人生二週目と転生失敗

猫乃助

第1話 奇妙な共同生活

 二つ上の姉さんは何でもできた。何でも持っていた。

 お母様の美しさも、お父様の賢さも受け継いで、誰からも好かれる明るさを持っていた。空の様に透き通る青い瞳も、太陽の様にキラキラきらめく金色の髪も、多くの人の目を引いた。

 だけど、私は何も持っていなかった。

 両親のどちらとも似ていない。体も弱く、いつもベッドの上にいた。日にあたることなく長い時間を部屋の中で過ごしていた私の肌は青白く、髪の色も灰色でまるで老婆のようだった。さらに黒い瞳。夜の様に暗い瞳が私は大嫌いだった。

 私を構成しているものは私の嫌いなものばっかりだった。

 だけど、15歳を迎え学園への入学が決まると生まれて初めて友達ができた。

 髪の色も、瞳の事も馬鹿にしない。それだけじゃない、私には魔法が使えるようになったのだ。選ばれた者しか使えないという魔法を使えるようになり、私は少しだけ自分に自信が持てるようになったのに―――

「どうして?」

 姉さんは私が魔法を使えることを喜んでくれなかった。

 それどころか、姉さんは私を殺した。

 魔法が使えるようになって、明るくなれた私が気に入らなかったのだろう。

 すぐれていた自分の立場を脅かされるのが怖かったのだろうか?


 悔しかった。

 恨めしかった。

 許せなかった。


 このまま死ぬのは嫌だった。どうにか姉に復讐したかった。

 このまま終わりたくない。そう強く願うも、意識は遠のいていく。


 ああ、死んでしまうのか―――

 嫌だと叫んだつもりだった。けれど言葉にならない。

「おぎゃあ、おぎゃああ!」

「奥様、元気なお嬢様です」

 誰かが私を抱きあげている。乳母のジーナに似ている気がする。でも彼女より若い。娘さんにしては年齢が合わない。

「ああ、よかった。無事に生まれてきてくれてありがとう」

 涙を流し、私を見つめてくる女性はお母様によく似ている。だけどやはりこの人も若いのだ。

『おんやぁ?どーしてアタシだけじゃなくて別の意識があるのさ』

 どこからか声が聞こえる。見回せる範囲には、声の主は見つけられない。

『アタシはこの間死んで、生まれ変わるはずだったんだけど……先客がいる。アナタの事だよ。アナタは誰?』

「私はシンシア……だった。私も殺されたはず。深くナイフを刺されて」

『シンシアねぇ……?成程、であなたは再びシンシアとして生き返ったのね。生き返ったというか、もう一度やり直しっていうのかな』

 相変わらず姿を見せない声の主は一人で納得して話を進める。

 もう一度やり直しという事は、私はまた再びシンシア・ウィリアムスとして姉に殺されるという事なのだろうか?そんなことは絶対に嫌だ。

 殺されるくらいなら、姉を殺す。私を認めさせて、私が今度は生き延びる。

「ところで、私は名乗ったわ。貴方こそ誰なの?」

『アタシは山田花子。元女子高生、学生だったっていえばわかるかな?

 うっかり死んじゃってね、目を覚ましたら赤ちゃんだったの。その上、体は自由に動かない上に別の人格もあるし、びっくりよ』

「びっくりなのは私よ、この体は私の身体なんだから出て行って!」

『出ていけるなら出て行ってるよー、まぁそのうち消えるかもしれないし、それまでの間我慢してよ。主導権はシンシアが持っているんだから、いいでしょ?』

 あまり良くはないが、出て行き方が分からないというのなら、仕方がない。私も追い出し方なんて分からないので、あきらめて付き合うしかないのだろう。

『でも、悪いようにはしないよ。アタシもシンシアには幸せになって欲しいからね。頑張って良い学園生活送れるようにがんばろー!』

 こうして私は生き返ったとともに、奇妙な同居人ができてしまったのだ。




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