第13話 Eランクモンスターへの挑戦

 その後もリッテの案内に従いながら、Fランクモンスターを順次撃破していく。

 リッテが【気配遮断】を駆使した急所への先制攻撃により弱らせて、俺が大岩で仕留める。シンプルではあるが、この繰り返しで倒せる。

 大岩で一撃で仕留めきれなくても、リッテが追撃することもできるのだからと、徐々にモンスターの種類ごとに丁度いい岩の大きさを試行錯誤していった。


 ホーンラビットはうまく仕留めることができた。

「お肉食べさせてあげられる……」とリッテが感慨深げに呟いていた。

 リッテはスラムの稼ぎ頭だ。ソロのときの薬草採集とは打って変わり、直に腹の膨らむ食材が手に入るのが嬉しいのだろう。


 それにしてもリッテは本当に優れた先導役だ。【気配察知】でモンスターと出くわすタイミングも分かるし、初手クリティカルの手際の良さといい、冒険者ギルドでアンルさんがその腕前に太鼓判を押していたのも納得の活躍だった。

 モンスターへの攻撃にも躊躇ためらいが無い。さすが冒険慣れしている。俺たちならモンスターとは言っても動物に矛先を向けるとなると、多少の抵抗感を覚える。それをリッテがああも鮮やかに先制攻撃してくれるからこそ、現代から異世界へと感覚を切り替えて追撃ができるのだ。


 次第に森の奥へ踏み入れていくと、剣戟けんげきの音が聞こえてきた。先に別のパーティが奥で戦っているようだ。

 リッテが歩みを止めるのに従う。

 

「この重い足音に、気配の大きさ。Eランクモンスターのオークが近くにいる」


 初めてのEランクモンスターとの接近。緊張感に手汗を握る。

 

「オークはどんなモンスターだ?」


「豚頭の人型モンスターで、身長はマサオミより頭一つ大きい。動きは単調で素早くはないけれど、とにかく体力と筋力がある」


「どう戦えば倒せそうだ?」


「私が先制攻撃で状態異常をかける。そして、毒と麻痺がオークの身体にまわるまで耐えしのぐ。攻撃は多分回避しきれるけど、受け流し損ねたら致命打になりかねないから身体強化がほしい。

 動きが鈍ったら一番大きな岩をぶつける。オークは丈夫だから、加減しないくらいで丁度いい」


「致命打って……」とチユキが息を飲む。


「Fランクモンスターはまともに攻撃を受けても多少のケガで済む。けれど、Eランクモンスターは格が違う。Eランクモンスターの分類基準は、駆け出しの冒険者を圧倒する攻撃手段を持っていること。その中でもオークは一番筋力が強い。防御特化の私でも数撃しか耐えられない」


「本当にあたし達が戦って大丈夫かな」とチユキは不安げだ。


「私は何度か戦ったことがある。毒を与えて隙を見て逃げるだけだったけど、感触は分かる。そう素早くはないし、今回は私が先制で状態異常を与える。不利になったら走って逃げれば追いつかれない」


 いざとなれば逃げられると聞いてチユキは安心したのか。「うん……、それなら挑戦してみよっか」と戦闘の準備に移る。


 ここまでのFランクモンスター戦とは異なり、持てるスキルを総動員しての戦闘になる。チユキが【土魔法】の『アース・プロテクト』をリッテに重ねがけして防御力を上げる。リッテは【支援魔法】の効果の程を確認しながら、【毒付与】と【麻痺付与】を短剣に用いて刀身に紫色をまとわせる。

 俺はと言えば、手持ちのカードのチェックくらいか。一番大きな岩がこれで、あとは倒したモンスターをまるごと収納したカードが大半になってきたな。


「いくよ」とリッテが小さく掛け声を上げて俊足で駆け出す。俺たちも後を追う。

 俺たちがオークの巨体を見て取った時には、リッテが先制攻撃を仕掛けていた。

 横合いからオークの前に躍り出て、オークが身構える猶予ゆうよを与えずにヘソの部分に短剣を深く押し込める。ヘソなら内臓に近い。毒も回りやすいだろう。大きな腹から短剣を引き抜くと、リッテは一旦距離を取って向かい合った。

 オークの身体は大きく、その体力は極めて高い。短剣の攻撃による直接的なダメージは少ない。オークはリッテの攻撃に動きを鈍らせる事なく、その反撃とばかりに棍棒を大上段から豪快に振り下ろす。

 リッテは飛び退いて攻撃をかわす。大振りの攻撃を完全に見切っている。それでも敢えて寸前のところで回避しているのは、相手の攻撃を誘うためだろう。もう少しで当たりそうなのに当たらない。その状況を演出することで、オークの注意を惹きつけているのだ。

 今のところは想定通りの形で戦闘できている。後は時間経過を待って毒で動きが鈍ったところに俺がカードを繰り出せばいい。オークの動きの変化を見守っていると、――突如リッテが正面のオークではない方向を見つめ、その目を見開いた。


「うそ……!? もう一体こっちに向かってくる!」


 リッテが大声で警戒を促す。正面のオークの攻撃を回避しながら、もう一方に注意を傾ける。

 

「さっき別のパーティが先に戦っていた方角! このままだと挟まれる! チユキ、マサオミ! 正面のオークの背後にまわって!」


 想定外の事態。俺たちに矛先が向けられれば、その命はない。リッテの指示に従い、オークの背面へと移動する。

 リッテは引き続き回避しながら、俺たちの動きを注視しつつ、もう一体の新手のオークの来る方向も見やる。

 集中力を割くべき要素が多すぎる。回避動作から繊細さが失われ、大幅に飛び退くようになる。

 攻撃が一向に当たらない事を悟られたのか。オークは顔を上げて辺りを見回す。移動中の俺とチユキの存在が認識されてしまう。オークはリッテから俺たちに標的を移して、こちらへと大股で向かってきた。毒が効くまではもう少し時間がかかるか。動作に若干のふらつきはあるが、ほぼ健在と見える。


「逃げて!」とリッテが叫ぶ。そう言いながら、リッテはもう一方を見据えている。もう一体の新手のオークだ。既に向こうに見えている。戦闘後で切り傷を負っているが動きは鈍っていない。リッテを標的にとらえている。


 一方で俺たちの前に元より交戦していたオークが迫る。

 指示通り逃げるべきか。このまま逃げればオーク自体は遠ざけられるだろう。しかし、リッテとはぐれることになる。それにリッテは引き続きオークと連戦となる。体力的にも厳しいはずだ。


 ――俺が時間を稼ぐべきか。

 

 リッテの指示が正しいだろう。今はぐれてもギルドで待ち合わせて合流すればいい。しかし、ずっと小さな身体を張って、ここまで俺たちを導いてくれたリッテを置き去りにしたくない。

 迫るオークを相手にして、俺のできることは――。

 

 一枚のカードを手にして、オークの足元へと投げつける。カードは地面に突き刺さる。


「出でよ!」と唱え、岩を出現させる。岩の使い道は頭上に落とすだけじゃない。

 唐突に出現した岩にオークは勢いを殺せずにそのまま膝下をぶつけ、転倒する。それを見計らって距離を取る。起き上がるまでは時間がかかるはずだ。

 これで少しは時間が稼げる。しかし、岩の手札は既に限られている。オークだって同じようにカードを繰り出せば警戒するはず。次はもう通用しないだろう。

 他に俺のできることは何だ。何としてもこの危機を切り抜けないと――。

 思考を必死に巡らせながら、俺は自身のステータスをにらみつけた。


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名前:マサオミ=カザハリ

種族:人間 性別:男 年齢:16歳

レベル:110 冒険者ランク:F

ジョブ:<ハウスキーパー>

スキル:【カード使い】、【言語知識:初級】、【鑑定:初級】、【風魔法:初級】、【水魔法:初級】、【生活魔法:初級】

パラメータ:体力D 筋力E 防御力E 敏捷E 魔力F 耐魔力F  

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