第22話 草原に従魔を求めて
【従魔:初級】を試すと決まってから、チユキは浮かれ気分のようだった。
職業紹介所から借りてきた『魔物図鑑:草原編』を繰り返し見ては、ウキウキとしている。
「そういえば、何でチユキは転生時に【従魔:初級】のスキルを授かったんだ? ペットでも飼ってたのか?」
「ペットは飼ってないけど、地域猫のお世話をしてたんだ。動物は昔から好きなの」
「へぇー、そうなんだな。じゃあなるべく可愛いモンスターを従魔にしたいってところか?」
「うーん、可愛さと強さは両立が難しいんじゃないかなぁ。
今までこの異世界で遭遇したモンスターも動物を巨大になったか、進化して勇ましくなったやつばっかりだったし、可愛いモンスターはFランクモンスターのホーンラビットくらいだったかなぁ」
動物好きと女の子らしい一面を見せつつも、チユキは実用性を取るのだった。最終的な行動指針が実利重視なのはチユキらしいといえばらしいが。
確かに森はデカくてゴツいモンスターが多かった。図鑑を借りて見てみると、草原はサバンナみたいなところでスマートで素早いモンスターが多そうだ。とはいえ、可愛くて強そうなモンスターはいなさそうである。湿地帯とかなら違うかもしれないが、物理攻撃耐性を持つスライムがウヨウヨいるとのこと。今のパーティは攻撃魔法が使えないから探索は難しいだろう。
可愛さを度外視するとすれば、うちらの
「やっぱりケンタウロスかなー」とチユキは当初の提案に立ち返った。
ケンタウロスは街中でもチラホラ見かけた。いろんなゲームで見かけて、作品によっては半人半馬のイケメンだったりもするが、この異世界では馬頭で腕を備えただけだった。
図鑑曰く汎用性に優れており、どの役割をやらせても心強い活躍をするとのこと。修練すれば、剣や弓の扱いはもちろん、魔法まで習得できる。さらに狩場現地までの移動と帰りの輸送にも使えて、パーティに足りない要素があればどこでも埋められると太鼓判を押されていた。
というわけで、草原に赴いた。
森との勝手の違いは、相手を選べないということだ。視界が開けているため、四方からモンスターが襲い掛かってくる。
リッテが感知したときにはモンスター側もこちらを視認しており、すぐさま向かってくる。襲ってきたところを手早く撃破しなければ、取り囲まれてしまう。
今でこそハイオーク飯の恩恵もあり、リッテの筋力が上昇しているから即刻の迎撃もできよう。パーティ結成当初のように毒の効きを待って各個撃破の戦法が通用しないのが、草原の戦闘であった。
草原も街から離れるほどモンスターが強大になり、ケンタウロスを含むEランクモンスターの生息地へと差し掛かってきた。
今日の主目的はケンタウロスではあるものの、まず向かってきたのはミノタウロスであった。ミノタウロスは牛頭の二足歩行するモンスターで、バランスファイターと位置付けられる。筋力と防御力と敏捷のいずれも高水準で、戦力の穴を突くことができず真っ向勝負を強いられる。
まずはリッテが前へと躍り出る。ミノタウロスの斧での斬撃を紙一重でよけて、すぐさま接敵し武器を持つ腕へと斬りかかった。部位破壊狙いである。しかし、一撃で破壊できるほどミノタウロスは脆くない。ケガで幾分動きが鈍りながらも、再びリッテへと反撃してくる。次は盾で受けて
こうしてリッテが相手の攻め手を削いでいる間にラドナの準備が整う。ラドナの掛け声に合わせてリッテが
ミノタウロスはオークのように猪突猛進ではない。
岩を回収すると動いておらず仕留めたようだったので、カードへと回収した。
───────────────
〔瀕死のミノタウロス〕
[モンスターカード]
───────────────
すると、いつもとカードの様子が違う。
普段であれば[アイテムカード]と表記されているところが、[モンスターカード]と表記されている。
初見のモンスターだったから、力加減が分からなかった。思った以上に耐久性があり、まだ生きていたようだ。
しかし、カードに納めることはできた。絶命させなくてもカードに納めることができるようだ。モンスターの生け捕りにもこのカードは使えるのか。
新しいカードの用途について相談しようとすると、向こうよりラッシュパンサーがこちら目掛けて駆けてきている。
その対処に追われて結局相談する機会も得られなかったが、チユキに「考えがある」と伝えて、俺に『アース・プロテクト』を重ね掛けしてもらった。
ようやく目当てのケンタウロスが駆けてきたので、リッテに様子見するよう静止して俺が一歩前へと立った。とはいえ、真正面から戦うわけではない。オーク同様に初見殺しで直線軌道上の足元にカードを投げつけてタイミングを見て岩石を出現させる。これで足をすくって転倒したところがチャンスである。
しかし、ケンタウロスは馬といえど腕がある。腕を使ってすぐさま起き上がるケンタウロスに構わずカードをかざして「納まれ」と命じた。……が、効果はない。ケンタウロスは手元の剣で反撃してくる。
最悪カードに納められないのは予期していた。すぐさま別のカードより手元に両手サイズの岩を展開し、防御力強化込みでケンタウロスの剣戟をしのいだ。俺は前衛ではない。ケンタウロスはすぐさま別角度より斬りかかってくるのだから何とか反応したところで、――ケンタウロスの態勢が崩れた。
「何してる!」とリッテが怒った声で、脚に切り付けていた。そのまま四肢を素早く切り付けて、ケンタウロスはたまらずに脚を折った。
ケンタウロスは器用ではあるが、打たれ弱い。特にか細い脚が弱点である。バランスを失ったところに「従魔にするなら倒してはいけないな」とラドナが胴体に浅く斬撃を食らわせ、大剣の腹で脳天を強打して意識を失わせた。
「これならカードに納められる」と割り込んだところで、パーティメンバーも異変に感づいた。
───────────────
〔
[モンスターカード]
───────────────
「倒さなくても、カードに納まるの?」とチユキが驚く。
「ああ、そうみたいだ。ちなみに弱らないとダメみたいだ。さっきケンタウロスが転んだところを納めようとしたらできなかったな。
こいつを従魔にするのは安全圏に退避してからでいいよな。ある程度狩ったら、早めに撤収しよう」
いつもよりも早めに切り上げて、初めての草原の冒険を終えた。
草原は比較的耐久性の弱いモンスターが多い。しかし、次から次へと戦闘が続く。森とは異なり、草原では常に獲物を狙う目線が突き刺さっていた。不慣れな緊張の連続にいつも以上の疲れを感じながらの帰還となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます