遊ぼうが言えないんです

「やっと終わった~お弁当だ!」

つい口に出しちゃった。彪月君と違うクラスで良かったと思った瞬間。痴態を

晒すに等しいからね。でも一緒のクラスだった方が話す機会も多いだろうし、

席替えで隣になれるかもだし。葛藤に苛まれて訳が分からない。今なら1+1も

出来ないと思う。待って、落ち着くために雑念に頼ろう。今からはお弁当だ。

誰と一緒に食べようかな。ちょっと三組覗いてもいいよね、彪月君とは無理だと

思うけど奏太なら大丈夫なはず。


「奏太、一緒に弁当食べない?」

私の唐突なる誘いに一瞬無表情になり、その後には苦笑いを浮かべる。奏太は

やれやれという顔をして自分の席に戻り、周りで一緒に弁当を食べている人に

聞いてくれている。一緒に弁当を食べる数人の人達の中には彪月君がいる、

もしかしたら一緒にお弁当食べれるかも。急に心が躍る。

「皆良いってさ。良かったな。」


「ありがとう、一緒に食べる人見つからなくって。」

私は席に着くと皆にお礼を言った。今日のお弁当の中身は何かな。お母さんの

作るお弁当に外れは無いけれど、何が入っているのか胸を弾ませて蓋を開く。

「心陽ちゃんのお母さんって料理上手なんだね。」

私のお弁当を覗き見た彪月君が言う。色とりどりのお弁当。冷凍食品では無く

全てお母さんの手作り。

「私のお母さんのご飯すっごく美味しいよ。朝ごはんも手込んでるし。」

お母さんを褒められた事が誇らしくて笑みを溢す。


私はその後も皆と色々話をしてお弁当を食した。私のお母さんが料理上手な

話をしたからか、お母さんの話ばっかりだった。お弁当を食べ終えて解散

した。私は何をしようかと考えていたら声を掛けられた。

「心陽、外で遊ぼ。奏太君と彪月君仲良いんでしょ。誘ってくれない?」

頼まれて嫌というほど私も酷い人間じゃない。良いよと答えて、奏太を

誘いに行く。

「奏太、外で遊ばない?」

嫌そうな顔をされては罪悪感が湧き出る。奏太に悪い事しちゃったと

思うと悲しくなる。学校入って一番最初の友達でもあるしね。

「まあいいけど、食後だから大して軽々と動けないぞ。」

奏太は参加してくれるみたいだ。後は彪月君、話しかけるのハードル高い。

誘わない訳にも行かないし、私も彪月君と遊びたいし誘おう。


「彪月君、今から外で遊ぶんだけど、誘ってって言われて。時間あれば

 一緒に遊ばない?」

何て返事が返ってくるかな。拒否されたら心が痛む…でも無理に頼むのも

悪いし、一緒に遊べたらラッキーぐらいの感覚でいるべきかな?

「いいよ。僕も暇だったし。」

やった、彪月君と一緒に遊べる。私が喜んでいると彪月君はいつの間にか

いなくなっていた。呆然として呆気に取られていると横から奏太が言う。

「先行ってったぞ。」

私は吃驚して外に走っていった。折角彪月君と遊べるチャンスが巡って

来たのに、ぼやっとしてたら遊ぶ時間減っちゃうよ。私って本当に

馬鹿。

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