第壹章 柳生武藝帖 陰謀の巻①
その【
参加者の面子は、関連性がよくわからない面々であった。
大物政治家、資産家、人間国宝と呼ばれる梨園の方々、大御所俳優、人気上昇中の若手芸能人と、この辺ならセレブの集まるパーティーなのだが、獣の耳や尻尾を生やした者たち、袈裟や式服を身に着けた者たち等、一見コスプレイヤーと思しき人物たちが複数混じっている。日常では交わることのない者たちが一堂に会している。
主催者は【
【古族】とは大昔では【古き者】【まつろわぬ民】などと呼ばれていた。【始祖】は
世間一般的には【クトゥルフ神話】の【外なる神】が地球の【旧支配者】、そして【現支配者】は【
【種族】の数で勝る【人間】と【種族】の寿命の長さで勝る【古族】は対等の立場であったが、数世紀を生きることができる者がいる【古族】に比べ百年ほどの寿命の【人間】は劣っていないだろうかと、年月を経る毎に芽生える疑心暗鬼を無くす意味合いの交流会が【宴】であった。
【古族】が主催者で【人間】を招待することで、持ちつ持たれつの意思表示をしている。
そして、壇上には今回主催役を務めるのは【
彼女が葛の葉ならば、平安時代から生きていることになるが【妖狐族】で唯一【神格化】という進化を遂げているので千年近く生きていることだけは間違いない。
【神格化】というのは文字どおり【神格】になることだ。それには条件があり、一番よく知られているのが数百年から千年生きることである。その他の条件は【種】によって異なるので秘匿情報となっている。
さて、葛葉は千年近く生きているが、外見は30代の狐耳と九尾を持つ臈長けた絶世の美女である。獣耳と尻尾は、人によっては萌える所であるが【妖狐族】は尻尾の数が多いほど高い【霊力】を有するとされ葛葉は歴代で唯一の九尾持ちという、かなりスゴイ人?あるいは妖狐?のようだ。
「本日は皆々様、お集まり頂き感謝申し上げる」
堅苦しい挨拶は妾の好みではない。後は任せると葛葉は本日の主役である【柳生一門】の参加者へ押し付けると、壇上を去った。
続いて壇上に上がったのは、紋付き留袖の凛々しい佇まいの170cmを優に超える長身の美女であった。
こういった【宴】の席で女性が身に着けるのは滅多にない紋付き留袖である。色合いは目にも鮮やかなサファイヤブルだ。だが、会場の人目を惹きつけているのは色鮮やかな留袖でも女性の容姿でもない。皆、一様に【家紋】に注目している。
『
この【家紋】が入った物を着用したり所持する者は、【柳生本家】の人間しか許されていない。【柳生家】の【家紋】は【二枚笠】が時代劇などで有名だが、こちらは現在では門下の内弟子や分家筋が使用している。
つまり、彼女は【柳生本家】の者ということだ。
【柳生家】とは、日本の【武門】の家系で先祖は柳生石舟斎や柳生宗矩、時代劇のヒーローでお馴染みの柳生十兵衛である。
明治維新で日本の武家制度は廃止されているのは歴史に記録されている。現在は2XXX年で世界情勢もだいぶ変化して、ありえない事象が頻発している。
【柳生家】のように日本の伝統や文化として【武術】───────────────【柳生】は【剣術】だが、一括で【武術】とする───────────────を【血族】や【門下生】という内弟子や生徒に教授している一族は探せば割といる。
また、【柳生】は【裏柳生】や【草の者】といった【忍】の育成もしているので【忍】もそれなりに存在する。案外この【宴】に変装して紛れ込んでいるだろうことは間違いない。
少し話は【柳生】から逸れるが、【忍】の祖は楠木正成である。有名な【伊賀】【甲賀】【風魔】などは【楠木派】のカテゴリーになる。他にも上杉謙信配下だった【
話を元に戻そう。壇上の女性は、【柳生本家】の長女・
「本日は、【柳生】の為にお越し頂いた方々もおります故、この中には背筋が凍る思いをされている方もちらほらいるでしょうが、今少しだけ時間を頂戴しとうございます」
藤子は意味ありげな言い方をする。
【柳生家】は、権力者とは太いパイプを持つ。そこには公言できないようなことが多数ある。【裏柳生】という名前からしていかにもな裏稼業や汚れ仕事を請負っている───────────────全てというわけではないだろうが、その手の仕事は【柳生】を仲介して委託という形をとる───────────────なので【柳生】に後ろ暗いことを知られている者は少なからず存在する。
しかも公表と聞いては、生きた心地がしないのは言うまでもない。
「私、柳生藤子の愚息・
藤子の前置きからは斜め上の公表内容だった。
この後、何名かは脱力している姿が見受けられた。流石にへたり込むことはなかったが、憔悴感が漂っている。おそらく、後ろ暗いことのある人物たちだろう。
その光景を目にした藤子・十耶親子は勿論だが、変装して潜り込んでいる【忍】もほんの一瞬だが口角を上げていた。
藤子に促されて、10代の若者が壇上の藤子の隣に並ぶ。
「ただ今、ご紹介にあずかりました柳生十耶です」
本番の挨拶に向けてしっかり教育されたのだろう。17才という年齢では気後れしそうな政治家たちもいる中、背筋を伸ばした良い姿勢で堂々と挨拶の言葉を発している。
【武門】の家系出身だけあって、中々に精悍な顔つきである。美少年とか眉目秀麗という感じではないが、将来的には美丈夫間違いなしだろう。
会場の20代女性の間では、色恋めいた視線を向ける者もある。【柳生本家】の息子───────────────はっきり言ってお買い得物件だ。
その雰囲気を読んだのか、
(雌ブタ共が!【侍】の家門の女がどれだけ苦労するかも知らずに馬鹿か?)
「刹那………それ、言われて
隣で
このイケメン双子兄弟が女性から遠巻きに視線を向けられるだけに留まっているのは、彼らの同伴者のおかげである。
彼らに同伴───────────────この場合、引率と言うほうが正しいかもせれないが───────────────しているのは、母親の
母親が同伴していては、逆ナンしにくいだろう。しかも、環は【鋼鉄の女】と
しかし、仰々しい異名を持つが怜悧な印象を与えるものの容姿端麗な麗人である。会場内には環に
推定で2人の息子と同じ位の背丈───────────────ピンヒールで高さがプラスされて息子たちより頭の位置が高い───────────────は成人男性の平均身長より長身で、それだけでも並の男性は圧倒される。加えて、プラチナブロンドの髪に青みがかった瞳の色は───────────────おそらく欧州の血が混ざっているだろう───────────────日本人離れした迫力がある。
環は、仏頂面で腕を組んで時折ひじの当たりで人差し指をトントンしている。
(あー、早く酒飲みたいな)
厳格な表情の割に考えていることは、仕事終わりのサラリーマンのようなことであった。
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