青年A
連続ひったくり事件の幕切れは突然訪れた。
ひったくり犯が捕まったのだ。
ある夜、何回もの成功に味を占めたひったくり犯は、いつもと同じようにして背後からじっくりと迫り、鞄を捕らえて走り過ぎた。
そこまでは予定通りだった。
しかし、思わぬ事態が生じたのである。
すぐ近くの十字路で横から自転車が飛び出してきたのだ。
自転車を避けようとしたバイクはバランスを崩して転倒した。その時、脚に怪我を負った。
当然事故現場の周囲には人が集まってくる。
犯人はそのまま病院へと連れていかれ、やがて逮捕されたようだ。
それは、二回目に篠塚と会った日の五日後のことだった。
俺は事件の解決をニュースで知った。
無事犯人が捕まったことを嬉しく思ったが、呆気ない終わり方に悔しさも覚えた。
罰だ。何人もの被害者を出した罰が与えられたんだ。
今回は俺が犯人を捕まえることはできなかったが「次こそは」と気合いを入れる。
また次の事件を探さないとな。
それにしても、まったく。どんな奴が犯人だったんだか。
ニュースで犯人の名前を聞いたとき耳を疑った。顔写真が俺の頭に浮かんだ顔と一致した。
なんでこいつが。
隣にいたはずだったのに。
なぜ俺は気が付かなかったんだ。
「勇平君は視野が広くないように思えたんだ」
篠塚に突き付けられた言葉だ。
嘘だ。そんなことはない。
「誰かを助けることはできないよ」
篠塚の声が執拗に頭の中に響いてくる。
映し出されたテロップを、声に出して噛みしめるように確認した。
「岸本洋介、二十歳」
こいつ。ひったくりの被害に遭ったのは嘘だったのか。
一緒に犯人を捜すふりをして、隣で俺を馬鹿にして笑ってたんだな。
テレビを別のチャンネルに変えた。
芸能人たちが賑やかに番組を進めているが、今は笑えなかった。
ふざけるな。
俺はテレビゲームを取り出した。
主人公がゾンビからヒロインを救う英雄譚。
このゲームが俺の存在を待っている。
この中の世界ならば、俺は救世主的存在になれる。
ひったくり?スリ?
そんな規模の小さいものではなくて、俺はもっと華麗に人助けをするんだ。
待ってろよ。
今俺が助けに行くから。
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