冷却シートが欲しい年頃です

一時間目が終わり、彪月君に教科書を返しに行く。彪月君、教室に居るかな?

教室を窓からひょこっと覗いてみると二時間目の準備をする彪月君がいた。

私は思い切って彪月君に話し掛けてみた。


「彪月君、準備してる所ごめんね。国語の教科書を返しに来たんだ。助かった、

 ありがとう。」

彪月君に国語の教科書を手渡す。渡した瞬間手が触れてしまって顔が真っ赤に

染めあがる。

「ごめんねっ…」

尻すぼみな謝罪の言葉、彼には届いただろうか。ありがとうってやっと言えた

ばっかりだったのに、次に出た言葉が聞こえるのかも分からない様な謝罪の

言葉だったなんて。

「大丈夫だよ、教科書なんて後ででも良かったよ。律儀に、ありがとうね。」

ありがとうって言って貰えた。嬉しいな、彼と親しく話していられるのが

嬉しくて仕方ない。彪月君にちゃんと言っておかなきゃ。勉強教えて下さい

って。言わないと彼にも勘違いされちゃうかもしれないし。


「あのさ、テスト前に勉強教えてくれるって言ってくれたでしょ?お願い

 出来ないかな?」

言えた、言えた。でも彪月君に勉強教えて貰うなんて、集中できるかな。

ドキドキし過ぎて何も覚えられなかったらどうしよう。彪月君、自分の

教え方が下手だからとか思っちゃうかも。

「いいよ。ならテスト前に一緒に勉強しようね。」

優しい笑みを私の前で溢す彼。卒倒してしまいそうだよ。嬉しいけど、

私にそんな笑みを向けないで。真っ赤になって蒸発してしまうから。


気を保とうと時計に目を向ける休み時間の終わる二分前。私二時間目の準備

してないんだった。戻らなくちゃ、彼にも迷惑が掛かるから。

「もうすぐ休み時間終わるし戻るね。教科書ありがとう。」

未だに火照った顔を必死に冷却しようと他の事を考えるけど、彪月君の事が

頭から離れない。二時間目の準備は何とかできたけど、授業真面目に聞いて

いられなさそう。数学は苦手だから授業聞かないと駄目なのに。お母さんに

また怒られちゃうよ。駄目だ、先生の言ってる事が頭に入らない。馬鹿な女子

が好きな男子なんていないし、彪月君は頭いいから私が馬鹿だと思ったら

離れてしまいそうで怖いよ。


結局二時間目の授業は頭に入らなかった。連立方程式ってなんでしょうね。

先生が連立方程式の解き方の加減法を説明してたけど呪文にしか聞こえな

かった。連立方程式なんてもの知らなくてもいいじゃない。恋の方程式を解く

方法が知りたいよ。今回の休み時間は三組行かないでおこう。火照りが加速

するだけだし、馬鹿な私が露呈しているから見られたくないな。三時間目の

準備して、教室で遊んでいよう。本当は会いに行きたくて仕方ないや。

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