第12話 初めての魔物討伐
「とはいえ、最初からまとまった魔物討伐の依頼をこなすのはオススメできませんねー」とアンルさんは口をすぼめて、忠告する様に語る。
「パーティの役割分担は頭の中で組み立てられるのだけどー、実際に戦って試さないと、何とも噛み合わないこともあるのですー。最初から無理なモンスターと戦って、大ケガをする冒険者さんだっていますぅ。
今日はお試しということで、依頼を決めずに冒険するのがよろしいかと思いますー」
アンルさんの言う通りなのだろう。戦果を急いで、ケガをしてしまっては元も子もない。どのくらいの魔物まで倒せるかを分かった上で、確実にこなせる依頼を受けるのがセオリーではあるのだろう。
「ごもっともなのだが、実はこの都市に来るだけで手持ちの資金が尽きてしまったんだ。今晩の宿代だけでも稼ぎたいんだが、お手頃な依頼はないか?」
教会に舞い戻るのも申し訳が立たない。もっともらしい理由を混ぜつつ、もう少し踏み込んで聞いてみる。
「一応お知らせするのならば、今はオークが大量発生中で、素材を買い取り強化してますよー。でもでも、オークはEランクのモンスター。冒険者駆け出しでFランクのマサオミさんとチユキさんにはオススメできません。
Fランクモンスターでも可食部位が多くて人気のあるグレートチキンやホーンラビットがオススメですねぇ」
モンスターランクと冒険者ランクは比例する。どちらもFから始まり、一つ上のモンスターランクの依頼をクリアすることが昇格の条件の一つとなっている。
「分かった。じゃあ今日は依頼無しでパーティの連携を試しながら、無理をしない範囲で冒険してみることにするよ」
「はいー。でもでもパーティのバランスは良いと思うので、頑張ってみてくださいねぇ」
長々とアンルさんの受付にお邪魔してしまった。これ以上占領するのも申し訳ないので、ギルド内のテーブルへと移って作戦会議を続ける。
「リッテは普段どういう依頼をこなしてたの?」とチユキが問いかける。
「私は森の奥まで行って、薬草の収集がメイン。モンスターは倒せないけど、動きを止めたり、やり過ごすのはできるから。でも、パーティとなると、森の奥は危険。私だけなら【気配遮断】もあるけど、チユキたちが危ない」
リッテの冒険者稼業は真正面からモンスターを倒すのではなく、戦闘を極力避けて採集するスタイルだったようだ。
となると、リッテのやり方をなぞるのも難しいだろう。
「じゃあやっぱり倒せるモンスターを試しながら進んでいくしかないか。オススメの狩場とかは分かるか?」
俺の問いかけに、リッテはテーブルの端から地図を取り出して広げた。喫茶店のメニューみたいに地図が置いてあるんだな。
「この地図は冒険都市を中心に狩場を案内するもの。狩場は自然環境に合わせて4種類。東が森のエリア、西が湿地帯のエリア、南が砂漠のエリア、北が平原のエリア。
南の砂漠は強いモンスターが多いからやめた方がいい。
北の平原も開けていて取り囲まれやすいから最初はやめたほうがいい。
あとは東か西になるけど、西はスライムが多いから私たちには難しい。
森を目指すのがいいと思う」
「スライムはあたしたちには倒せないんだ?」
「スライムは液状のモンスターで物理攻撃なら急所を正確に一突きしないとダメ。攻撃魔法なら倒しやすいけど、私たちに攻撃魔法はない」
なるほどな。モンスターによって有効な攻撃手段が違うから、行けるエリアが絞られてくるのか。
「じゃあ森を目指す感じだな」
「うん。森なら私がいつも行ってるから先導する。それに……」
言い淀んだリッテに対して、チユキが「それに?」と顔を乗り出す。
「私と組んで、くれたから。もし狩りがうまくいかなかったら、今日はみんなの分まで私が稼ぐ。だから、心配しないで」
ポツリポツリと言葉少なに話すリッテが、語調を強めて言い切る。
すると再びチユキがリッテの手を取って語りかける。
「大丈夫、まだ戦ったことはないから根拠はないけど、リッテに無理はさせないから。絶対にあたし達で一緒に乗り切ろう」
「チユキ……」
涙の劇場の再演である。パーティを結成して間もないのに、二人には強い繋がりが芽生えている。『苦労人シスターズ』のユニットがバッチリと結成されている。これはこれで微笑ましい光景ではあるのだけれど、変な注目を集めるので、方針も決まったことだし旅立つこととしよう。
都市の東門にてギルドの仮身分証を提示しつつ、街の外に出た。
それにしてもとんでもない大きさの城壁だ。万里の長城がこんな感じなのだろうか。これならば魔物たちも寄ってこないだろうと見えるが、実はそれ以上の仕組みがあるらしい。この城壁は常に魔力供給を受けて『
街の外にも街道が整備されて続いている。これを
道すがら【カード使い】の弾丸として、大きな岩を手あたり次第確保していった。そうして、森の手前に差し掛かる。
「……あの木を超えれば気付かれる」
リッテが俺たちの歩みを手で制しながら警鐘を鳴らす。
「グレートチキンが2体。私単独でも無傷で弱らせることはできる。倒すのなら――」
リッテは臨戦態勢の鋭い目線で俺に確認を促す。
「俺がカードで倒す。カードが横切ったら、モンスターから距離を取ってくれ」
俺の指示に頷き、リッテが駆け出していく。俺たちもその後を追う。
チキン、即ちニワトリである。1mを超える大きさで、現代からすれば規格外のサイズだ。
背中を向けているところに、リッテが近づく。気配を消しているようだ。チキンは接近に気付く素振りもない。リッテは速やかに接触して短剣を横薙ぎに一閃する。首から鮮血が噴き出て、1体がよろめく。
続けざまにリッテがもう1体に小盾から突撃。胴体に打撃を食らい、よろめいて2体が固まったところをチャンスと見た。
カードを『ブリーズ』のそよ風に乗せて2体の頭上へと送り、『ロック・フォール』と叫ぶ。
カードから巨石が落下してグレートチキンを
リッテは首を捻りつつ警戒を解いて、手招きをする。
「グレートチキン相手に、岩が大きすぎ」
初めての討伐で力んでしまい、思わず超サイズの岩を繰り出してしまった。岩をカードに納めると、チキンがペチャンコに潰れている。ピクリともせずに、体液をペンキのようにぶちまけて、モザイクをかけてあげたいくらい悲惨な姿だ。
「うわー、これじゃあひき肉にしかならないかなぁ」とチユキが目を覆う。
討伐は倒せばいいというものでもない。素材として各部位を採取するならば、原型を保ちつつ命を絶つのが理想だろう。
倒すことは倒したのだが、完全にオーバーキルだった。
「ひとまずは回収しとくか」と可哀想なグレートチキンをカードに納めた。
───────────────
〔潰れたグレートチキン×2〕
[アイテムカード]
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カードに納まる様子を見て、「便利……」とリッテが呟く。
「カードに納めれば時間は経過しないから、処理とかは後にしよう。誰か処理できる人を知らないか?」
「お店とかギルドでも処理はしてくれる。私も少しならできるけど、うちのスラムならラドナが解体は得意」
「ラドナ?」と耳慣れない単語が出てきたので問いかける。
「ラドナはスラムで私と一緒に子供たちを世話してくれてる。今は引退した元冒険者で、モンスターの処理にも詳しい」
「そうか。ならカードに納まるだけ狩ったところで、今日は切り上げることとしよう」
「にしても、リッテはすごいね! あんなに素早く鋭くモンスターを弱らせちゃうなんて!」とチユキに誉められると、リッテは照れ臭そうに短髪の頭をかく。
「ありがとう、頑張る」と言葉少なだが、頼りにされて嬉しそうだ。
「それにしても、あたしは出番がなかったけど良かったのかな?」
「チユキの役目はケガしたとき、強化が必要なとき、解毒処理が必要なとき。チキンくらいなら無強化の無傷で毒も使わずに弱らせられる。でもEランクモンスター相手ならこうはいかない。そのときはお願い」
リッテは森の奥に目を向け、これから出くわすモンスターへの警戒を促す。
時間はお昼に差し掛かったところ。狩りの時間はまだこれからだ。
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