第18.5話 乙女たちの苦悩
どうすればこの可愛すぎる先輩を、更衣室から引きずり出せるのか、私、西条香織はずっと考えていた。
「先輩は本当に可愛いんですから、自信持ってくださいよぉ〜!」
褒めるこちら側も涙目になるほど褒めちぎっていた。先輩が可愛いのは紛れもない事実で、全て本心からの言葉だ。しかし、先輩は頑なにここから出ようとしない。
「ダメよ、ダメダメ!」
どこかで聞き覚えのあるフレーズだ。あの特徴的な芸も、先輩が言うととても可愛く思える。
「ダメじゃないです! ほら、行きましょう!」
ググッと先輩を引っ張るが微動だにしない。
「ほら、香織さんが引っ張っても全く動かないくらい私は重いのよ」
「それは先輩が力いれてるからですよ!」
このままでは埒が明かない。あの二人も待たせてるし、何か別の方法を考えないといけない。……ん? 二人とも待たせてる?
私の中でいい案が浮かんできた。これなら……。
「先輩、あの二人も待たせてますし早く行きましょう」
「で、でも……」
「二人きりで待たせてますし、早く行きましょう!」
「……」
先輩が黙り込む。この数十分間で先輩が反論してこなかったのは初めてだ。ここで追い打ちをかければ……。心の奥底で眠っていた私のドS心が疼く。
「先輩より脚が綺麗な夏樹ちゃんと二人きりかぁ……。私は先輩も負けてないと思うんだけどなぁ。でも先輩が自分でそういうなら仕方ないですよねぇ……」
「……」
「二人きり。水着。プール。火照る体。日焼け止め。脚。手つき……」
思いついた言葉を羅列していく。みるみる先輩の顔はどこか暗くなっていき、最後には泣き出しそうになっていた。……少しやりすぎちゃったかも。
「ご、ごめんなさい先輩。私、そんなつもりじゃなくて……」
「.....わ」
「え?」
「私、行くわ!」
先輩はよし! 行こう! っと活気づいて、勢いよく立ち上がろうと―した。
ガンッと物音がしたと思えば、先輩は立ち上がった拍子に開けっぱなしのロッカーに膝をぶつけてうずくまっていた。
「うぅ……」
「だ、大丈夫ですか……?」
「だ、大丈夫だわ。ちょっと出鼻をくじかれたぐらいなんてことないわ……」
今度こそ立ち上がり、クルっと半回転して歩き出した。
「……あの、先輩。そっち入口です……」
「……そうだったわね」
先輩は無言で回れ右をして、今度こそは入口に向かって進んでいく。恥ずかしそうに俯いた先輩の顔をみて、思わず微笑んでしまう。こんな天然なところが憎めないというか可愛らしいというか……。私は「よし」っと気合いを入れ直して先輩の後をついていく。
そこで私はふと、自分の体に目を落とした。先輩より小さな胸。夏樹や先輩にも負ける脚。私にスタイルで勝てるところなんてほとんどない。
「ん〜」
西条香織は苦悩していた。あれ、そもそもなんで苦悩してるんだ? 別にスタイルがあの二人に負けてたってどうってことない。それで大きく何かが変わるわけでもないのに……。
「まぁ、いっか……」
天然なのは香織さんのほうでしょ。
そう、先輩に言われた気がした。前を歩く先輩を見るが何も変わりはない。
「気のせい……かな」
変なことは考えない!
私は目先のプールにだけ集中することにして、先輩と足並みを揃えて歩くために追いついた。
「優、どんな反応しますかね?」
「……分からないわ」
先輩の声は素っ気なく、突き放したような言い方だった。しかし、私は先輩の頬が赤く染まっているのを見逃さなかった。あぁ、やっぱり憎めないなと改めて感じる。
それと同時に、私は直感でこう感じた。
この先輩には叶わない、と。
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