第29.5話 私の心は

 きっかけは分からなかった。


 気付けば目で追っていた。

 休み時間、たまたますれ違うと嬉しかった。放課後、部活の時間は一日の楽しみだった。話すと胸が高鳴った。足取りが軽くなった。


 それは、親友としての好きだと思っていた。


 いつしかの保健室。私がパンツを被って卒倒した時。先輩はずっとそばに居てくれた。そして、私は好きだと言って抱きついたのだ。今思い出すと、頭から煙が出そうなほど恥ずかしくなる。

 昔はできたことが今は出来そうにない。嫌いになったんじゃない。好きになったんだ。好きになってしまったから、出来ないんだ。それを確信した日から、私はずっと胸が落ち着かなかった。前よりもずっと意識するようになってしまった。


 でも、心の奥底で、これじゃダメだとも思っていた。私の恋が成就する訳ないと。だって、先輩には好きな人がいるのだから。

 先輩を意識して見るようになると、直ぐに分かった。明らかに、視線を寄せている。私が先輩を見るように、先輩は彼を見ているのだ。

 素直に先輩を応援しようと思った。だって、女の子同士なんて……。先輩に迷惑かけるわけにもいかないし。

 それに、私なら大丈夫。好きって気持ちを表面に出さないように取り繕うことも出来る。


 そう思って、私は日々を過ごしてきた。

 だからさっきも、私は覚悟を決めて聞いたのだ。先輩に一つ、踏み込むことを決めて。そして、私自身に引き下がるように命じて。

 でもなんでだろう。先輩の話を聞いてると、胸が痛くなるのは。

 思っていたよりも、重症なのかもしれない。

 想像よりずっと、私の心は犯されていたんだ。

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