第17話 精算と今晩の予定

「ふぅー、相変わらずギルマスが同席するのは心臓に悪いー。

 さてさて気持ちを切り替えて、納品といきたいところだけど、どうしますぅ?」

 

 ギルドマスターが去って安心した様子のアンルさんから、本日の成果の納品を持ちかけられる。


「もちろんギルドが引き取るよりもそのまま持ち帰ったほうが、たくさん食べることができますー。なので、今日食べる分をそのまま持ち帰って、残りを納品することをオススメしますぅ」


 なるほど。納品すればギルドを介して売ることになるから、その仲介手数料が差し引かれるということか。となると、一番食糧を消費するのは……。


 リッテに目線をやりつつ「スラムにはどれくらい食糧を持ち帰ればいいんだ?」と尋ねる。

 するとそこにチユキが割り込み「ああちょっと待って。さっき勢いで《ミックス》しちゃったけど、ああなるともう売れないよねぇ。となると、ハイオーク肉はお持ち帰り決定かなぁ」と付け加える。

 確か《ミックス》で精製したアイテムは日付が変わると元に戻るから売れないんだったか。


「それにしたって結構な量があるよな。《ミックス》されたアイテムって保存が効くのか?」とカードをかざして納めてみた。

───────────────

〔ハイオーク肉〕

[アイテムカード/ミックス]

───────────────

 無事カードに納めることができた。《ミックス》されているという情報も記録されているが、カードで保存できるのなら、消費に困ることはないだろう。《ミックス》されたアイテムがカード化していても真夜中に元に戻るかどうかは、今夜検証してみることとしよう。


「じゃあハイオーク肉はしばらくはスラムで消費してもらうことにするか」


 そう言うとリッテは口をポカーンと開けて硬直し「ハイオーク肉……!」と日当15万ゴルが判明したときと同じ反応をする。現代換算すれば高級ブランド肉が冷凍庫いっぱいに急に手に入ったようなものなのだろうか。スラム暮らしのリッテからすれば、食生活のハイパーインフレに思考が追いつかないのかもしれない。

 

「まぁハイオーク肉は体力と筋力を増強しますので、前衛役が食べるのには適した食材ですねぇ」とアンルさんが補足する。

 なるほど伸ばしたいパラメータに応じて食べるべき、つまりは狩るべき魔物が変わってくるのか。とはいえ、稼いだお金で伸ばしたいパラメータに対応した魔物食材を買い直せば良い話だし、無理に狩りづらいモンスターを狙う必要もないか。


「じゃあリッテが必要な野菜を選んだら、あとは精算して分配すればいいか」というわけで野菜モンスターと帰り道で採集した野草をカードから広げて、リッテの前に並べた。


「でも、あたしがもらってもいいのかな。リッテが弱らせてマサオミが仕留めて運んでが基本だったから、あたしは見ていただけのような……」とチユキが後ろめたそうに呟く。


「うーん、俺だっていいとこ取りで倒したようなものだし、リッテがほとんどのゴルを持っていっても納得の気もするが……」と付け足すと、リッテが首を振る。


「私だけでは倒せないし運べなかった。それにチユキの解毒がないと売れなかった。私ばかりもらうのも変」とリッテも言い分を主張する。


「うんうん、パーティ結成最初に一番よくある困りごとが戦果の配分割合ですぅ。シンプルに人数で割る、パーティで共通の財布を持つ、ランクかレベルに応じて報酬を比率分配する、といった解決方法が一般的ですが、私から見れば今回は三者三様でバランス良く活躍してますので、人数割りで平等に分配することをオススメしますー。

 みなさんのご意見に付け加えれば、チユキさん実は魔力がほぼ尽きるくらい消耗してます。リッテちゃんの毒は強力なので治癒も大変なんですよぉ」


「あはは、バレちゃったか。そういうことなら、みんな同じ取り分でやろっか」とチユキが照れ臭そうに切り出すので、俺もリッテも頷いた。


 アンルさんの仲裁はさすがだった。ギルドマスターから厄介者の俺たちを任せられるだけのことはある。

 そんなわけで後は必要な野菜を選んで、残りを均等に精算した。

 ちなみに精算金額はなんとギルドカードに金額チャージされた。各ギルド加盟店であれば、このチャージを使って買い物ができ、本部で現金化もできるらしい。キャッシュレス化は異世界にも及んでいた。この都市は現代に近いレベルで経済がまわっている感がある。

 そしてアンルさんに見送られて、この場はお開きとなった。


 ギルドの裏口から出ると、リッテはフードを目深にかぶって、髪とスコルラの突起を隠した。街中では不用意に見せないようにしているようだ。

 まずは教会に向かった。まともに冒険できず最悪出戻る可能性もあったが、無事に宿賃以上に稼げたと報告するためだ。

 しかし、教会を訪ねればトワルデさんは留守だった。言伝だけをお願いして教会を後にした。 


 そろそろ日が暮れてきた。後は夕飯と宿の確保で今日は終わりということになる。

 そう考えると、再びパーティとしての問題が持ち上がってくる。

 パーティを組んだ以上、極端に生活の程度が違うのもよろしくないだろう。リッテはスラム暮らしだ。風雨をしのぐのがやっとの住まいだろう。一方で俺たちが宿暮らしとなると、リッテに苦労を強いているような気にもなる。

 どうしたものかな、と切り出しあぐねたところで、2人に目を向けると、リッテは何かを言い出したそうにうつむいてもじもじとしている。リッテは戦闘の時はあんなに俊敏で苛烈なのに、平時はまるで臆病な小動物のようだ。


「どうしたの? リッテ」とチユキが問いかけると、意を決したように顔を上げる。


「一緒にうちでハイオーク鍋を食べよう!」


 ……突然の提案である。リッテはリッテで自分だけハイオーク肉を独占することを申し訳なく思っていたようだ。俺たち後衛がハイオーク肉をいただくのも勿体無い気もするが、駆け出しで全ステータスが低い状態なのだし、どんどん良いものを食べて全体の底上げをはかるべきではあるのだろう。


「うん、いいね! マサオミもそれでいい?」とチユキはかなり乗り気のようだから、「じゃあそうしようか」と俺も同意した。

 俺は二人が賛成する方針なら基本的にそれでいい。それに長い付き合いになるなら、リッテの住環境を見ておくのも大事なことだろう。2対1の多数決に流されながら、ひとまずはリッテのスラムへ向かうことになった。

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