第陸章  最澄の懸念

【天上界】を経由して、【比叡山】へ戻ろうとしていた【最澄】の足元に【召喚の陣】が現れた。


 最澄(これは………【(こくりゅうほうし)】(あきらの【僧名】)の【陣】!)


荒神あらがみ・空海】と【和神にぎがみ・最澄】は【人間】からの【存在進化】で【亜神】になったので、【天上界】より【人間界】に留まるほうが【神の権能】が発揮される【神】である。


 彼らは【神の軍勢】と呼ばれる【自軍】を持たないが、【人間】の頃に【偉業】を成し遂げている彼らを敬う者、崇める者は少なくない。【弘法大師空海】【伝教大師最澄】を【信仰】【尊敬】する【念】は【荒神】【和神】の【神通力】に変換され、彼らが開いた【真言宗】【天台宗】の【僧侶】たちは彼らの【軍勢】になる。厳選して選ばれる【天界人】より【人間界】の不特定多数の【人間】のほうが数が多い。ある意味、【亜神】では最大の【軍勢】を保有している。


【天上界】に【眷属】を持たない【荒神】【和神】は、【天上界】には世話をやく者がなくそれゆえに【人間界】に居住するという異色なことをしているのだが、【天界人】の棲家(基本【城】か【きゅう】の建物)に帰宅したことがわかるように【光輝ひかりの御柱】を通る必要があるので、【最澄】は一旦【光輝の御柱】を通り【天上界】を経由することで帰宅の足跡を残した後、棲家にしている【影比叡】の【浄土院】へ戻るという手間をかけて帰宅する。これに要する時間は、【天上界】では『秒で終わる』ほど短い。


 しかし【人間界】では、洸と【空海】は船で【鬼ヶ島】へ渡り、洸が貴輔きすけ伊角いすみを挑発して一戦交え、【茨木童子の末裔すえ】の【屋敷】で【聖遺物アーティファクト】にかけられた【呪詛】を【空海】が【解呪】し、【精神体】で現れたはるかと【念話】を送ってきたあずさを交えて、【王子暗殺】から始まった【水戸家家令事件】、柳生十鎖じゅうざの【風魔襲撃】後の【柳生本家】の行く末話までと、結構な時間が経過していた。


 洸が描いた【召喚陣】が神々しい輝きを発し、目が眩むほどの閃光が周囲を包み光が収縮した後に【召喚】の役目を終えた【陣】の上には、キョトン顔で【最澄】が端座していた。


【最澄】は、その場にいるメンツを確認して初めて顔を見る【人間】もいるが、ここは【鬼ヶ島】だと理解した。


 洸「【最澄】ごめん………【】に帰ってもらったのに」


 申し訳なさそうにする洸の様子に、【空海】が接し方が俺の時と全然違うとブーイングしている。


 最澄「大丈夫です。【天上界】に足跡を残しただけで、にはまだ帰宅してませんから」


 ほんの数秒程度ですよ、と【最澄】の言葉に【天上界】と【人間界】の時間差ギャップを思い知らされる。


 朔「BBQ解散してから、一夜明けて結構イロイロあったぞ。それが秒とか………」


 相変わらず時間経過の概念ぶっ壊れ仕様だな、とはじめの率直な言葉に【最澄】は苦笑いするしかない。


【最澄】自信も【天上界】を経由して【人間界】の棲家に帰宅した時は日を跨いでいたことがよくある。慣れるまではしていた。かつて【最澄】は【人間】だった頃に【遣唐使】として今でいう海外留学の経験があるが、【唐国(中国)】へ命がけの船旅だったので【生命】があることを【御仏】に感謝し、志半ばで辿り着けなかった者たちには経と祈りを捧げていてボケてる場合ではなかった。(史実では船8隻中2隻だけ無事到着したらしい)また、ほとんど時差がなかったので【亜神】になって【人間】と【契約】してから『時差ボケ』なる言葉を知った。


 最澄「ところで、私は何をすれば良いのでしょう?」


 自分勝手に呼び付けられているのに穏やかに、上品な物腰で問いかけてくる【最澄】の所作に國光は、まさに【神】と感動している。


 貴輔と伊角が姿勢を低くしている姿に、洸が「スケさんとカクさんが【水戸の御老公】を前にした町民のようになっているではないか!」と小物っぽいからそれはヤメなさい、と立ち上がらせる。


 梓『【最澄】様、私の【念写】を【映像】にして【精神体】の遙も含めて全員に共有してくださいませ』


 梓に至っては【空海】にはタメ口、【最澄】には敬語と大差があるが【空海】がツッコミを入れていないあたりから、当人がタメ口を許可したか強制したかのいずれかだろう。


 わかりましたお安い御用ですよ、と【最澄】は快く引き受けた。一挙手一投足に至って品があるのは、【人間】の頃に当時の【平安貴族】の英才教育を施されたのが身に染み付いているのだろう。


 最澄「梓さん、受け取りました。すぐに送れますが遙さんの【念写】を受け取ってからのほうが効率的ですね」


【最澄】は、続いて遙からの【念写】を受け取って、遙と梓の持つ情報から重複部分を統合し両方の情報を時系列に並べる処理をする。


 最澄「情報量が多いですね。【人間】の脳に送ることは可能ですが………ことは不可能です。『スマホ』に送信しましょう」


 今は【亜神】、過去は『平安時代の僧』から今や『生活必需品』となっている『スマートフォン』の名称を聞くというシュールな経験をしつつ、【最澄】が遙と梓からの情報を統合して【念写】したものを【PDF】データで届いたのを確認すると、梓は「気が向いたらまたね!」と【念話】を切った。


【水戸家】の面々は、しばらく放心状態だが、【風魔陣営】は慣れているのでさっそくデータを見ている。【玲鵺れいや】も同じくデータを見ていると、彼に【最澄】が話しかけた。


 最澄「【大原】の【異域】にお預かりしていたですが、【気配】が途絶えてしまいました」


【大原】の【異域】とは【京都大原】に出現した【異域】だ。【京都大原】には歴史的建造物や寺社が多く、観光地にもなっているので【和神にぎがみ・最澄】自らが完全監視体制で管理している【異域】である。因みに【荒神あらがみ・空海】は監視や管理の類が苦手なので【最澄】に丸投げしている。場所的には若干、【京都大原】から離れているが【異域】の名称は近辺の地名から付けられることもある。【異域】の種類は、【箱庭ガーデン】になる。しかし、額面どおり【庭】ではない。【箱庭】の中に寺社などの建造物があり、その建造物も【寺社テンプル異域】となっている。また庭園までもが【迷宮ラビリンス異域】 という【異域】の中に複数の【異域】が点在する【複合異域】といった所だ。この【複合異域】のことを【異域・箱庭ガーデン】と呼んでいる。


 玲鵺「《いなくなった》………という解釈でいいのか?」


 玲鵺の言う『いなくなった』は、【脱走】【失踪】【死亡】などの人がいなくなる全ての事象を指している。


 最澄「御令嬢のほうは度々、脱走を試みておりましたが【大原の箱庭ガーデン】は【ギルド】に所属する【ハンター】たちが複雑怪奇と言わしめた【異域】です」


 非力な少女が抜け出すことは、まず不可能と【最澄】は何度も脱走しようとして全て失敗の徒労に終わっていることを告げた。


 朔「【大原の箱庭】は手を変え、品を変え試行錯誤が必要だ。そのお嬢ちゃん、何パターン試した?」


 玲鵺と【最澄】のやりとりに聞き耳を立てていたらしい朔が質問してきた。


 最澄「毎回、同じことの繰り返しでしたよ」


 同じことの反復だったので、最初は脱走が目的とは【最澄】も考えていなかった。しかし、脱走確定のがあったのでこれまでの行動がすべて脱走を試みたものだったと露見したのであった。


 洸「そういや、【影比叡】の坊主が何人かされてるな」


 いずれも下っ端坊主だけど脱走騒ぎと関係ありそうだな、と洸はなかなか【カン】が鋭い。


 最澄「【茨木童子の末裔すえ】の【花嫁】となる【神女】に危害を加えたですから………監視の役人に【影比叡】から【僧侶】が派遣されておりました」


 朔「【僧侶】にさせてたのかよ」


 そいつらストレス溜まるな、と『獄卒僧侶』に同情的な意見だ。


【異域】が『収監所』として使われることがある。今話題に上がった【大原の箱庭】は、中に【天台宗系】の【三千院】がベースになっているような造りで、ここに『収監』される者は『精神のケアが必要な者』なので【犯罪者】とは限らない為、『獄卒役』は警察ではなく【鬼道衆(術師ギルド)】の【影比叡】という【クラン】から【僧侶】が交代制で派遣されて常駐している。


 洸「そいつら………誘惑されて脱走の手引きしてたんだな。生臭坊主め!」


 お前が言うか、というツッコミを忍武しのぶは呑み込んで【影比叡】の【僧侶】に手伝ってもらっていたにも関わらず失敗しているのはどういうことか、と【最澄】を問いつめる。


 最澄「………虚弱体質な方なのでしょうか………しばらく進むと疲労感に苛まれていた様子で………」


 黙って聞くだけに徹していた國光は、【最澄】をものすごく善い【ひと】だと思った。


 話題の渦中の令嬢は、【茨木童子の末裔すえ】の【花嫁】、麻衣那あいなの義妹・愛美理えみりのことである。『虚弱体質』と『疲労感』のキーワードで國光は、即座に愛美理がほんの数百メートル進んだだけで『疲れた歩けない』と言い、乗り物を用意しろかおぶって行けかのいずれか我が儘を言ったと確定していた。同じ考えなのだろう。貴輔と伊角は瞳からハイライトが消えた暗い眼をしている。【最澄】は『我が儘』のひとことで済むのを言葉を選んで配慮していた。


 玲鵺「【和神】甘いな。アレは我が【花嫁】に危害を加えた【】だ!」


 大人しく【箱庭】に引きこもっていれば良かったものを【生命】が惜しくないようだな、と憎々しげに物騒なことを言っている。


 遙『あの】………【死亡フラグ】立てたな』


 マンガオタクっぽい単語で緊張感を削いでいるが、物騒なニュアンスが含まれている。


 桂「では、【妖狐族】のにも【死亡フラグ】を立ててやるか」


 桂は、葛葉から借りていた【若い妖狐】の使と言った。まるで最初から使つもりでいたような口調である。否、使を葛葉からもぎ取ったというべきだろう。


 玲鵺「あの【子狐】は、そういう使い方をする為に連れて来たのですか………流石は桂センパイです」


 玲鵺は、桂たちので付いて来ていた【妖狐族】の存在意義が不明だった。しかし、片方は葛葉のことは明白だが、もう片方は正直今すぐ【鬼ヶ島】から叩き出したくなる【若い妖狐】だったので、喧嘩を売りに来たのかと【風魔】に疑念を抱いていた。


 桂「になったとはいえ、約2年間のの過程は消し去れん。きっちりつけさせるぞ」


 朔「桂………思考が遙寄りになってるぞ。残念だが、貴重な若い【妖狐】はだな………玲鵺、これはが【山の民の長】を発令したと、聞かれたらそう言え」


 朔は、【風魔頭領代理】で指揮権を持っているので、全ての責任は自身が負うと断言した。


 朔を【鑑定スキル】で視ると【山の古代神・闇嶽之王くらみたけのみこと】の単語が朔の名前の次にある。この【闇嶽之王】は【古代神】と記載があるだけに、並の【鑑定能力】では詳細が見れない。ここで、それが見れるのは【亜神】の【空海】【最澄】の2柱だけである。【神仙チャクラ】を操れる洸、遙、桂は将来的には現在の【完全鑑定】が【進化】して【神の目】になる【道】が開けているが、数百年後か千年後になるか先が果てしない。


【神の目】という【鑑定スキル】で【空海】と【最澄】が視た【山の古代神・闇嶽之王】の【スキル・山の民の長】は、【山の民】の【長】ヘの【絶対遵守ぜったいじゅんしゅ】である。


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