第3話 転生者と少女は友達が少ない。

────学校────


 


現在俺は、担任のそけっと先生に双魔剣を向けている。


……どうしてこうなった。


 


 


 


入学式を何事無く終え、クラス名簿が書かれた紙を手にした俺は、先生に一言。


「……先生、何故俺は女子のクラスに割り振られているのでしょうか……?」


教室の中、周りの女子の視線をスルーして、不貞腐れながら呟いた。


 


その言葉に対して、先生は。


「お前も、割と親しいゆんゆんと同じクラスの方が早く里に馴染めると思ってな。学校からの配慮ってやつだ」


「……素晴らしい配慮をどうもありがとうございます」


 


俺の嫌味一杯の言葉を聞き流しながら、他の生徒へ視線をやり、こう言い放った。


「と言っても、納得しない生徒も多いだろう。今日は自己紹介で終わるとして、明日くろねには、先生と試合をして実力を見せてもらう」


 


そんな、巫山戯た事を。


「え、拒否権は?」


「別に拒否してもいいが、その場合、冒険者の君がクラスに馴染むのは難しいと思うが?」


 


先生に痛いところを突かれてうっと呻く。


それと同時に、周りがざわめき始めた。


「…………この試合は族長さんからの提案でもある。もし俺に勝てなければ、学校に行っても無駄だろう、ともな」


「…………! 分かりました。明日、先生と戦えばいいんですね」


 


確かに、冒険者の俺がここにいる事自体が異常なのだ。ある程度の強さを証明しなければ、俺は排斥されるばかりだろう。


 


俺は確認の為に、机の横に掛けてあった物を上に掲げて。


「先生、これの使用は?」


それを見た先生がニヒルに笑う。


「…………認めよう」


 


俺の手に握られた双魔剣を見て、教室が一層ざわめいた。


 


 


 


さて、雰囲気は打って変わって賑やかに。


この教室では、現在自己紹介が行われていた。


少し期待したのだが、そこは流石の紅魔族。ゆんゆんの様なまともな人は、今の所誰一人としていない。


この自己紹介は席順に行われており、次はゆんゆんで、その次の次が俺だ。


後ろからでも分かる程に顔を赤くしたゆんゆんが立ち上がり。


「わ、我が名はゆんゆん……。やがて紅魔族のお、長となる者……うぅ」


 


おい、ゆんゆんよ。あの時の堂々とした自己紹介はどこへ行った? おい、ゆんゆんよ。


あいつはぼっち確定だな……と、俺の番か。


「我が名はくろね! 新たに紅魔の里に降り立ちし者にして、双魔剣を有する者……!」


「「「「「おぉ……」」」」」


 


俺の自己紹介が炸裂した瞬間、周囲の視線が好奇な物に変わる。


「少し事情があって、今は族長さんのお世話になっています。紅魔族では無いですし、皆さんと違って冒険者ですが、その分頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」


 


雰囲気が少し柔らかい物になり、少しホッとする。何なら最初から帰れコールされるまで覚悟してたんだけどな……。


 


最後の俺が自己紹介を終えると、先生が立ち上がり。


「よし、今日はここまでだ。くろね、明日の試合、忘れるなよ」


と、俺に念を押して教室を後にした。


 


 


 


下校中の事。


俺は、心無しかしょんぼりしているゆんゆんを見て、一言。


「学校お疲れ。……友達出来たか?」


「あああああああああああああああああ!!」


 


ゆんゆんが目を紅く煌めかせながら、俺に掴みかかってきた!


「くろねの周りに皆集まってから話しかけ辛かったのよー!!」


 


こいつ、自分がぼっちなのを人のせいにしやがった!


「確かに、俺の周りに皆が集まってたのは認めよう。それでもお前がぼっちなのは俺のせいじゃねぇだろ! このコミュ障が! それともあれか? 俺がモテモテだから嫉妬して痛たたたたたたたたたた!」


 


俺のコミュ障発言が逆鱗に触れたのか、ゆんゆんが力一杯腕を締め上げてきた。


「笑えない冗談言わないで! 嫉妬なんてする訳無いでしょ!」


「悪かった! 悪かったって! とりあえず腕を離せ! 話はそれからだ!」


 


やっと開放された腕を摩りながら。


「まぁ気にするなよ。俺への注目なんてすぐ消滅するだろうし。明日の頑張り次第では、リア充も夢じゃないだろ」


「そういえば、明日先生と戦うんだよね? 勝てるの?」


 


先程までの反狂乱は何処へやら、一転して心配する様な表情になったゆんゆん。


俺は指を振りながら、自信満々に言う。


「楽勝だ。今日までの暇な時間、ずっと双魔剣の練習してたんだぜ? 剣の腕もあるお父さんなら兎も角、他の人には負ける気がせん」


 


実際問題、双魔剣をある程度使いこなした俺なら、上級魔法の数発や数百発程度なら避け切れると思う。


 


俺は一拍置いて。


「まぁそういう事だ。要するに、多分勝てる」


「本当に大丈夫なのよね……?」


「何度も言わせるなよ。先に言っておくが、先生の魔法は俺には絶対当たらないからな?」


そう断言した。


 


翌日。


草を魔法で焼き払っただけの広場で、俺は先生と対敵し、双魔剣を抜く。


先生は杖を構え、野次馬と化している他の生徒に向かって。


「誰か、開始の合図をしてくれ」


 


そう叫ぶと、杖を空に高々と掲げた。


「我が名はぷっちん。アークウィザードにして、上級魔法を操る者……」


先生が決めポーズを取る中、群集の中から。


「それでは、か、開始!」


と、声が聞こえた。


 


剣を下ろし、ゆっくりと先生に歩み寄る。


俺がのんびり歩いているのを好機と見た先生は、魔法の詠唱を素早く終え。


「『ライト・オブ・セイバー』!」


輝く手刀を俺に振るう。


 


のだが、その光は俺をすり抜け、後ろの木々を真っ二つに切り裂いた。


「それが双魔剣の能力か……」


先生が驚愕しながら呟く中、速度を上げて走り出す俺。


 


次の詠唱が終わる前に、一気に終わらせる!


つもりだったが、先生の詠唱が予想以上に早く、あと少しという所で間に合わなかった。


「『フリーズ・バインド』!」


先生の声と同時に、俺を氷が包み込んだ。


 


しかし、俺は氷を通り抜けて突き進む。


先生が俺の射程に入った刹那、躊躇無く右手の魔剣を振り抜いた。


それと同時に、先生が何処からともなく短剣を取り出し、俺に突き立てる。


 


それに合わせて、再び能力を発動する。


俺の勝ちだ。


 


突き付けられた短剣は俺をすり抜け、その勢いで、先生も俺をすり抜ける。


後ろで体勢を崩した先生に、振り向きざまに双魔剣を突き付けた。


 


 


 


『乖魔剣・双』の能力。


《エセリアルシフト》をある程度使いこなした俺は、能力の固有名を真剣に考察してみた。


その結果。


 


この能力の名は、《万象乖離》にしようと思う。


 


 


 


授業を全て終えた俺は、昨日と同じ様にしょんぼりしているゆんゆんに。


「…………ぼっちゆんゆん」


「ああああいやああああああああ!!」


デジャヴを感じる叫びと共に、ゆんゆんが襲い掛かってきた。


 


昨日もこんな事あったな……と思いながら。


「おい、そろそろ煽り耐性付けろよな! 昨日と同じ事言われてキレてんじゃねぇよ!」


「何で私のせいみたいな言い方なのよ! 今日なんて特にどうやって話しかければいいのよ!?」


 


腕を後ろに極められ、涙目になる俺。


警察が犯人を取り押さえる時のあれを想像してくれれば、多分正解だろう。


昨日は兎も角、今日に関しては俺にも言い分がある。


「確かに、俺の周りに人が集まっている時に話しかけるのは難しかったかも知れない。けど、俺が試合してる時はどうしてた?」


「うっ……端っこで座ってたわよ……」


 


ほら見た事か。


勝ち誇りながら、俺は続ける。


「つまり、友達を作る機会はあったんだろ? つまり俺は悪く無い。分かったな?」


「うぅ…………」


 


涙目になって蹲るゆんゆんから視線を外し、手に握られた一本のポーションを見る。


「これ、どうすっかなぁ……」


「……それってスキルアップポーションじゃないですか。どうしたんですか?」


「さっき先生から貰ったん……ってめぐみん!? いきなり湧くなよ……びっくりした」


 


後ろから話しかけてきたのは、同じクラスで、ゆんゆんの隣の席のめぐみんだった。


 


 


 


《スキルアップポーション》


学校で優秀だった者に与えられるポーションで、飲むだけでスキルポイントが上がる、とても希少なポーションだ。


 


何故俺がそんな物を持っているかと言うと、あの戦いの後先生が。


「お前が真の双魔剣使いとなる日もそう遠くないだろう……」


とか何とか言って、渡してくれたからだ。


 


さて、何を悩んでいるのかと言うと。


「……これって売ったら幾らになるんだろう?」


「この男最低です! 私達にとってそのポーションは喉から手が出る程欲しい物なんですよ?」


 


めぐみんの猛り狂いに、俺は一考して。


「そんなに欲しいの? ……だったら買う? 一万エリスで売るよ?」


「そんな大金が払えるなら、今朝の朝ご飯がもう少し豪勢な物になってますよ……」


 


そんな切実な言葉に、俺の目が潤む。


その瞬間、くろねに電流走る……!


「……だったらゆんゆんに奢ってもらえよ。こいつきっと喜ぶぞ」


「「!?」」


 


めぐみんは歓喜し、ゆんゆんは咎める様な表情で俺を見つめる。


こいつ、俺の意図を理解してないな……。


俺はゆんゆんの腕を引っ張り。


「……おい、ゆんゆん。ちょっと来い」


「えっ? ど、どうしたのよ!?」


 


戸惑うゆんゆんを横目に、めぐみんに声が届かない場所へ引っ張っていく。


「何言ってるのよ! どうして私が奢る事になるのよ! ねぇくろね!」


「まぁ落ち着け。俺にも考えがあるんだよ。これを足がかりにして友達作れ。いいな?」


 


 


 


☩ ──── ☩


 


 


 


……こいつ、ヘタレやがった!


今、ゆんゆんとめぐみんは、紅魔の里唯一の喫茶店にいる。


────何故か、俺も一緒に。


 


いや、俺も帰ろうとしたんだよ?


でもゆんゆんが、助けを求める様な視線で俺を見てくるんだよ。


それでも帰ろうとしたら、有無も言わさぬ顔になりながら、俺の袖を掴んで来たんです。


あれ……もしかして、ヘタレたのって、俺なのん?


 


結局、俺の筋力ステータスでは振り払えず、現在に至る訳だが、まずは。


「お前どんだけ腹減ってたんだよ……」


「最近は質素な物しか食べていなかったのですよ……あ、すいません。これください。


 


席に座って早々、カロリーの高い物を頼むあたり、本当に欠食気味なのだろう。


「………………」


「何ですかその可哀想な物を見る目は! あと、目を潤ませないでください!! 私まで悲しくなって来るじゃないですか!」


 


だって仕方が無いだろ。


俺より少し年下の女子が、カロリーを基準に品を注文してるんだぜ? 悲しくもなるってもんだ。


 


それはともかくゆんゆんが、予想外の出費で落ち込んでいるせいで、当初の目的が達成出来ない。


何となく、ゆんゆんの谷間に割り箸を差し込んで遊んでいると、めぐみんが親の敵を見るかのような視線を、ゆんゆんの胸元にぶつける。


 


そして、自分の関東平野をペタペタ触り、暗い表情でため息をついた。


そんなめぐみんに、俺は一言。


「……大丈夫だって。まだ育ち盛りだろ」


「だからその視線は止めてください!!」


 


めぐみんの号哭が、喫茶店内に響き渡った。


 


 


 


目的も果たせぬまま、喫茶店を後にした俺とゆんゆんは、俺の部屋で唸っていた。


スキルアップポーションを振りながら、俺は冒険者カードと睨めっこし、それを覗き込むゆんゆん。


 


気になることがあるので、俺はゆんゆんに。


「なぁゆんゆん。冒険者がまず最初に覚えるスキルって何があるんだ?」


「自分が使いたい武器のスキルとか、汎用性が高い盗賊系スキルって聞いた事が……ってもうスキルポイント使っちゃうの? 上級魔法を覚えたいなら、貯めておいた方がいいと思うんだけど……?」


 


不思議そうに尋ねるゆんゆん。


俺は、お前は何を言っているんだ、と前置きして。


「俺の知力なら、スキルアップポーションなんて腐る程貰えるからな。だから先に他のスキルを覚えたいんだよ」


「そういう事ね……」


 


納得したような声色でゆんゆんが答えると、腕を組んで思案顔になる。


「……二刀流なんてスキル聞いた事無いし、やっぱり片手剣じゃない?」


「二刀流スキルが、無い……だと……?」


 


地味にショックを受けて、その場にひれ伏す俺は、一縷の希望を託して、ゆんゆんに聞いてみる事にした。


「……片手剣スキルって、剣から派手なライトエフェクトが発生したりする?」


「何言ってるのよ。そんな事ある訳ないでしょ」


「…………この世界の神様は死ねばいいと思う」


 


神様と言ったら、あの時の女神。


もし、あいつがこの世界の支配者だったとしたら、次会った時は必ずぶちのめす。


ゆんゆんが、思い出す様に。


「片手剣スキルは、片手剣の扱いが上手になるだけよ?」


「相分かった。絶対習得しない。上級魔法を習得出来るスキルポイントを貯めて、残りのポーションは売り捌く事に決めた」


「それ、本気だったの!?」


 


うわぁ……と呟き俺を見るゆんゆん。


「おい、その目は止めろ。俺が必死に頑張って貰ったポーションだ。俺がどうしようが自由だろ」


「くろねの知力ステータスだったら、勉強なんてする必要無いわよね? 頑張る事なんて無いじゃない」


「……それはさておき」


「話を逸らした!?」


 


驚くゆんゆんだが、次の話も案外重要な事だと俺は思う。と言うか、多分今までの話よりも大事。


「お前、喫茶店でめぐみんと何話した?」


「えっ? え、えーっと……」


 


明らかに狼狽し、何かを思い出すフリをするゆんゆんに、俺はダイレクトアタック!


「予想外の出費にずっと落ち込んでたよな!? 確かに勝手に決めたのは俺だ! けどな、あの時上手くやっていれば、めぐみんと友達になれたかも知れないんだぞ!」


「く、くろねは何の損もしてないじゃない!」


「ふっ、残念でした。俺は自分の分は自分で払ってる。お父さんの手伝いをして得た、お小遣いでな!」


 


ドヤ顔と共にジョジョ立ちを決める俺を、恨めしそうな目で睨むゆんゆん。


そんなゆんゆんに、続けて俺が。


「そんなんだから、いつまで経ってもぼっちなんだよ! どうせ、部屋のぬいぐるみにでも話しかけて寂しさを紛らわせてるんだろ!?」


 


俺の言葉に、心外だとゆんゆんが。


「そ、そんな事、今はしてないわよ!」


「……今はって事は、昔はやってたのかよ。俺でもそんな事してなかったぞ? ……今まで弄って悪かった。本気で悩んでたんだな……」


と、棒読みで言う俺。


とうとう涙目になったゆんゆんが。


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! …………って、くろね、喫茶店で私に何かしてたわよね?」


 


ゆんゆんの絶叫の中、踏ん反り返って勝ち誇っていた俺は、ビクンと震えて動きを止める。


「…………何のことだ?」


「惚けないで! 私の胸に割り箸差し込んで遊んでたでしょ!」


 


俺はキョドりながら。


「そ、そ、そんな事する訳ないだろ、って止めろ止めてくださいお願いしまあああああああああああああああ!!」


 


双魔剣に手を伸ばすも、後少しという所で届かず、両手を押さえ込まれる。


そして、そのまま関節を極められ、もう痛みで声も出せないレベルだ。


それを伝えるべく、足をジタバタさせて音を出しているが、ゆんゆんは気が付かない。


 


本気で腕が危なくなって来た時、部屋のドアが開かれた。


またお父さんか? いや、今更この状況を見られたとしても、もう何も怖くない!


 


見事にフラグを立てた俺が見た者は……。


「ゆんゆん、ここですか? 先程のお礼として、父がくれたボードゲームを…………何をやっているのですか?」


「ちょ、ちょっと待って! 違うの!」


「……この状況は、一切の言い逃れは出来ないと思うのですが」


 


めぐみんが顔を赤くして目を背ける中、俺は恐る恐る聞いてみる。


「……めぐみん、お前はこの状況をどう捉えてるんだ…………?」


「どうって……二人がイチャイチャしているとしか……」


「!!!!????!?!?」


 


それを聞いたゆんゆんが、声にならない声を上げて、その場に崩れ落ちた。

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