第21話 ラドナ参戦

「おおー、ラドナさん復帰するんですねー! おめでとうございます! 皆さんのますますの活躍、期待してますよぉ」


 冒険者ギルドにて、すっかり馴染みとなった受付のアンルさんから祝福を受けた。

 受付に来る前にも、ラドナはギルドに入った瞬間から注目を集め、ギルドにざわめきが起こっていた。

 ラドナはマントで痩せた右腕を隠している。すると筋骨隆々の左腕と背中に帯刀した身の丈大の大剣が強調される。こうなると、大剣一本で何でも叩き斬る達人の風格だ。背丈もバストもデカく、『大』尽くしの存在感は多くの人目を集めてしまう。

 騒がしくなり長居もしづらい雰囲気だったので、手早くいつものオーク討伐を受注して、ギルドを後にした。


 ギルドに隣接する『冒険者弁当店』で本日の昼食を物色しながら、「ラドナって有名人なのか?」とリッテに聞いてみた。


「『炎豪剣えんごうけんのラドナ』は有名。ランクDの冒険者は一流だから格が違う。私もこの目で活躍を見るのが楽しみ」と普段口数の少ないリッテが若干早口で興奮しつつ語る。

 それにしても『炎豪剣』とは格好いい二つ名だ。せいぜい『家電人間』の俺とは雲泥の差を感じる。


「ラドナはレベルが下がったって言ってたが、昔はどれくらいあったんだ?」と追加で聞いてみれば、「ケガをする前はレベル800を超えてた。ランクDのモンスターと闘ってたって」と驚愕の回答である。


 森までの道中はリッテが先導がてら短剣で次々と仕留めていく。

 リッテも毎日のハイオーク料理の恩恵を受けて、筋力のステータスが伸びた。すると【短剣術:初級】のスキルが芽生え、Fランクモンスターならば急所への一撃で倒せるようになった。これで道中は手こずることもなく、メインの狩場の森に辿たどり着く。


 森の奥に踏み入れ、オークを探して見つける。

 いつもならリッテの毒攻撃主体で弱らせた上で、俺が岩石カードでとどめを刺している。


「オークか、腕慣らしをさせてくれないか。私におびき寄せてくれ」


 ラドナが大剣を引き抜き、遠くオークを見据える。

 俺は「分かった」と答え、『ウォーター・シュート』即ち水鉄砲をオークに放った。こちらに振り向いたオークは俺目掛けて向かってくるが、その前にラドナが立ちふさがる。


「『バーニング・パワー』、『フレイム・エンチャント』……」


 ラドナが魔法を唱えると、刀身に炎がまとわりつく。そして、抜刀術のように左腕に持った剣を右下へと構える。凄まじい威圧をラドナから感じる。

 そしてオークが目前まで迫ったとき、大剣を上へと持ち上げて力強く踏み込み跳躍した。そのまま斜め下にオークの首目掛けて切り結ぶ。

 宙空にて大剣が舞う。赤くきらめく斬撃が視界を裂く。狙いとタイミングは正確無慈悲。オークの首が虚空へ飛び、巨体は地に沈んだ。

 まさしく『炎豪剣』一閃。あれだけ苦戦したオークが一刀両断された。驚きに空いた口がふさがらない。


「うん、オークならこんなもんか。病み上がりにしては上出来だ」と大剣を背中に納めながら、ラドナは満足げだった。左腕で力強く額の汗を拭う。


「す、すげえ……」と思わず間抜けな感想がこぼれる。戦士の理想を体現したような華麗な一撃必殺に、枯れた俺でも漢の浪漫心をくすぐられてしまう。思わず[首の無いオーク]の回収が遅れてしまった。

 これぞ剣と魔法のファンタジーである。昨日ボディガード役と言っていたのは謙遜にも程がある。鮮やかなる復帰戦に、リッテとチユキもラドナに賞賛の声をかける。


「ラドナはソロでEランクモンスターを倒せるのか」


「昔ならソロでDランクも倒していたのだがな。片腕落ちだとワンランクは落ちるか」と軽くため息を吐く。


「となると、狩りのやり方を変えるか? あの感じならラドナが別行動でソロ狩りをしててもいいのか」


「いいや、さっきのは十分な距離が取れて、強化と準備動作の溜めがあっての一撃だ。ソロならここまで入念に準備できない。私の一撃は重い分、準備が必要だし隙も大きいんだ。

 リッテと私のダブルアタッカーで後方支援を頼む」


 というわけで、俺はリッテのトドメとラドナの牽制役を務めて、今日の狩りの成果は、オーク5体にタイラントチキン2体と上々の出来であった。

 一人増えただけでいつもの2倍以上の成果になり、ギルドに持ち帰ればアンルさんから大いに賞賛を受けた。


 晩御飯は奮発することとなった。

 食事はレベルアップの大事な機会であり、英気を養ういこいのひと時でもある。

 今日も暑かった。キンキンに冷えたビールが旨い。タイラントチキンのから揚げが実に合う。おっと肉ばかりに偏ってはいけない。魔法使い志望には魔力を高めるエレメントスライムの冷製スープが欠かせない。充実したつまみと目覚ましい戦果に、話も弾んでくる。


「この調子なら狩場も変えられるんじゃないか? 囲まれてもさばけるようになってきただろ」と狩りの方針転換について、俺から話題を切り出してみた。


「以前の私なら草原を狩場にしていたな。あそこはオークと同じEランクのケンタウロスやミノタウロスが多いが、どんどん襲ってくるから倒し甲斐があるぞ」


「囲まれたら危なくないかな?」とチユキは不安がる。


「ケンタウロス達はオークよりも筋力が低い。今ならレベルが上がってるから、『アース・プロテクト』をかければ、チユキでも数撃は耐えられる。私もかばうから大丈夫」


「リッテが攻撃を引き付けているうちに、私が斬りかかればいい。多少攻撃を受けても、チユキの回復があればすぐ立て直しできる」


 俺を置き去りにした戦闘の想定が進んでいく。エースアタッカーの参戦に、インチキカードでなんちゃって遠距離攻撃をしていた俺の立場が危うくなってくる。

 そもそもカードによる『ロック・フォール』はリッテのヒット&アウェイの毒戦法と相性が良かったから有効だった戦術である。ラドナのように近接戦闘主体の味方を巻き込みかねないし、命中させるには動きを鈍らせる準備が必要だ。おまけに『ロック・フォール』は初見殺しの感があり、ネタがバレるとカードが宙を舞った時点で警戒されかねない。視野の限られる森でならまだしも、開けた草原で繰り出したなら、どの魔物もその様を見て回避に走ること間違いなしである。

 いよいよ荷物番に徹するしかなくなってくるかもしれない。えーい、【攻撃魔法:初級】の発現はまだか! もっとスライムのスープが必要か! チユキよ、【ミックス】だ! 大量のミックス製中級スライムの摂取を所望する!


「そういえばケンタウロスって馬だったよね」とチユキが呟く。


「そうだな、腕の生えた馬だ」とスライムで膨れた腹を気にしながら答える。


「なら、あたしも試したいことがある」と今度はチユキが乗り気だ。


「あたしのスキル、【従魔:初級】をまだ使ったことないんだよ。ケンタウロスなら移動でも頼れるよね。狩場にも早く行けるようになるし、試してみようよ!」


 おお、チユキよ。お前にもまだ伸びしろがあるというのか。俺を、俺を置いていかないでくれ。

 ……いかんな。なぜか若干悪酔いしている。久々に多めに呑んで、思考が悪い方にまわっている。というか、体が若いから、アルコールの効きも良いのか。

 うん、冷静に考えよう。パーティの戦力増強が見込まれる。誠に素晴らしいことじゃないか。

 新天地で新戦力を現地雇用する。夢にあふれる話だ。次々と開けていく我々の未来の展望に改めて乾杯するとしよう。 

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