第6話:はじめての随喜〜夕方〜


 彼は、私の腰に手を回し抱き寄せ、私を庇うように「俺の所有物だ!」「唯一無二の最ッ高の掘り出し物」と言ってってくれた。

「まるで、物のような言い方だ」

 そう批判されるような言葉でも、物としてこの世に存在している私にとっては、どんな言葉よりも、彼の少し照れ隠しのようなその言葉は嬉しかった。

 その証拠に、今私は、生まれて初めて感じた嬉しさに、随喜の涙を流している。

 彼は、涙を流す私に、

「ドールには、涙なんて錆びそうなもんまであんのか?」

 と、私の涙に驚きながら、私の頭を先ほど私が彼にしたように愛撫する。

 彼の手からは、作り物の私でさえ解るほどの優しさと、緊張と、温かさを感じれた。

「お前はドールか?人間か?」

 彼が、私を片手で抱き、もう一方の手で追っ手に自動装填式の銃の銃口を向けて問う。

「それに答えて、何の意味がある?」

「撃つか撃たないか」

「じゃあ、人間だ」

 追っ手は、彼の問いに、背筋を伸ばして答える。

 その瞬間、

「そうか」

 彼は、そう言うと、銃の引き金を慣れていないはずなのに、片手でしかも三角屋根の上で姿勢も崩さずに綺麗に引き、賑わう夕方の街中に銃声を響かせる。

 彼が放った銃弾はまっすぐに男の胸を撃ち抜いた。


 バキュゥゥゥン。


 私はそこで、初めて気が付いた。多くの人々が、屋根の上で発砲し、剣を振るい、歯車を降らす私たちを見上げている。

螺旋巻ねじまき様、早々に帰った方がいいと思います」

「ん?」

「大分注目を浴びているので」

「なら、序でに家の宣伝しとこうぜ」

 

 それから彼は、私に言って欲しいことを伝えた。

「じゃ、よろしく」

「はい」

 私は、目を瞑り集中する。


「皆様、無くし物や迷子のペット人探しから、頼まれれば探偵まで何でもさせていただきます。もし、お困りのことがあるのなら是非この“何でも屋螺旋巻なんでもやねじまき”にご依頼ください。尚、定休日なし、臨時休業あり」


 と、私は見上げる人々に胸の前で指を組ませ言った。

 私は、ここで初めて彼の社会貢献の形を知った。

 てっきり私は、殺し屋か何かなのかと認識してしまっていました。


 その後彼は、

「さて、帰るか。今度こそ」

「はい」

 そう言って、私の頭をポンッと手で軽く弾ませた。

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