可能性がとりあえず潰せた。【伝説】に残る【酒呑童子】の凶暴さはわかっているはずだ。無茶をして怒りに触れる行動はしないだろう。
葛葉は律鹿を見て驚いている。
葛葉『お主、何じゃその姿は!』
どうやら葛葉は、律鹿の性別が自分の知るものと変わっているのを言及する。
律鹿『くぅちゃん!【妖狐族】の【長】の貫禄が付いてきたね』
律鹿は【鈴鹿御前】の娘本人なので、年齢は【古族】の中では『最年長』になる。
葛葉『そんなことはどうでも良い!生きておるなら、なぜ沙汰無しだったのじゃ!』
別に
律鹿『【角】を折られて………人前に出るのが恥ずかしかったんだよ』
朱貍と同じことを言っている。
葛葉『そういう噂はあったが………事実じゃったのか!あの小僧、小娘ども、【バケモノ】じゃな』
本人たちの知らない所で【妖狐】から【バケモノ】認定された。
葛葉『それで………帰還したということは、お主らの【縛り】は解けたのじゃな!』
一番重要なことである。【角】を折られた【鬼】は【
律鹿『そうだね………私も朱貍も子どもができたんだ。私たちの【血】は混じっていないけど、孫もいるんだよ』
本当に『おじいちゃん』になったよ、と言う律鹿の様子からすっかり【洗脳】は解除されている。
葛葉『あの悪女との子じゃな』
忌々しげに【悪女】と言った相手は
葛葉『あの女!昔、袖にした男に滅多刺しされてくたばったらしいのう………テンプレじゃな』
本当は、因果応報と言いたかったが言葉を濁した。
律鹿『君の所の【花嫁】は紫蘭様に似てるね性格が』
葛葉『!………そうか!あの【花嫁】!最初から気に食わなかったのじゃ!なぜだか理由はわからなかったが!』
葛葉は、本音を語っている。出会い頭、嫌悪しかなかった。一族に繁栄をもたらす【花嫁】を一族の【長】たる自分が心の底から嫌悪と拒絶をしていたのだ。
影連『
丸聞こえじゃぞ、と
朔『葛葉、お前の気持ちはよくわかった。若い【妖狐】の【花嫁】として受け入れるのが反吐が出るほど嫌だった………ということがな』
因みに、『別に寂しくなんてなかったんだからね』から聞いていたぞ、と朔の言葉にそんな言い方はしていないと葛葉は否定して、これまで積み上げて来た威厳が台無しじゃと言っている葛葉に対して、千年以上生きている怖ろしい【妖狐の長】から『頼れる姐さん』に周囲は好感度を上げていた。
臣は、朔に『真の山の民の王』として引導を渡すか、と問う。
朔は【夜狩省・省長】の将成、【鬼道衆・ツートップ】の臣、匡には【偽装】していない真実の【鑑定】結果を開示しているので、朔のフルネームの下に【古代神・
【人間】には【古族】を支配下に置ける【古代神】の存在は秘匿しているので色々と細工することになるが、朔が愛美理を若い【妖狐】の【花嫁】にふさわしくないと言うだけで文句無しで【破談】にできるのだ。
朔も、自分の胸先三寸で独断、即決できることを関与を隠す為に回りくどい遠回りでフラストレーションがかなり上昇している。
朔「忍武、昴は?」
あいつ小さ過ぎて埋もれてるのか、と朔は昴が聞いたら乱闘になりそうなことを言っている。
忍武は、今は律鹿に従者のように従っているので昴は完全放置されていた。
朔「アレでも【王族】だぞ………目を離すのはマズいだろ」
臣「確かにマズい!」
匡「暗殺の心配か?あの王子様は返り討ちするだろう」
自衛どころかガチ戦闘できるバトルギミック搭載王子じゃないか、と匡は楽観的だ。
朔「それが一番マズい!なまじ腕っぷしが強いから、返り討ちにしてしまうが昴は一思いに殺さずにいたぶる系だ」
ドSが露見する、朔は見られたら『ドS王子』の通称で呼ばれて続けるぞと言う。
しかし、昴は心配とはよそにものすごいファインプレーをしていた。
廊下が騒がしくなり、宴会場の扉が乱暴に開かれた。
【古族】と思しき【妖力】を纏わせた者たちが数名ぞろぞろと入って来た。
臣と匡が【妖力感知】で【
匡「【蝦夷】の【
匡は体格の優れた【狗神族】が並ぶと壮観だな、とつぶやいた。
臣「しかし、なぜ今頃………」
遅れて来るにしても、遅すぎる。それに【宴】は3日間開催されるので、翌日に始まりから参加する選択肢もある。
影連だけは冷静に、あの王子やりおった、と事情がわかってそうである。
【宴】に参加していた【獣族】が、入って来た【狗神族】の【族長】たちの姿を見て、感嘆の声を上げている。そして、謎の胴上げをしていた。
朔は、胴上げされている人物を見て目と口をポカンと開ける。美形のこの表情は間抜けヅラが割増になる。幸い、突然の事態に誰にも見られていなかったが、見られていたらしばらくネタにされるだろう。
臣「アレは、なぜ胴上げされているんだ」
臣は頭痛を覚えた。昴の母親は臣の実姉である。つまり、臣は昴の叔父だ。
律鹿「あの王子様、すごいね!【水脈転移】を成功させたらしい」
【鬼神族】の【聴覚】で声を聞き取った律鹿は感心する。
臣と匡は、「はあぁ?」と驚愕と疑問をミックスした表情をした。
【水脈転移】とは【水】を貯めた場所を繋いで【水脈】(水の道)にし別の【水】を貯めた場所へ移動する【転移術】だ。瞬間的に移動できる【転移】ではないが、【安全性】は非常に高い。貯める【水】は【海】のようなビッグサイズから【大きな水溜まり】のようなスモールサイズまでだ。家の浴槽に【水】を貯めたものでも【起点】や【終点】の【転移ゲート】になる。【鬼道衆】でもこれを使える者は【裏高野】の
忍武「律鹿様、昴は【鬼道】のほうが得意なんです」
昴本人が喧嘩っ早い性格のせいで【脳筋】に振り切れているが、【鬼道】の腕は【裏高野】の【エース】と目されている
律鹿が聞き取った内容は、【獣族】の者が【人間】風情に高度な【術】が使えるかと昴を軽んじて、昴は【水属性】が得意な【
遅れてやって来た【族長】たちは、壇上の葛葉の近くまで進み横一列にピシッと並ぶと頭を垂れて一礼した。
中央にいる【
獅子狗神族長「葛葉様、此度は我らの礼を欠いた尊大な態度………お詫び致します。【神女】様誕生の報を受け馳せ参じ申した。どうか我らの立ち会いを許可していただきたい!」
意外にも、自分たちの尊大な態度を良くないと認めているので、朔は【人間】の【花嫁】を軽んじる感じの悪い【古族】から割とマトモに印象を引き上げた。
影連『【
臣『【総帥】の言う通りだ。【風魔七番隊】の【隊長】【副隊長】の御祖父君に当たられる………と言えばわかるな』
朔は、そう言えば【風魔七番隊】は【隊長・
影連は、【獅子狗】は自分の孫を【風魔】に入れて【山の民の王】の生まれ変わりである朔を取り込もうとしていたというトンデモ暴露をした。
影連『見え透いたことをしよるから、【七番隊】を九州常駐にしてやったわ!』
なかなかのカミ人事じゃろ、と影連のドヤは珍しいが、腹黒ジジイたちの諍いに公私混同の人事をするのは如何なものかと朔は呆れる。
匡『【風魔総帥】………なかなか、黒いですね』
影連『伊達に
匡は、褒めてもおだててもいないが影連は、ちょっと気分良さげである。
壇上の葛葉は、謝罪を受け入れ立ち会いを許可した。多数決は【破談】で決定しているが、プライドの高い【狗神族】を無碍に扱うのは良くない。
葛葉から【古族】の集団に混ざるよう指示されて【獅子狗】率いる【族長】集団は、そちらへ向かう。向かう際に朔と影連を視界に移した【獅子狗】は、軽く頭を下げるだけの一礼をした。
朔は、影連へ一礼の挨拶をしたと思っているが、【獅子狗】の一礼は誰に向けたものかは本人しかわからない。
壇上に朱貍と【茨木の当主】冥鵺──────────玲鵺の父親だ──────────が立つ。入れ替わるように将成が戻って来た。
お疲れ、と臣と匡が言葉をかける。
将成「臣!お前の甥っ子の王子!アレは何だ!」
説明を求める将成に臣も自分も初めて知ったと言う。それが嘘かどうか将成にはすぐわかったようで、追求は後だなと納得した。
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以前、登場した時と朱貍と律鹿のキャラが変わってますが、【角】を折られて【呪い】にかかっている状態から回復したので、こちらのキャラが本性です。
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