第二章 毒を食らわば衣食住まで
第10話 冒険者ギルドと前衛の求人
冒険者ギルドに行く手前で、隣接する職業診断所にて手早くジョブの変更を済ませた。各条件さえ満たせば、後は大きな水晶に手をかざして志望するジョブを宣言するだけで終了だ。
職業診断所自体は混んでいた。ジョブの変更もそうだが、看板にうたう通り今後の目指すべきジョブの相談に、スキルの鍛錬や獲得の相談にも応じているようだ。俺たちも冒険で詰まったときに、再びお世話になることだろう。
「結局<プリースト>にしたんだー」とチユキが打ち明ける。「回復と支援はパーティには欠かせないだろうし、<モンスターテイマー>はもっと狩りに慣れてからでもいいだろうし」と相変わらず実践的なことを話している。確かに<プリースト>はパーティで重要な役割だろう。
一方の<モンスターテイマー>もこの世界ではメジャーなようだ。特に馬型のモンスターを連れている冒険者は何人も見かけている。競走馬のような鞍が付いていたりするのを見ると、バトルの仲間としてだけではなく、移動・運搬手段として重宝されているのだろうか。
今後の展開によってはチユキのジョブは臨機応変に変えていく必要があるかもしれない。<ハウスキーパー>一択の俺と違って贅沢な悩みだな、チクショウ!
そして遂に冒険者ギルドの扉を開く。
道中も感じていたが、この街には多様な人種・種族が行き交っている。髪の色もアニメのような赤や緑は当たり前で色とりどりだし、耳の特徴的なエルフやら獣人も見られる。
そんな中だから俺たちは目立つこともなく、カウンターへと辿り着いた。受付は犬耳の獣人の女性で、栗色の巻き髪と垂れ目が柔和そうで話しやすそうな印象を与えてくる。
「冒険者ギルドへようこそー。初めてのご利用ですかぁ?」
間延びしたのんびりな口調だ。しかし、まだ何も話していないのにあっさりとこちらの用事を見抜いているあたり、受付としての腕は信頼できそうだ。ネームプレートには『アンル』と記されている。
「はい、仮登録からお願いします。にしても、初めてってすぐ分かるんですね?」
「ええ、顔を覚えるのが仕事みたいなものですからー。2人組の黒髪の少年少女というだけで、見覚えがないとすぐに分かりますよぉ。どこかからこの都市に来たんですかぁ?」
「そうなんです。東のほうから冒険者として腕を上げたいと思って、こちらに来たんです」
「分かりましたー。では、こちらに必要事項の記入をお願いしますぅ」
渡されたのは名前やジョブを記入する申し込み票だ。イメージとしては住民票とかの交付を申し込む用紙に近い。
記入票の下にインク台がセットされており、およそカーボン用紙方式で文字を記入することとなる。ペン型の棒を名前欄にかざして自分の名前を思い浮かべると、【言語知識】により書くべき文字が浮かんでくる。それをなぞっていけば、言葉の壁を安々と越えて記入できるのだ。
最後に指先を一番大きな枠に宛てて赤く血液が染み出せば記入完了となる。これでレベルやジョブの情報を識別して、個人情報としているらしい。複写式になっているのでギルドの控えと自身の仮身分証として発行し、最初は紙1枚から冒険者として出発することとなる。
「はい、これで仮登録の完了ですー。早速依頼を受けますかぁ?」と問いかけられたが、チユキと顔を合わせて、目下の切実なバトル事情を打ち明ける。
「実は、俺たちはどっちも後方支援に向いたジョブなんだ。誰か前衛と組めればと思っていたんだけど、いい人はいないか?」
「うーん、そうですねー」と受付のアンルさんは考え込みつつ、チラリと俺たちの後方に目を向けた。目線に従って振り向くと、そこには小柄な少女が順番待ちをしていた。
紫色の短髪に、頭頂部には甲殻類のような角があり、金色の目をしている。こちらが振り向いたのに気づくと、戸惑ったように手を前にやり目をキョロキョロさせつつ身を縮こませた。装備は小盾に短剣を携えており、旅装束は若干傷んでおり年季が入ってるように見える。異種族の少女のようだが……。
「この方もパーティを探しているんですか?」とチユキがアンルさんに問いかける。
「ええ、前衛ならとても頼りになる子ではあるのですけど、なかなか組んでくれる人がいなくてねー」とアンルさんは少し目線を下げながら、何かためらいがちに答える。
誰もパーティを組んでくれない、ということは恐らく何らかの難があるのだろう。しかし、こちらとて駆け出しも駆け出しで、選り好みをできる立場ではない。
「アンルさんがお勧めしてくれるということは、信頼できる方なんですね?」と俺は念押しの確認をするように目線を強めて問いかけた。
「ええ、もちろんです! 人柄もスキルも大変信頼できます!」と、アンルさんは緩い口調をかなぐり捨てて、きっぱりと言い切った。
ギルドの受付からここまでのお墨付きを得られるのなら、人格的に信頼ができる子なのだろう。恐らくパーティを組めない理由は別の事情があってのことだろう。
「分かりました、是非ともパーティを組みたいと思います」と声音を強めて答え、チユキの方を見やる。チユキも頷き返して、賛成のようだ。
「リッテちゃんもそれでいいー? 私が仲立ちの紹介をするけど……」とアンルさんが少女に話しかける。
リッテと呼ばれた少女は戸惑った様子ながらも、「うん、お願い」と言葉少なに同意を示した。
リッテの同意を受けて、アンルさんは眼鏡を取り出して装着した。そして、目つきを鋭くしてチユキ、俺と見ていき、眉をしかめた。
「え、えっと【カード使い】とはどういった……スキルですぅ?」
どうやらリッテへの説明のために俺たちの『鑑定』をしたようだ。眼鏡は『鑑定』を補助するマジックアイテムみたいなものか。
そして、【カード使い】のスキルの解釈に詰まったらしい。確かにチユキは【ミックス】のスキルが分からなくても、【回復魔法】と【支援魔法】でパーティを後方支援できると分かりやすい。一方の俺は【生活魔法】がスキルの主体なわけだから、非戦闘要員と判断されてもおかしくはない。となると、【カード使い】がどう使えるか分からなければ、俺のパーティでの役割が判別できない。やっぱり説明が必要になるよな。
「具体的な使い方としては、カードを介して大岩をモンスターの頭上に出現させたり、カードに収納して素材や荷物を持ち運ぶことができるんだ」と説明すると、アンルさんは犬耳をピクピクとさせ、「おおー、それはいいですねー!」と興奮を示した。どうやら有用と思ってくれたらしい。SNSで『いいね!』をもらうとこんな気分になるのだろうか。評価されるのは嬉しい。
「『鑑定』のないリッテちゃん向けに説明するとー、まずチユキさんは【支援魔法】と【回復魔法】をどちらも備えた【土魔法】の<プリースト>。後方支援には申し分ないし、リッテちゃん的には解毒が使えるのもポイントが高いよー。
マサオミさんは【風魔法】と【水魔法】を兼ね備えた【生活魔法】使いの<ハウスキーパー>で、旅の補給要員と素材の手入れには最適だねぇ。おまけに【カード使い】っていう固有スキルで運搬と遠距離攻撃もできるってー。
こなせる依頼の幅もかなり広がると思うけど、リッテちゃん!どうかなぁ?」
仲立ちの紹介というのは、代理の『鑑定』のことらしい。それにしても俺たちについては、かなり的確な説明だ。こうも理路整然と説明され太鼓判を押されると、なかなか良い勢いで依頼をこなせるのではとワクワクしてしまう。
「『鑑定』はあるけど駆け出しの冒険者のお二人に説明すると、リッテちゃんは<ディフェンダー>で足止め主体の前衛だよー。決め手の攻撃手段はないけれど、【毒付与】と【麻痺付与】で敵を弱らせることが得意だから、そこに遠距離攻撃を打ち込めば、いろんなモンスターが倒せそうだねぇ。
レベル差は2倍以内だから、リッテちゃんを『鑑定』で見てみてねー」
鑑定の推奨に従って、リッテのステータスを見てみることとした。
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