第1話 ノーパンだけはやめてくれ!!

 今日は四月七日。待ちに待った入学式の日だ。

 俺は起きてすぐにカーテンを開け、朝日を浴びる。今日は快晴だ。


「んっーー!!」


 よし、新学期頑張ろう。 朝日を浴びながら伸びをすると、自然と眠気も覚めてくる。

 登校の準備は昨日のうちに済ませてあるので、荷物の確認だけして朝ごはんを食べることにした。


「筆箱、書類、クリアファイル......よし、OKか」


 持ち物に不備がないことを確かめると、不意にパンツが見たくなった。決して学校に持っていこうなどとは考えていない。ただパンツが見たくなっただけだ。

 俺は自分の机の引き出しを開け、三年前に手に入れたパンツを見る。


「よし。今日も頑張ろう!」


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「いってきます!」


 俺は勢いよくドアを開け、誰もいない家にいってきますを告げる。

 両親は朝早くから出勤しているので家にいない。俺には姉もいるが、姉は現在留学中だ。もうすぐ帰ってくる予定とのこと。


「もう一度持ち物に不備がないか確認しておくか......」


 俺は不意にそう思い、もう一度カバンを開けて確認する。先程確認するのを忘れていた前ポケットも確認しておくか。

 チャックを開けて、中を見て探ってみる。ん? この感触は……? そっと手に取りだしてみる。


「......なに!?」


 なんと、さっき机の引き出しにあったはずのパンツがカバンの中に入っていたのだ。

 いや、俺は確かにパンツは見たが、手は触れていない。だからパンツがカバンの中に入ることなどありえないのだ。家には誰もいないので他の誰かがカバンにパンツを入れたというのもないだろう。

 一体どうしてここにパンツが......?と思っていると、俺の携帯が鳴った。


「ん? メールか」


 俺は届いたメールを確かめようと携帯を開いた。


「知らないアドレスだな......」


 不信に思いながらもメールを見る。そこにはこんなことが書いてあった。


『私はパンツの天使。パンティエルとでも言っておきましょうか。そうそう、私があなたにメールをしたのは、あなたにパンツの持ち主を探して欲しいの。今カバンにパンツ入っていることは確認したでしょ? そのパンツの持ち主を探してちょうだい。よろしくね〜』


「......は?」


 いきなりパンツの天使だとか、パンツの持ち主を探せだとか言われて困惑しないやつはいないだろう。


「なんだよパンツの持ち主って......。そんなの三年前の話だぞ、見つかるわけないだろ......」


 俺が途方に暮れていると、またメールが届いた。パンティエルからだ。


『あ、言い忘れてたけど、これからあなたが入学する学校にパンツの持ち主はいると思うから、よろしくね!』


 いや、「よろしくね!」じゃねえよ!! なんで男である俺が女児用パンツの持ち主を探さないといけないんだよ!! まずなんでこいつがパンツの持ち主を探してるんだ......?


 俺はこのメールを無視することにし、平穏な高校生活を送ろうと決心した。


『あ、これも言い忘れてたけど、私のお願いを無視する度になんらかの処置は取ります☆ とりあえず、今回はあなたが今履いてるパンツを取らせてもらおうと思ったけど、現実的に無理なので諦めました☆ 今日はノーパンの気分で一日を過ごしてね。キャピっ☆』


 キャピっ☆ じゃねぇよ! そもそも俺のカバンにパンツが入ってること自体現実的じゃねぇよ! ノーパンの気分ってなんだよ!

怒涛の三連続ツッコミをかます俺。俺の高校生活、大丈夫か……? 早速不安を覚え、直ぐに平穏な高校生活は無理そうだ……と、俺は登校する前から、高校生活を諦めていた。


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 学校に到着し、自身のクラスを確認して教室へと向かう。

 早めに家を出たのだか、パンツの天使のせいで時間を取られてしまったので、学校に到着したのはかなりギリギリの時間になってしまった。急ぎ足でクラスに向かうと、なにやら教室の入口付近に人が集まっていた。


「あのー......」


 俺が声をかけても誰の耳にも入らないのか、誰も返事を返してくれない。

 仕方なく強行突破しようと、人だかりの中に突っ込んでいくと、こんな会話が聞こえた。


「あの子めっちゃやばくね......? 超可愛い」


「だよな。あれはやべーよ。国宝だわ国宝」


西条さいじょうさん、だっけ?やべー、付き合いてーわ」


 俺はその会話を聞き、人だかりの中からクラスの中を確認する。すると、真っ先に目に入ったのは一人の少女だった。

 その落ち着いた雰囲気が纏うオーラは、まるで一人の妖精のようだった。そして長く、きれいに伸びる金髪に、俺は目を奪われていた。


『確かにあれは可愛いな......。美人系というやつなのか......?』


 俺は西条さんを視界の隅に捉えつつ、自分の席へと座った。

 俺の席は、西条さんの後ろだった。なんせ俺の名前は下木優しもきゆう。出席番号順の席なので、偶然そのような席順になった。

 俺は高校生活最初の勝利を得たことに対して、小さくガッツポーズをした。

 幸せの余韻に浸っていると、前の席の綺麗な金髪がひらりと小さく動いた。俺がふと正面を見ると、こちらを向いた西条さんと目が合った。


「よろしくね、私の名前は西条香織さいじょうかおり。あなたは?」


「あ、あぁ、よろしく。俺は下木優。したやさしいって書いて下木優」


「ふふ、素敵な名前。1年間よろしくね」


 や、やべぇ...。この子超可愛いわまじで。てかなんで後ろの席の俺に挨拶を...? 普通隣の席の子に挨拶しないか......? ま、まさか俺の事が......。


 西条さんの方を見ると、普通に隣の席の子にも挨拶していた。

 な、なんだ......。たまたま俺に挨拶してきただけか......。

 俺は肩を落としたが、西条さんに声をかけられただけでも勝利だと思い、また小さくガッツポーズをした。


 俺は西条さんに話しかけられた幸せのほうが勝り、パンツのことなどどうでも良くなっていた。



その日、帰ってポストを開けてみると、一枚の手紙があった。


『はやく持ち主を探さないと、お仕置しちゃうぞ♡』


ぶるぶると全身に寒気が走るのを感じながら玄関に入り、大きく息を吸った。そして、


「どうなるんだよ俺の高校生活ぅぅぅぅ!!」


と、全力で叫んだ。














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