第2話 今後の方針
生き返って数日が過ぎた。赤ちゃんの状態である私は特に何かができるわけではなく、お母様やお父様、乳母に面倒を見てもらっている。
私の家は城下町の一画で商いをしている。お父様は商才の持ち主で、他国とも取引を行っており、かなりの資産家でもある。
王族、貴族、一般市民、その中でもお父様は貴族様とも付き合いがあり、一部ではそのことで妬まれているのも知っている。
前世では姉さんが学園で貴族のご子息と婚姻の約束をした。反対意見もあったが、なぜか姉さんの結婚については多くの人々が祝福していた。
市民が貴族に嫁入りすることはほとんどありえないことだというのに、反対するのは市民の妬む一部だけで貴族からも姉さんは受け入れられていた。
それも私は納得できなかった。
どうして姉さんは皆に祝福されるのか。
『努力してきたからね、リサさん』
「……あなたは姉さんの味方なの?」
自然と声が低くなってしまう。頭の中に勝手に居付いているヤマダハナコという存在は勝手に話しかけてくる。
前世でもイマジナリーフレンドはいた。でも、それは私にとって味方で、優しくていつも私を励ましてくれる存在だった。
けれど彼女はそうではない。私や家族の事を知っているかのように色々話してくる。それは私も知らない事も彼女の口から語られる。
彼女がどうして知っているのかと質問してもはぐらかされてしまう。
『味方とかそういう訳じゃないけど、どーしてシンシアはお姉さんが嫌いなの?』
「あの人は何でも持ってる、それを私に見せつけてくるから……」
『見せつけてくるねぇ、ホントかなぁ?まぁ、確かにいろんなものを持ってきてはくれるよね』
2歳の姉さんは私のベッドにいろいろなものを持ち込んでくる。ベットから逃げられない私に対しての嫌がらせではないだろうか?
『まだまだお子様だよ?嫌がらせじゃないと思うけど……』
「姉さんは頭が良いの、きっともう嫌がらせが始まっているのよ」
私の答えにハナコは溜息をついた。
『じゃあ、聞くけどさ。嫌がらせされる理由に心当たりあるの?』
「それは……」
それは、たぶん、おそらく、自分の外見だろう。
姉とまるで似ていない。姉妹どころか家族の誰とも似ていない。
その所為でお母様がほかの男性と関係を持ったのではないかという噂が立ってしまった事を知っている。お母様の事を大切に思っている姉さんは、そんな噂の原因になった私の事が嫌いなのだ。
「貴方に関係じゃない」
『関係ないっていいきれたらいいんだけど、一応アタシもシンシアなの。アタシは家族仲良く過ごしたいって思っているの。だからギスギスした関係にするのは止めてほしいんだよね』
「私だって好きで姉さんと関係を拗らせたわけじゃないわ。でも、じゃあ……この気持ちはどうしたらいいの?姉さんに殺されたって事実は変わらない!」
『でも、アナタを殺したのはここに居るリサさんじゃない』
そんな事分かっている。でも彼女がリサで姉さんなら、私がシンシアで妹という立場が変わらないのなら結局歩む未来は同じ事。結局また姉さんに嫌われて殺されるのなら、最初からこちらが嫌いになって、距離をとって、殺す機会をうかがった方がいい。親しくなっても仕方がない。
「うるさい、シンシアは私なの!貴方はおまけ、手違いなんだから黙って私に従っていればいいの!」
『……ほぅ?』
不機嫌そうにハナコが呟くと、急に視界が真っ暗になった。
死ぬ間際に似た感覚に恐怖を覚える。
首に何かが触れる。ひどく冷たい指が喉を圧迫する。
『確かにアタシは手違いかもしれない。体を動かす事も出来ない。でもね、最近分かったの。体は動かせなくても、この精神世界のほうではシンシアに触れることができるってね。精神、魂どっちかはよく分からないけど、ここでアナタを殺したら体の主導権はアタシのモノになるんじゃないかな?』
「……っ!」
抵抗しようにも私にはハナコが見えない、触れられない。
だけど、彼女は確かに私の首をしめているのだ。
『別に殺したい訳じゃないの、さっきも言ったけど仲良く過ごしたいだけ。勿論シンシアとも仲良く過ごしたいと思っているんだよ?
だから、少しはこちらと仲良くしてくれると嬉しいな』
そういってハナコは手を離した。やっと体が自由になる。
「シンシア、どーしたの?」
ベッドの傍らにはこちらを心配そうに見つめる姉さん。彼女も泣き出してしまいそうだった。
どうやら私の視界が真っ暗になっている間、体の方は恐怖で大泣きしていたらしい。
その勢いに気圧されて、姉さんは怖くなってどうしていいの変わらずに今にも泣きだしそうになっていたそうだ。
……小さい時の姉さんは、優しかったのかもしれない。
きっとまだ、私が両親に似ていない事、世間でどういわれるかを理解できていないから優しいのだろう。
できたらずっと、知らないままでいてくれたらいいのに……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます