第3話

 降り立ったリングバー島は、というか、港は活気に溢れていた。あちこちで船が荷下ろしをしており、様々な船が停泊していた。中には既に荷を運び終えその辺で休んで飲んでいる船乗りもいたが、だいたいが荷を積み込んだり下ろしたりの真っ最中であった。三人は船乗りたちでひしめき合う港を歩き始めた。

「あれ?もしかして…?タージ…?」

 船から下ろした荷を、起用に上に重ねて積み上げていた男が話しかけてきた。男は日に焼けた肌をしており、首にはベルトのようなものが巻いてあり、背は中くらい。髪は茶色で短髪の若い男だった。ヤタはビクッとなってから男を見つめて首を傾げていたが、しばらく経つと思い出したらしく、血の気が引いていくような顔色をしていた。

「ヤタ?知り合い?タージ?」

 ネイラが尋ねても聞こえていないのか、ヤタは固まって、じっと小さく震えながら男を見つめていた。

「やっぱりタージか!今はヤタって言うんだな!ごめん驚かせたよな…ごめんな?にしてもでっかくなったな。それに無事でよかった。こんないい男になるなんてびっくりだわ」

「あ、の…ビシュー…さ…」

「あ!覚えててくれてたのか!嬉しいな!お前ちっこかったし、てっきりあの火事でくたばったと思ってたが…」

「あの!なぜ…ここに?」

「あー、今船乗りやってんだ。あそこからは僕もあの時逃げた。後から小耳に挟んだんだけど、三分の一が焼け死んで、残りは逃げたらしいよ。でもその半分はすぐにまた捕まって連れ戻されたんだとさ。詳しくは知らないけど多分間違いない。お前も無事でよかったな。僕はこうして逃げおおせてるし、ついでにヤツのマークも消しといた。ここの船長にだけは事情を説明して、ここのってことにして貰ってる。ほら、僕の首のやつ黒いだろ」

「アイツは…ここには、いないんだな…」

「いや、いる」

「な…!?」

 ヤタの顔色が益々悪くなっている。話の内容は半分くらいしかわからないが、おそらく彼もヤタと同じ場所で奴隷だったのだろう。と香帆は推測だがそう思った。その時にヤタと知り合って今日ウン年ぶりに二人は再会したのだ。そして彼らを扱いしていたそいつはここに、この島にいる。

「屋敷が燃えて、この島の端にある豪邸を買い上げてそこに住んでる。長距離を船でここまで移動してきたって話だ…出来るだけ早くここを出ろヤタ。ここはマズイ。必要なら船長に頼んで首輪用意してやる」

 ヤタが下を向いたままなので、こちらから顔は見えないが拳を強く握りしめ、震えていた。隣にいたネイラはどうすればいいか分からず、ビシューと香帆の顔を交互に見てオロオロしていた。

「あ…」

「あーー!いたいた!!ヤタァ!!」

 ヤタがようやく絞り出そうとした言葉は、後ろから呼びかけられた大声によってかき消された。振り返ると巨体でドカドカと駆けてくるスミの姿が見えた。彼は追いつくとハァハァハァと荒い息を整え、

「あ…」

「あーー!いたいた!!ヤタァ!!」

 ヤタがようやく絞り出そうとした言葉は後ろから呼びかけられた大声によってかき消された。振り返ると巨体でドカドカと駆けてくるスミの姿が見えた。彼は追いつくとハァハァハァと荒い息を整え

「あーよかった!まだここにいたか!船長がお前に話があるんだと!急いでるっぽいから戻るぞ!!嬢ちゃんたちは後からゆっくり来てくれて構わねえから!こいつ借りてくぞ!!」

 返事をする間もなく、ヤタの手首を引っ手繰るように掴み、元来た方へ嵐のようにスパッと拉致られていった。残された三人は顔を見合わせ、ビシューは肩をすくめて二人に背を向けようとした。

「あの!」

 それをネイラが引き取め、ビシューは背を向けるのを止めこちらに向き直った

「なんだい嬢ちゃん」

「話を聞かせてほしいんです」

「話?僕の?」

「はい!というか、ヤタの…昔何があったのかとか、あまり話してくれなくて…奴隷だったこととか…そっから逃げたことは話してくれたんですが…」

「それだけ知ってれば充分だ。あいつが話してもないことを、他人の僕がペラペラ話す訳にもいかないでしょ?明るい内容ならともかく、あまりイイ話じゃないし…」

「それでも!知らないといけないと思うから…この先何かあった時に助けてあげられるかもしれないしお願いします!」

「私からも、お願いします!」

「カホ…」

「あーーーー!!もう!女の子二人にこうも頭を下げられちゃ、僕も答えてあげない訳にはいかないな。僕の知ってる範囲と言える範囲。それとこれはタージじゃなかったヤタには言うなよ。恨まれたくないしな」

 それからちょっと待ってろと二人に告げ、ビシューは仲間っぽい人に「ちょっと休憩入るから船尾庫借りるわ!」と声をかけてからこちらに戻ってきた。

「付いておいで。ここでは誰が聞いてるか分からないから移動しよう」

 ビシューに案内されたのはビシューが乗っている船の船尾、ブルーバード号で香帆とネイラが水浴びという名の雨浴びをした、あの倉庫に似ている小屋?がある場所だった。どの船にも船尾にこう言った物置きがあるのだろうかと二人が思案していると、「中ちょっと散らかってるけど入りなよ」と手招きされた。カホたちがのぞき込むと雨浴び時の小屋とは違い、屋根がちゃんとあり、室内は真っ暗だった。暗がりの中でもロープやら金づちやら、木材やらが乱雑に置かれ散らかっているのはなんとなく見えた。この暗がりに入るのかと躊躇していたら、ビシューは壁に掛けてあったランタンを持ち、室内に小さな明かりを灯した。暗闇がぱーっとオレンジの光に包まれたのを確認して二人は中に入り、最後にビシューが扉を閉めた。

「さぁて、どっから話すべきかなー?何が聞きたいの?僕らの出会い?そこはいらないか」

「いえ、そこからでいいんです。迷惑じゃなければ始めから教えてください」

 ビシューは積み上げられた木材の上に座り、香帆とネイラはその向かいに折り重ねて置いてあった帆布の上に腰を下ろした。それから長い長い昔話が始まった。


『あいつが屋敷に来たのは、多分十才くらいだと思う。当時は他のやつの顔なんて見る余裕なかったけど幼い子供は珍しかったからよく覚えてる。僕たちの飼い主は男好きでね、つまりはそっちの趣味だったから、屋敷には男しかいなかったし逃げ出さないように、牢屋みたいな部屋が一人一室ずつあったんだけど、あいつは一番奥の特別室に連れていかれて僕らとは違って、火事までそこから出ることはなく、あいつ専用部屋になった。特別室は買われたばっかの奴隷や失態を犯したやつの懲罰房みたいなところで、そこから悲鳴とうめき声しか聞こえない程、まあ痛いことをする場所なんだが、飼い主の野郎はあいつを徹底的に服従させたかったみたいでね、子供相手にひどかった。徐々に悲鳴の回数は減っていったけど、僕は歴が長めだったから何回か食事運んだり、話相手になってやったりしてたんだが、傷は痛いほど目についたし、買われたやつらは…僕も含めみな同じ仕打ちを受けるけど、子供のは見てられなかったなはっきり言って…

 どんなに話しかけても、あいつの目に生気が宿ることはなかったし見てて辛かったよ。助けてやりたかったが、牢屋のフロアの出入り口は厳重な警備で、呼び出しがない限り出られなかったし、僕も手枷とか気力なかったし、あいつは手足とも枷があったから、僕にはどうすることもできなかった。あいつが生気を失うにつれて拘束もゆるくなっていってて、最後の方は首輪からのびるロープ一本になってた。ガリガリで、体は傷だらけだし、死んだような目してたし、こいつ死ぬんじゃないかなと思ってたが、あいつは火事になるまで三年、生き抜いたんだ』


「どうやって逃げたのか僕も知らないけど、生きててよかったなあいつ。目が生きてる」

 ヤタの壮絶な過去を聞いた二人は、即座に黙り込んでしまった。何が一番衝撃かというと、ビシューが語った部分は彼が言うことの出来る、ほんの一部分のストーリーに過ぎないということだった。最も過酷な部分は今回は語られてはおらず、聞いて良かったのだろうか。そんな罪悪感が頭の隅を掠めるくらいには二人は動揺していた。

「ビシューさんは、どうして、逃げ出せたんですか?」

 香帆は思い切って聞いてみた。視点がビシュー本人なら、なんとなく聞くという罪悪感も薄れるかもという理由もあったが、彼の境遇も少し気になってきてはいた。

「僕かい?僕は、ほらアレだ!うーんと…主人に部屋に呼ばれて、その帰りに騒ぎがあったもんだから、どさくさに紛れてダーーーって感じで森に逃げたんだ。だから牢屋の方はよく知らない。俺も逃げるのに必死だったし、正直、記憶も曖昧だから覚えてないけどね。そん時にたまたま停泊してたここに拾って貰えたのは、奇跡に近かったというか奇跡だなほぼ」

「なんか急に聞いちゃってすみません…ヤタの話も…」

「やつには言うなよ?僕が殺されそうだニシシッ」

 と笑いながら、重くなった空気を引き上げてくれるビシューはとてもいい人だ。と、二人は少し元気になってきた。香帆は、ついでだと思いこれからどうすればいいかとか尋ねてみた。元雇い主がいるのは、ここから海沿いに歩き、林をすぎた向こうに見える崖上に立った館だそうで、そこらには近づくなとビシューは告げた。街には元飼い主の人が雇っているチンピラがいて、ヤタには顔を隠せる帽子等を被せること。路地裏には行かないこと。ビシューはしばらくはこの島に停泊するので、宿はここにあるからなんかあったら訪ねて来いと即興で描いた手書きの地図を渡された。

「ともかくだ。早くここを出ろ。そうあいつにも伝えてやれ。さ!そろそろ君たちも行きな、あいつが心配してるぞきっと」

「おお~い!ビシュー!呼ばれてっぞお~!」

タイミングよく、呼び出しの声が響いた。

「今行くよ!さあ!行こう。きっとヤタだ」

 船員の声に呼ばれ、三人は小屋をでて船を降りた。下にはカーボーイが被るような横の鍔が折れ曲がった、茶色の帽子を被った人が立っていた。よく見るとそれはヤタで、ちょっと険しめな顔をして待っていた。

「ヤタ!どうしたのその帽子?あれ?首にも何か巻いて…」

「どうしたのじゃないだろ?二人ともこんなとこで何してたんだよ。全く。あいつに変なこと言われたんじゃないんだろーな?」

「え!?いやぁ~エヘヘヘ~」

「何も聞いてないもんね?カホ!ちょっと世間話してただけだよね!」

「まあまあ、そっちも話聞けたっぽいし、素敵な首輪も手に入れたみたいだし、とりあえずもう行きなよ。ここにいても仕方ないだろ?僕もそろそろ戻んないと怒られちゃうし。じゃあな!達者でな!」

「ちょ!ビシュー!!」

 さっさとその場から立ち去り、仕事に戻っていったビシューをしばらく見つめていたヤタだったが、くるりと後ろに向きを変え、

「行こう。あそこの林を抜けて島の裏側に出るんだ」

「待って、あそこはダメ」

「なんで?あっちから回り込んだ方が早いのに」

「あっちには、ヤタが会いたくない人がいるかもしれないの」

「ネイラ、それは…」

「やっぱり何か聞いたんだな。で?」

「あっちに屋敷があるって。街にその仲間がうろついてるから、裏道は行くなってビシューさんが…」

「ヤタがおかしかったから心配で!ネイラと一緒にアドバイスを聞いたの。詳しくは聞いてないから」

「ほんとに?」

「ほんとよ?だってヤタがいなくなってしまったら困るもの。ちゃんと知っとかないと、もしもの時に助けてあげられないでしょ?詳しい人に意見を聞くのは大事なのよ」

「まあ…いいけど…っていうか、既にもう聞かされちゃってるみたいだし、お手上げだよ。…そうだな、じゃあ真ん中突っ切って行くか」

「反対側の森からじゃダメなの?あんな人込みに飛び込んじゃって大丈夫?」

 香帆の心配をよそに、

「反対は入り組んでて危険って、さっき船長にいわれたんだ。だから人込みに紛れ込みながら行く」

と楽観的に返事をしていたが、そう言った後のヤタの表情は、心なしか強張っているように見えた。歩き出した後ろ姿からはヤタの表情を伺う事は出来なかったが、なんとなく緊張が伝わってくるし、いつもは前をしっかり見て歩く彼の、下向きに向けられた首の角度には恐怖と不安の影が垣間見えていた。

 賑やかな港を歩き抜け、しばらくして人通りの多い道に出た。街道には様々な人が行き交っていた。荷物を荷台に積んで引いている人、馬に荷物を載せ運んでいる人、大きな袋を肩に抱えて運んでいる人等様々な人たちがいた。もちろん家族や恋人同志で歩いている人や、柄の悪そうな人もいた。三人は出来るだけ目立たないようにヤタ、ネイラ、香帆の順に縦一列になって歩き、一言もしゃべらず、ひたすら前を行く連れを見失わないように歩き続けた。先頭を行くヤタは、前と左右を交互に確認しつつ、一刻も早くこの道を突っ切るため、人と目を合わせないように斜め下を向いて歩いていた。

 人混みを掻き分けながら、互いを見失わないように真っ直ぐ進むのは、容易ではなかったが、うまい具合に三人ともはぐれずに進むことができた。

「ヤタ、大丈夫?」

「ああ、大丈夫。ちょっと暑くて。二人は大丈夫?」

「私は平気。カホは大丈夫?」

「ん?うん大丈夫だよ。まだ行ける」

「カホも大丈夫だって」

「よかった。このままここを抜けるから、もう少し頑張って」

 縦一列に歩きながら少しだけ会話を交わし、そこからはまたひたすら無言が続いた。ネイラははぐれないように、ヤタのシャツの裾を少しだけつまんで歩いていた。カホはネイラの服に一瞬手を伸ばしかけたがやめた。なんとなく。

 歩いていると次第に喉も渇いてくる。直射日光がガンガンに上から照り付けまくっているし、人の熱気もムンムンしている。だが、水筒から水を飲むとなると視界が半分塞がってしまい、はぐれてしまう可能性があるためそれが出来ない。この道が終わるまで香帆はひたすら我慢をしていた。と、少し先で怒声が飛び交うのが聞こえた。どうやらチンピラ同士がいがみ合って、ケンカに発展する一歩手前みたいな状況らしい。それを見たヤタはこっちへ、と二人に手招きして身近な路地に身を寄せた。

「ちょっとここで休もう」

 そう言うと水分補給をして、一際騒がしい怒声飛び交う辺りをよくよく眺めていた。ネイラと香帆もその間水分補給をして呼吸を整え座り込んだ。

「二人とも大丈夫?疲れたよね?もうちょっとだけど頑張れる?」

「うん、大丈夫。カホも?」

「私も平気よ。でもあのケンカはちょっと厄介ね」

「確かにそうね。あの騒動を切り抜けないと」

「そう…だね…路地を行くのは出来れば避けたいけど…うん。あれ以上激しくならないうちに通り抜けよう。一気に抜けるよ、端っこ歩くから絶対はぐれないように」

 三人は深呼吸をして、よくよく騒動の先行きを見たのち、ヤタの「行くよ」の合図でさっきと同じ順番で動いた。道の端っこを、たくさんいる野次馬を掻き分けながら足早で歩いた。やがて道の端に荷車が停まっている場所に突き当たった。これはさすがに飛び越えることは出来ないため、荷車伝いに歩いていると、わぁっという聴衆の響きとバンっという音と共に何かが、野次馬の波を、サァーっと蹴散らすようにこちらに向かって飛んできた。は荷車を通り過ぎようとしていたヤタにぶち当たって留まった。人だ。

「いってぇなー!やりやがったな!貴様!」

「ああーん!?突っ掛かってきたのはおめぇだろうが!!ざまぁねぇな!」

「んだとコラァァァァ!!!」

 とかなんとかいいながら、飛ばされたその人はもう一人の元へあちこち血を流しながら戻っていった。

「ヤタ!大丈夫!?」

「あ、あー…なんとか…ちょっといてぇけど…」

 ヤタはギリギリで飛んでくるのを避たが、全てを避けることは出来ず、帽子は横にぶっ飛び、唇の端と腕に少し擦り傷が出来ていた。

「ちょっと血出てるよ!?」

「これくらい大丈夫だよ。ネイラは心配しすぎだからヘヘ」

 ケロっとして飛んだ帽子を四つん這いになり拾おうとした、その先に人が立ちふさがった。

「おやおや大丈夫かな?」

 ピクっとなって、帽子を取ろうとしていたヤタの手が止まった。そのまま硬直し、出した手元も引っ込めず上を見上げもせずに震え始めた。

「あれれ?どうかしたのかな?くん?」

 最後の名前を呼び掛ける時に、膝を曲げ視線を四つん這い状態のヤタに近づけ、やけにはっきりとねちっこい声音で言葉を吐いた。カホとネイラも安易に動くことができず、そのまま固まってしまった。近くで起こっている、激化を続ける乱闘騒ぎも気にならないくらいの緊張がこの場を走った。まるで、ここだけ別次元に切り取られたみたいに時が止まったようだった。

 ヤタをタージと呼んだその人は、ヤタの突き出している手首をぬるりと捕まえ、もう片方の手で下を向いたままのヤタの髪の毛を持ち、視線を合わせるようにぐいと上に持ち上げた。

「探したんだよたぁ~じ?無事でよかったなぁ~、こんっなにいい感じに育つなんて僕の見込み通りだよヒヒヒヒ…おや、声が出ないのかい?それとも嬉しすぎて言葉も出ないかなぁ?」

「あ……ハー…バー…ト…いっ!?」

 ヤタがしゃべると、髪の毛を持つ手をさらにぐっと握りこみ上へ手元へ引っ張りあげた。

さま!ハーバート様だろ?教えを忘れたのか?ん?その首輪は新しい飼い主か?そうか違うやつに飼われてるんだな?答えろタージ」

「言う、から…手を…話して…くれ…」

「だーめーだ。このままだ。さぁ?いってごらん?」

「っ……船乗りの…ところに…いる…今は、買い出しの途中だ…」

 そう言ったが早いか、ヤタの髪を持っている掴んでいる方の手だけをパッと離し、ヤタが地面で荒い息をこぼしているのを眺め、腕を掴んでいる方の手はそのままに、側にいた側近ぽい男に衝撃の言葉を告げた。

「おい、お前。こいつを連れていけ」

「し、しかし、首輪が…」

「んなことは分かってんだよ。僕は人のものを横取りするのは好きじゃない。ただこれは僕のだからね、貸したものは返してもらう。それだけだ。早くしろ!!」

「わ、分かりました!」

「なっ!?ルールは絶対なんじゃなかったのかよ!首輪が見えねぇのか!冗談だろ!?おい!やめろよ!!」

「うるさいなぁタージ。少し静かにしててくれないと!」

 ハーバートはヤタの腹へ強めの蹴りをいれ、ゴホゴホと咳き込み、うなだれているヤタの耳元へ何かを小声で告げ、後ろで絶句している二人に視線を飛ばすと、

「あの子達はタージの連れかなぁ?」

 ヌメっとした視線を走らせた。ヤタは咳き込みながら、ちらっとこちらを見て、違う。とだけ言って視線を背け、持っていた荷物をそっと荷台の下へ隠した。そのあとは、なすがままに側近ぽい男に後ろ手に縛られ、それを隠すようにヤタの後ろにぴったりとくっついて、ハーバートと共に、この場から姿を消した。去っていく際に、少しだけこちら側を降り向いたヤタの唇が『ごめん』と動いたのを二人は見逃さなかった。

 どれくらいそこにいたのか、気づけばさっきの喧騒はなく、野次馬も解散し普通の人の流れに代わっていた。カホはまずネイラに「大丈夫?立てる?」と声をかけ肩をぽんっと叩いた。ネイラはビクっとなってから振り向き「うん」とだけ言うと、香帆の支えを借りて震えながら立ち上がった。とりあえずヤタが持っていたバックだけでも回収しようと、荷車の下に手を伸ばした時だった。

「あれ?これって…」

「どうしたのカホ?」

「あー、うん。なんか文字が…ここに…」

 そこには、近くの小石で地面を引っ掻いて書いたであろう文字があった『にげろ』そう小さく刻まれていた。

「え?これって…ここ、さっきヤタがいた場所?」

「ヤタが…書いたんだと思う。書かれたばっかりっぽいし、さっきヤタが座ってた所だし」

 香帆たちに向けてヤタが書いたものだった。最悪な人に最悪な状況で見つかり、自分は心がボロボロになりつつある状況で、後ろにいる二人にメッセージを残した。少しでも遠くへ、少しでも二人が、これ以上関わらないでいられるように、去り際に『ごめん』と口を揺らし、自身がいた場所に、近くにあった小石で隙を見て文字を刻み込んだ。

「ごめ…んね…助けて…あげられなかった…」

 ネイラは『にげろ』という文字を指でなぞりながらすすり泣き始めた。ヤタのバックを抱えていた香帆は涙をこらえ、ネイラの背中をさすってあげた。泣き声は少しずつ大きくなっていたが、ネイラも声を頑張って抑えようとしているのか、道に響き渡るほどではなかった。

 落ち着くまでそこに居座り、涙が少しずつ収まっていくと、覚悟を決め、いつまでもここにいる訳にはいかないので立ち上がった。

「ごめんね、カホ。行こう…」

「うん。とりあえずビーシュさんのとこを訪ねましょう?宿探さなきゃ」

 貰ったぎこちない地図を広げ、まだ傷心の気持ちを心に抱えたまま、ヤタが連れていかれた方向を一度だけ眺めたのち、二人は歩き始めた。

 ビシューの宿はもと来た道を戻り、少し過ぎた辺りの道に面したところにある、少し古めの三階建ての宿屋だった。一階に受付と小さな食堂があり、上が宿泊部屋になっているみたいだった。二人が宿の入り口で立ち止まって、どうしようか模索していると、

「お嬢ちゃんたち、泊まりたいのかい?」

 受付にいたメガネをかけた老人が声をかけてくれた。二人は顔を見合わせてまずは香帆が「あのー、ビシューさん、いますか」と尋ね、受付の老人は「あの子にお客とは珍しいねぇ」といいながら部屋の場所を教えてくれた。どうやら一仕事終え、もう戻ってきているみたいだった。二人はお礼を言うと、教えられた三階まで、古ぼけてミシミシと鳴る階段を登り、一番奥にある三十三と書かれた数字の札が垂れ下がっている、これまたおもむきがありすぎる木造の扉の前まで行った。

「ここ、だよね?」

 ネイラは香帆がこくんと頷くのを見て、扉をノックした。扉の向こうから声が返ってきた。

「はい、何か?」

「あの!昼間お世話になったヤタの連れです」

 と返事をすると「あ!ちょっと待っててね」とだけ返事があり、ガチャン!とかバタン!とか何かを片付けるのか落としたような大きな音が聞こえ、しばらくして扉がゆっくりと開いた。

「お待たせ!待たせたね!さぁどうぞ。あれ、カホちゃんとネイラちゃん二人だけかい?」

「あの!その件でお話が…」

 瞳を赤く染め、涙の痕跡が残るネイラの様子に、笑顔を真顔に変えたビシューは、何かがあったのだと察し、二人の後ろを横目で確認すると小声で「早く入って」と促した。二人を部屋へ招き入れ、ソファーに座らせると「ちょっと待っててね」と言い残し、部屋から出ていき、すぐ戻ってきた。

「一応、受付に二人が来たことは言わないように、口止めしてきた。で、何があったんだい?ヤタは?」

 ビシューはソファーと対面になっているベッドに腰掛け尋ねた。ネイラは目を潤ませはじめたがグッとこらえ、今さっきあったばかりの出来事を、香帆の手助けを借りながら語り始めた。ビシューはネイラが語るのを黙って聞きながら、徐々に顔を青ざめさせていった。全てを聞き終えると、はぁーっと深いため息を吐きながら、ベッドに座ったまま後ろにぼてっと倒れこんだ。

 沈黙が部屋へ訪れた。ビシューは天井を見つめ動かず、ネイラと香帆は、そんなビシューを見つめていた。香帆は思い切ってベッドに寝転がるビシューに切り出した。

「あの!私たち…」

「ダメだよ。連れていかれたなら助けになんていけない。行っちゃダメだ。ヤタの気持ちを無駄にする気かい?それにあそこは鉄壁な城だ。出入り口には常に見張りがいるし、窓は全部鉄格子になってる。忍び込もうにも難易度が高すぎる…無理だよ……はぁ…まさかあいつが昼間に街にいるなんて…いつもはいないんだ…昼間にいても買い物目当てで店に着くまで馬車を降りない…いったいなぜ…」

「殴りあいのケンカが近くでありました。それで道が塞がってて」

「なるほどね。そういうことか。ハーバートはそういうの、近くで見たがるんだ…それで降りたのか…ちくしょう…こんなことなら、あの時港で引き留めときゃよかった」

「私もカホも、何もできなくて…ただ見てることしか、出来なかった…」

ビシューはガバッと起き上がると、二人を交互に見つめ、

「それでいい。もし反応して連れだとバレていたら、きっと殺されるか、売られるかしていたさ。あいつは女なんて興味ないからな。だからヤタの言う通り、ここは逃げろ。申し訳ないが、それもあいつの為に出来ることの一つだ」

「そんな…何か方法は…?」

「ないね、あれば僕だって助けたいさ。昔はしてやれなかった…あいつはずっと闇にいたんだ。やっと抜け出せたのに、あんまりだ。僕は見に行ってないから知らないけど、用事で何度か訪れたやつは、あの屋敷は異様だって言ってた。中は絶対入れてくれないし、入口は見張りが常に二人。窓は三階以外は全て格子、静かすぎるし、崖の上に建っているのも不気味だしな。三階からなら乗り込めるかもだけど、あの垂直の壁は流石に羽でも生えてない限り登れないよ」

 再び沈黙が走った。窓の外は気が付くと真っ暗になっていた。部屋の明かりはいつの間にか灯されているのに、真っ暗な外と同じように重く暗かった。

「もう夜も遅い。明日は非番で休みだから、また明日話そう。泊まるところはある?」

「なにも、決めてない。夜までにこの街を出るつもりだったし…でもまた明日来ます。ネイラ、行こう」

 まだ意気消沈して、下を向き、黙りこくっているネイラの背中を撫で、頷くのを待ってから二人は立ち上がった。

「待って。こんなに暗い中、女の子二人を放り出す訳にはいかないよ。隣の部屋が空いてるだろうから聞いてきてあげる」

「え、でも…そんなにお金持ってなくて」

「大丈夫、三階は僕たちみたいな船乗りが使ってるから格安なんだ。それに三階だしね。ちょっと汚いかもしれないけど、それでも大丈夫かな?」

「いえ、それで充分です。野宿しようと思ってたから屋根があるだけで」

 じゃあ聞いてくるよと部屋を出ていったビシューを見送り、程なく戻ってきたビシューの口から、無料でいいってさ。という言葉を聞いたときは、ビックリしてずっと下を向いていたネイラさえ顔を上げた。『こんなむさ苦しい宿に女の子が泊まってくれるだけでも大歓迎だ!』と受付のおじいさんが言ってくれたらしかった。


 翌朝、眠りから目覚めたネイラは、目が泣きすぎて腫れ上がっており、必死でその腫れを取ろうと、水でパシャパシャしまくったり、目の回りをゴリゴリしていた。少しだけ腫れは収まったが少しだけだった。香帆はネイラが回復したのを見て安堵したが、ヤタがいない現実に、どうしたものかと首をひねっていた。物語の主役の一人が欠けたことに不安でいっぱいだった。読んでいるはずの本の中でこうして過ごしてきたが、果たして自分はどうするべきなのか、どの立ち位置なのか、どこまで手を出していいのか昨晩から悩んでいた。一度ネイラの身代わりに捕まった時点で介入していたので、もしかしたら流れを変えてしまったかもとも考えたが、終わったことは仕方ない。これからだ。と気を取り直した。

 二人は身支度を整えると、ビシューの部屋を訪れた。ノックをすると眠そうな彼が出てきた。泣いていたのか、お酒の飲みすぎなのか、彼の目も少し腫れていた。

「やぁおはよう。二人とも早いんだね。朝食は食べた?」

「はい。持っていたフルーツを少しだけ」

「そっか、僕はまだなんだ、ちょっと下で食べてくるから入って待っててよ」

 なんだか、この宿に来てから待たされることばかりだなと思いつつ、二人は食事を終えて戻ってくるのを、彼の部屋のソファーに座って待った。明るい時間に見る彼の部屋は物で溢れ返っている状態をとてもよく写し出していた。停泊中はずっと借りているらしいので、こんなになるのだろうか…二人が来たときに聞こえた、ガチャンとかバタンとかいう音は、中央にあった物を、無理やり動かし、部屋の隅に推しやるときに出た音だということもわかった。

「ねぇカホ、昨日ね、三階なら窓に格子も何もないって言ってたでしょ?」

「え?うん。でもそこまでは高すぎて届かないってのが悔しいよね…羽なんて生えてないし…」

「その…ことなんだけど、羽があったらいけるのかな…もし羽があって、窓から入れたとしたら、そのあとどうやって探し出して助けれると思う?」

「う~ん…中に入ったことがないと難しいとは思う。せめてどの辺りに捕らわれてるかさえ分かれば、助け出しやすいとは思うけど、そんなことを知ってる人はいないだろうし、そもそも翼なんて生えてないしねー」

「あるよ」

「え?」

「翼はある。妖精族はね、翼があるの。今はおまじないをかけて隠してるんだけど」

 そう言うとネイラは立ち上がり、謎の呪文を唱え始めた。

 

 我らかの地を今世こんせより守護するもの

 汝、これを糧とし、我のの纏いほど

 我はエアリーのじゅう、フィルが娘ネイラなり


 唱え終わると同時に背に半透明な翼が二枚現れた。翼は鳥のような感じとは違い、楕円のプラスチックのようにすべらかで、オーロラのように輝いていた。

「これが私の本当の姿。これなら窓から入れるでしょ」

「すごい…キレイ…これなら飛んでいける…けど、やっぱり危険よ。中がどうなってるか分からないもの」

「中が外から覗ければいいのに…透明になれればいいのに…」

「透明…あ!いやでも…」

「何かありそう?」

「ネイラたちの前に来る前に、少しだけ透明になってたときがあったんだけど、不意打ちだったし、どうやってなれるのか分からなくて…それが出来ればヤタの居場所も掴めるんだけど…」

「なにそれすごい!透明になれてたなんて!これならヤタを助けれるかも!カホ頑張って!頑張って思い出して!」

「う~ん…どーかなー出来るかなー…」

 ネイラは「カホなら出来るわ!思い出して!」と言いなが喜んでいるのか羽を上下にパタパタさせている。

「ネイラ、その前にその羽収めない?ビシューさんが帰ってくるかもしれないし」

「忘れてた」

 と言いながら、さっきと同じ言葉を少し変えたモノを唱えた。


 我らかの地を今世こんせより守護するもの

 汝、これを糧とし、我のの纏い囲え

 我はエアリーのじゅう、フィルが娘ネイラなり


 羽をまた見えないようにした。それから香帆は、本を開いて4Dのようになっていたあの時のことを思い出し、どうすればいいのかを考えた。目を開いていてはダメかなと思い直し、目をつぶって本を思い出して、それを開いて空を舞う感覚。あの時の感覚。しばらくやってみたがやはり出来なかった。目を開け、ネイラへ首をひねって、首を振り、ダメだったという仕草をした。そう簡単ではないよねと残念そうに隣に座った彼女をみて、情けなくなった。彼女は秘密の、それもバレれば捕まるかもしれないリスクを犯してまで行こうとしているのに、自分には何の力もなく、ただ見ていることしか出来ないなんてあんまりだ。どうしてここに来たのだろうと考えてしまった。そんな考えを巡らせている内に、食事へ行っていたビシューが帰ってきた。

「ごめん待たせたね。ちょっと、ついでに下にいたヤツらにいろいろ聞いてたんだ。お蔭で少しだけ情報を手に入れたよ」

 ビシューの手には一枚の紙切れが、二つに折りたたんだ状態で握られていた。彼はソファーに座っている二人に向けてそのままその紙を差し出した。疑問に思いながら開いてみると、どうやらそれは何かの設計図のようだった。

「これは?」

「アイツの…ヤタをさらっていったヤツの屋敷の設計図だ。ここの食堂の常連に顔見知りの大工がいたんで、もしかしたらと思って聞いてみたんだ。そいつはこの街にきたばっかりで知らなかったが、そいつの横にいた大工仲間が前に改装に携わってたみたいで、頼み込んで設計図借りてきたんだ。見てもわかんないだろうけど、現実をちゃんと知って、ちゃんと諦めてくれ」

 どすん。と向かいのベッドに腰かけると、ため息をつきながら二人を真顔で直視した。二人は設計図を凝視していたが、線や数字、専門用語が書き連なっている図は、とても見にくかった。けれど無知な頭でも分かることもあった。三階は部屋が一部屋しかなく、広々としていて、間違いなくその館のあるじの部屋だった。二階から一階にかけては狭い部屋がいくつもあり、ワンフロアに十以上の小部屋に区切られていた。そのうち一階の半分、右奥辺りのスペースは少し広めで窯や、井戸っぽいマークがあったのできっと調理場だ。その向かいには中くらいの部屋が二つあり、鉄格子のある窓と、扉があった。ほぼ真ん中に位置する、出入り口の向かいには少し広めなスペース。ここの窓には格子マークが書かれていなかったので、応接間か何かだろう。そして廊下を抜け、二階へ繋がる階段の向こう、一番左奥の三部屋には窓が書かれていなかった。扉マークさえなく。謎の縦長の小部屋になっていた。直感でここだと二人は思った。

「一階の左奥…ここにいる…?」

「さすがネイラちゃん。僕もちらっと見たけど十中八九そこだな。部屋に窓がないなんて不自然だし、物置にしては扉がないのはおかしい。一階の格子のない部屋も気にかかるけど、まあ窓の向こうは断崖絶壁だし、そこがもしかしたら倉庫代わりなのかもしれない。見てわかると思うけど、出入り口は一階のここと、炊事場だと思われるここしかない。炊事場は女性が仕切っているけど、見張りももちろんいるし、室内と炊事場の行き来は出来ないようになってるらしいから、こっちは無理」

「どうして炊事場からは入れないんですか?こんなに広い穴が書いてあるのに」

「ここに格子マークが見えるかい?これはその穴を囲うように書いてある。それにそこで働いている知り合いがいてね、そこの出入り口もチェックが厳しくて、出来たご飯は格子前の棚に並べて置いて、向こうからカギが開けられて、配膳はそこの奴隷たちがやるんだそうだよ。腰布一枚で足枷があるから間違いないみたいだ」

「向こうから開けられるな、らそこから逃げられるじゃない。なんで彼らは逃げないのかしら。手が自由なら何でもできそうなのに…」

「ネイラちゃんの言うことも最もだけど、経験上それは無理だ」

「どうして?チャンスがあるのにそれを逃すなんてそん…」

「甘いよ。君も見ただろう?ヤタが連れていかれる時の彼を。抵抗は一切しなかったはずだ。それにほら、まだ僕も、傷は消えない。これが絶対服従の印なんだ」

ビシューの苦しそうな顔と、めくったシャツの下から、ヤタと同じような痛々しい、細長い傷がいくつも覗いていた。そこにヤタの硬直していた風景が重なった。それほど彼らは心身ともに服従させられたのだ。逃げてはいけないと。逃げられないと強く暗示をかけられ、その意欲さえも消え失せるほどに。

「分かったろ?一度中へ入ってしまえば、もう終わりなんだ。逃げる意志さえ、アイツに奪われる。だから君たちはヤタの為に生きなきゃならない。先へ進むんだ。その為に事実を伝えた、わかるね?」

 優しい声音でベッドから立ち上がると、香帆が持っていた設計図を優しくとって、今にも泣きそうなネイラの頭を優しくなでた。侵入が不可能だと悟った今、ネイラは何を思っているんだろうと顔を覗いてみたが、目が諦めていなかった。悔しいと、唇を噛み引き結んで俯いていても、ネイラの瞳はまだ死んではいなかった。

「ありがとう…ございました。部屋に戻ります…行こうカホ」

「え?うん。ビシューさんありがとうございました」

 さっさと部屋をあとにしようとしているネイラを、追いかけるように席を立ちお礼を言うと、二人はビシューの部屋を出て自室に戻った。

「見た?カホ!あの地図すごいよ!あんなに詳しく探れるなんて夢みたい!これなら助け出せるかもしれない!」

「ちょ!何言ってんの?さっきあれだけ説明されたじゃない。どこからも入れないって」

「行けるわ!私には翼があるもの!絶壁なんて余裕だわ!三階にあの気色の悪いやつがいるってだけでもわかってよかった!早速支度しましょ!早い方がいいわ!」

「待って!ネイラ!鎖は?枷はどうやって外すの?鍵がないと…」

「担いで運ぶわ。なんとかなるわよ!とりあえず行くだけ見に行ってみましょ?屋敷がどんなところにあるのか、明るいうちに把握しないと」

「見るだけよ?見つかっちゃわないようにひっそりとよ」

「分かってる。下見よ。下見するだけ」

歯止めの利かなそうなネイラを押し込めるのは無理と判断し、見に行くだけならと、出かける際にばったりと出くわしてしまったビシューには、街を見てくると嘘をつき、いそいそと屋敷の様子を見に出かけた。

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