第7話:命名
「やっと着いた」
現在、夕方の6時20分頃。
帰り道は10分程度だろうが、出来事が出来事な故に、8時間寝た俺でさえも疲れた。
接客時に使う革のソファーに身体を預けながら俺は考えたのだが、あのドール家の場所伝え忘れてなかったか?
まあ良いけど。
「何やってるの?」
身体を起こし、玄関の方を見るとドールがその場で立ち止まっていた。
「はあー……。靴脱いで適当に楽なとこに居ろぉ」
ボーッとしているドールに俺は、無気力に言う。
俺の言葉にドールは、言ったとおりに動き、少しキョロキョロと周りを見渡した後に何故か初めて家に入れたときのあの壁際に立った。
本当にもう指定してないのに…もう……。
「ああぁ……」
俺は、断末魔のような呻き声を上げて、再度ソファーに倒れ込み睡魔に全てを捧げた。
我ながらこんなに寝たのは、赤子の頃以来では無かろうか。
俺が睡魔を崇拝して三時間が立った頃に、始めから居たのか入ってきたのか、俺は
「なんだ?私は、睡魔を崇拝する睡眠教の司教デス」
「何言ってるか今一解りませんが、今日のあなたは睡眠教より睡眠“狂”の方が似合ってますよ」
「うっせ……」
「で、ドールの名前ちゃんと考えてきたのか?」
「そうじゃなかったら起こしてないですって」
ほう、確かに。
「じゃ聞かせてもらおうか」
「はい。では1つ目ヴァイオレッ──」
「却下!」
何故か危ないような気がしたので俺は、鷺士の案を即却下する。
「えぇ…まあ、まだ案はあります!2つ目ミラ」
「普通だな。うん」
「
「……次行こう次」
「……はあ、解りました。3つ目イザヴェラ」
「おぉ」
「良くないですか?」
「でも、イザヴェラ感はなくないか?」
「そうですか?」
「まあ、次行きますよ?」
「おう」
「四つ目アマラ」
「アマラか……中々いいんじゃないか?」
「じゃあ、決まりですか?」
「うーん。まあ、男の俺たちのセンスだけで決めたらダメな気がするからな。明日にでも
翌日。
「いいんじゃないですか?アマラ」
俺は依頼もなかったので朝のうちに金叩鍛冶屋を尋ね、鉄虎にドールの名前の件を話した。
「ちなみに鉄虎、お前の案は何かあるか?」
「そうですねぇ…。永遠という意味の名前を付けたいのならアマラの以外にもエテルネルとかエテルノ、エターナルとかもありますね」
選択肢を増やすなッ!
いや、聞いたのは俺なんだがな?
「まあ、今日は帰るわ。鉄虎サンキューな」
「いえいえ、またいらして下さいね」
ちょっとした会話の後、俺は家に帰った。
「ん?鉄虎、坊主きてたのか?」
「はい。そうですよ。なんでも、ドールの名前を決めてるみたいで」
「……そうか」
その日の夜。
「さてと、名前考えるか…」
そう言って俺は、家のほぼ真ん中を占拠している自分のデスクのパソコンで、神話の登場人物の名前などを調べた。
これは、徹夜になるな…。
翌日の昼、鉄虎、鷺士を家に呼んだ。
接客用のソファーに鉄虎、鷺士を玄関側にそして俺が、2人に向き合うようにして前かがみに座っている。
俺が徹夜してまでも考えたドールの名前の案を聞いてもらうためである。
そろそろ決めないと一生決まらんかもだしな。
「んじゃ、3つあるから、言うぞ」
「はい」
「どうぞ」
「1つ目、エンデ」
「エンデ?女の子っぽくないですね」
「なんでエンデなんですか?」
鉄虎が、鷺士に続いて問う。
「ん?エンデュミオンっていう永遠の眠りによって永遠の若さと美しさを保つ若者、月の女神セレネに恋された羊飼いのからとったんだ。永遠の若さと美しさってのがあってるだろ?」
「ドールですからね」
「次、2つ目、ナナ」
「一気に普通ですね」
「ん?そんな事ないぞ?これも神話からとったんだからな」
鷺士の発言を名前の由来で俺は否定する。
「へぇー」
「ちなみに何の?」
「美貌を持つ龍の姿をした女神のイナンナからとった。美しくそれでいて龍のように強く気高くってな」
「いいじゃないですか!それ!」
「それで、あと1つはどんなのなんですか?」
ナナという案を絶賛する鷺士をよそに、鉄虎が俺に最後の案を出すように促す。
「あぁ、んじゃ最後3つ目、メル」
「メル…ですか?」
「これも神話から?」
「いや、これは、メカニズムドールからとった。やっぱりシンプルイズベストだ。俺はこれが1番好きだ」
「えぇ〜…」
鉄虎は不満そうに顔を渋らせ、鷺士はフリーズしているが、「俺はこれが1番好きだ」というのは紛れもない本心だ。
どんな理由をつけようが、あのドールに対しては失礼に聞こえたから。自分があのドールへ同情という逃げをしたことを、あのドール…いや、彼女に綺麗な理由をつけて名付けることで上書きしようとしているように思えた。
だから、彼女がどんな存在でこの世界にいるのか。それを肯定できる名前にしたかった。
「ナナの方が私的にはいいと思うんですけど…」
「うーん。僕もナナがいいんじゃないかと思います」
やっぱり、適当に見えるか…。
「なあ、あんたは何がいい?名前」
俺は、ソファーの肘掛けを使ってもう彼女の定位置と化した壁際にいる彼女に向かって問う。
「私は、その名前が気に入りました」
いや、どれよ。
「エンデ?ナナ?」
俺は、2人から却下されたメルをわざと選択肢から外した。
まあ、ナナに決まるか、また「螺旋巻様が決めることです」みたいなこと言うんだろう…。
「私は…螺旋巻様がおっしゃいました、“メル”がいいと感じました…」
「…おぉ」
俺は、彼女の回答に、静かに驚嘆すると共に歓喜した。
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