第12話 秘密と秘密
「おつかれさまです!」
勢いよく部室に入ってきたのは、西条香織だ。昨日から正式に裁縫部に入部することとなった。嬉しそうな表情を見ると、今さっき入部届が正式に受理されたのだろうか。
「おつかれさん」
「西条さん、こんにちは」
俺と先輩は香織に軽い挨拶を交わし、俺の横に座るよう促した。裁縫部の部室は大きい机が四つ設置されていて、俺たちは扉から一番近い机を使っている。今日先輩とは対面で座っているが、日によって座る位置が違う。
「先輩、私のことは香織でいいですよ!」
香織が笑顔で言う。先輩は少し困惑していたが、「分かったわ。でも呼び捨ては苦手だから、香織さん.....で」と最終的に納得していた。香織は満足そうに頷くと、直ぐに言葉を紡いだ。
「裁縫部って、具体的に何する部活なんですか?」
俺は頭の中で考えた。んーと、活動実績は.....。男性用パンツ作り、パンツの持ち主探し......。ロクな活動してないじゃないか!!(今更)
先輩も言葉に迷ったのか、少し考え口を開いた。
「活動内容としては、やっぱり裁縫がメインになるわね。ミシンもあるから、比較的なんでも作れるわ」
おおっ! 上手く躱したな!
俺が先輩の頭の回転に関心していると、香織も納得したのかふむふむと相槌を打っていた。
「そうなんですね! 今までどんなものを作ったんですか?」
おおっと、これはまずい! 男性用パンツしか作っていないぞ!? 氷堂華憐、どのようにして躱すのでしょうか!!
「そうね。私は小物を作るのが得意だから、簡単なものが多いわね。アレンジするだけで印象が変わったりするから面白いわよ」
う、上手い!! これは誰が聞いても男性用パンツの話には聞こえないな!
香織も「おぉ」と声を漏らしていた。
「面白そうですね! 今日は何か作るんですか?」
「そうね......。香織さんは何か作りたいものある?」
香織は顎に手を当てて、考える仕草を取った。暫くすると、閃いたのかポンと手を打った。
「やっぱり最初ですし、先輩の得意な小物を作ってみたいです!」
おおっと!! それは非常にまずい!!
俺は消しゴムをわざと先輩の方に落とし、意図的に近づいて小声で告げる。
「大丈夫ですか? 小物と言ってもパンツしか作れないでしょう?」
「あんまりバカにしないで。私だってパンツ以外も作れるわ」
先輩は一瞬むすっとした顔をしたが、直ぐに笑顔になる。
「香織さん、早速作りましょうか」
「はい!」
そうして、裁縫部の活動が始まった。
......あれ、俺いる?
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三十分ほどすると、完成したのか「おおっ」と歓声が聞こえてきた。かんせいだけにね。と寒いギャグしか思いつかないくらい俺は暇だったわけだが......。
「上手くできているわね。流石経験者なだけあるわね」
「ほんとですか! ありがとうございます!!」
俺も気になって見に行くと、香織がこちらに気づいた。
「優もみて! ほら、小物ケース作ったよ!」
それは小さい財布のようだった。先輩の言う通り、流石経験者と言うべきか。上手くできていると思う。
「上手いね! 俺は裁縫とかできないからすごいや」
「ありがとう! あれ、そうなの? じゃあなんで裁縫部に入ったの?」
し、しまった! どう説明したらいいんだ......。俺は半ば強制で入ったようなものだ。
「そ、そうだね。まぁ縁があったというか......」
苦し紛れの理由だが、香織は納得したらしく、うんうんと頷いてくれた。
「そうなんだね! あっ、先輩の作品も見てあげてよ!」
そう言うと香織は先輩の手を取り、こちらに来るよう促した。
「みて! めっちゃ上手くない!?」
香織がそう言うと、先輩は控えめに作品を出した。
上手い。何も歪なところはなく、ぴしりと形を保っていた。商品として売っていても良いようなクオリティであった。
「すごい......。先輩、パンツ以外も作れたんですね.......」
俺は思わず声を漏らしてしまった。
が、直ぐに失態に気づいた。ゆっくりと先輩のほうに目をやると、満面の笑みであった。やめて!! その笑顔が怖いわ!
更に横目で香織を見ると、「え?」とキョトンとした表情であった。
「あ、えーっと。パンダ以外!! 先輩はよくパンダをモチーフにした作品を作ってて......」
く、苦しいか.......。俺はもう終わった、と思った。
香織は動揺したように手をあわあわとふった。
「そ、そうだよね! パンダ! パンダだよね! へ、へぇー。先輩、パンダ好きなんですね.......!」
か、香織.......。頼むから現実を見てくれ! 逆に俺が恥ずかしくなってきたじゃないか!
俺が先輩を横目で見ると、笑顔が消えていて、もう諦めたような表情をしていた。
「もういいわよ。香織さん、ゆ、ゆ、ゆ、優くん.......、がパンツを持ってるのはしってるのよね?」
やめて!! そこで恥ずかしがらないで!! なんか俺まで恥ずかしくなるでしょ!! なんでこの二人は俺に辱めを......。
香織は何故か「おおっ」と声を上げていたが、咳払いをして直ぐに切り替えた。
「知ってますよ! 聞いちゃいましたから」
「分かったわ。なら多少はパンツに耐性はありそうね。 ちょっとこっちに来て」
そう言って先輩は香織を掃除用具入れの前まで連れていった。
「開けるわよ」
そう言って出てきたのは―
ドサドサドサドサドサドサッ......
前より数が増えた男性用パンツだった。
「......え?」
香織はその場に立ち尽くして動かない。まぁそうだよな。流石の俺でも最初は驚いた。真面目な香織はかなりショックを受けるかもしれないな......。
今はそっとしておいてあげようと思い、俺は少し距離をとった。
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えぇっ!! なんかパンツ出てきたんだけど!! しかも男性用!!
氷堂先輩がロッカーを開けると、大量の男性用パンツが溢れてきた。私は驚きのあまり暫く立ち尽くしていたが、深呼吸して落ち着くと、一旦この場を整理しようと質問する。
「ええっと、この男性用パンツは先輩が作ったものなんですか?」
「えぇ、全て私が作ったわ」
まさかパンツ作りが趣味!? しかも男性用!? 思考が追いつかない......。
「......どうして男性用パンツなんですか?」
私が聞くと、先輩は少し恥ずかしそうに俯いた。
「そ、それは秘密よ......」
秘密......。今日少し話してみて分かったけど、先輩可愛い......。撫で回したいかも......。
「そ、そうなんですね! 秘密は女のアクセサリーですからね!」
や、やばい! 先輩の事意識したら上手く喋れない......。男性用パンツを作ってても何も思わなくなってきた......。これ以上私に特殊性癖を作らないで!!!
気がつくと、私は考えることをやめていた。
私の体は本能的に動き、散乱している男性用パンツを一つ手に取った。
そして―
私はパンツを被った。二人が見ているのに。
背筋に電流が走ったような感覚を受けた。最初にパンツを被った時よりかは衝撃は少ないが、やはりパンツを被ることでなんらかの衝撃は受けるのだろうか。
「か、香織!?」
「香織さん!?」
二人が驚く声が聞こえた気がしたが、今の私はパンツで耳が塞がってるのではっきりとは聞こえない。私の中でパンツを被ることと、二人に聞き直すことを天秤にかけたが、前者を優先することにした。
私、今パンツと一体になってる。しかも、先輩の作ったパンツで。
私は変な快楽を覚えた。そして、意識が飛んだ―
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「あら、やっと目を覚ましたわね」
んんっ......。あれ、私は何を......?
「......ここは?」
「保健室よ。香織さんが急に倒れたから、二人で運んできたのよ」
「ありがとうございます......。あれ、優は......」
「ゆ、ゆ、ゆ、優くん......、なら今はトイレよ。さっきまでいたのだけれど、少しお腹の調子が悪いみたい」
「そ、そうなんですか......」
まだ意識が朦朧としているが、私は倒れた
確か......パンツを被って......。
......え!? それって、あの二人の前で被ったってこと......!?
「あ、あの......先輩、私......」
私が顔を赤くして言うと、先輩は察したのか頭を撫でてくれた。
「大丈夫よ。私は勿論、ゆ、ゆ、ゆ、優くん......、もパンツに理解はあるから」
「せんぱい......」
私は目を潤ませて、思わず先輩に抱きついた。いい匂い......
「ちょ、ちょっと、香織さん......?」
「先輩......。私、裁縫部に入って良かったです......」
「まだ入って一日でしょう......?」
「そうですけど、私は先輩に会えただけで良かったです......! 先輩好きですーー!!」
私は心の底から気持ちを伝えた。先輩は少し困惑したようだったが、そっと手を背中にまわしてくれた。
「そう言ってくれると嬉しいわ。これからもよろしくね、香織さん」
「はい!!」
私は元気に返事をして、しばらく先輩の温もりを感じていた。
こうして私にパンツ仲間、もといパンツ友達が出来たのであった。
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「うぅ......。昨日何か変なものでも食ったかな......」
一応出すものは出したが、未だに腹痛が続いている。俺はお腹を抑えながら、香織と先輩が待つ保健室へと向かっていた。
「―先輩好きですーー!!!」
「!?!?」
ど、どういう状況!? なになに!? 俺がいない間に何があったの!?
「そう言ってくれて嬉しいわ。これからもよろしくね、香織さん」
「!?!?」
お互い同意済みの関係!?
俺は驚きのあまり、思わず窓から中を覗いてしまった。そこには―
二人が抱き合っている姿があった。先輩は背を向けているので表情は分からないが、香織はとても優しい表情をしている。まさかこの二人、できてる......!?
俺はそっとその場を離れてトイレへと戻った。
この日、俺は二人の秘密を知ってしまったのであった―。
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