一番幸運を感じた時

あなたが一番幸運を感じた時は、どんな時だろう。


私の話をしよう。


私は高校生くらいの頃に

「自分は運が良いと信じれば、運が良くなる」とどこかで読み、

運が良くなりたくて、実践してきた。

自分は運が良いと本気で信じた。

大学も運で合格したと思っていた。


たしかに私は幸運であり、今もそう思っているが、

見方によっては逆に運が悪そうだ。

例えば生まれた家は、あまり心休まる家ではなかった。

しかし、運が悪いとは思いたくなかったので、

運が良いんだと強く信じ込むことで現実逃避をしてきたともいえる。

それとも、運が良いと自分に言い聞かせることで、そこからは

運を掴んできたのだろうか?


最近は、以前ほど”運”にはこだわっていない。

なぜなら”レールが敷かれていた”と感じる時があるからだ。


例えば、今の恋人との出会いは”レールが敷かれていた”気がするのだ。

出会うべくして出会い、付き合うべくして付き合った気がするのだ。

全ての辛かった事、全ての楽しかった事、

全ての間違いも後悔も捨ててしまった選択肢も、

私を彼の元まで連れてきてくれたパズルのピースで

一つ欠けても付き合う事はなかったのだ。


これは”運”では片付けられない現象な気がし始めているのだ。


映画「スラムドッグミリオネア」のようだ。

ジャマールの人生に起きた出来事は、何一つ無駄ではなかったのだ。

一夜の奇跡ではなく、ただの幸運ではないのだ。

まぐれではなく、努力でもなく、そうなるべくしてそうなるのだ。


「運命なのかな」

昨年の夏、ふと恋人が言った。


私は”運命”という言葉の響きがドラマチックすぎて、

びっくりして何も言えなかった。

(せっかく良かれと思ってそう言ってくれただろうに、

まともな返事ができなくてとても後悔している)


その頃の私はまだ”運命”という言葉にアレルギーがあったのだが、

今は「そういう言葉もありじゃない?」って思う。


「絶対運命だよ!」

次は、恋人にそう伝えたい。


---


そんな私が単純に運が良かったと思う事ナンバーワン、

それは池袋で起きた。

(長年、一番救われたと思っていた出来事である)


出会い系サイトを使い始めて数ヶ月経った頃だろうか。

「気持ちよくない?それ、男が悪いよ」

「俺なら気持ちよくしてあげられるよ」

そんなよく見かけるメッセージ。

おまけ「外人に言われたけど、俺は黒人並みの巨根らしい(笑)」

少し興味を持ってしまった。

快楽を味わいたかったというよりも、私は悩みを解決したかった。


出会い系サイトを使い始めた理由は、

彼氏が欲しかったからだ。

”真実の愛”を探していた。

しかし、仲良くなると男はすぐ体の関係を持ちたがり、

関係を持つと、その仲は終わった。

何度か繰り返すうち、私はセックスが下手だから捨てられるのではないかと思い始めた。


そもそも、セックスは気持ちよくなくて、たいして感じなかった。

それなのに演技がうまくできず、男と気まずくなる事ばかりだった。

好きな人としか性的なことはしたくなかった。

でも、悩みを解決するきっかけにしたかったのと、

ここが私の欠点だと今は思うが・・・単純な好奇心から、

私はその日、池袋駅の北口にいた。


「えっ、あの人?

めっちゃダサい。

ただの疲れたオジサンじゃん!

モテるとかなんとかの話は・・・嘘?」


メールに書かれた服装から、めぼしい人を見つけたが、

想像と全然違う。

帰ろうかと悩みに悩んだが、結局、挨拶をしてホテルへ行った。

「本当にいいの?」

よく聞かれたことを、こいつも聞いてきてた気がする。

嫌だったけど、なぜか「いい」と言った。


ソファーでなぜかキスをした。

ディープキス。

その時に、口移しで何か錠剤のようなタブレットのような

口に押し込まれた。

「ミンティア?」みたいな呑気な事を思ったか。

よく覚えてないけど、深く考えてなかった気がする。

飲み込んでしまった。


そして、ベッドに上がるよう言われた。

半裸の私と、下着姿の男。

指を入れられた。

「キツいね!これじゃあ若い男なら、全然我慢できないでしょ。」

とかなんとか言いながら、色々触られても、気持ち悪さしかない。

全然感じてないし、

感じてる演技もできない私を見て焦ったのか?

なんとなく男の様子が変になってきた。

自信がないような。

あれ?おかしいな?みたいな。

「?」

と思う私の好奇心はそれでも「黒人並みの巨根」を見てみたかったけど、

それはとても隠れてなさそうなパンツだった・・・気がする。

この汚い冴えない嘘付きオジサン(とは言っても当時3−40代だったと思うけど)のチンコ、入れられたくない・・・。

いよいよここに来たことを後悔し始めた私。

苦痛な時間が早く終わるよう、神に祈る気持ちだった。

その時、オジサンのケータイが鳴り始めた。

ベッドから降りて電話に出るオジサン。

何やら仕事の電話のようだ。

「分かった。今から行くから、俺が行くまで〇〇を〇〇して待ってて。」

オジサン仕事行くの!?心の中でびっくりする私。

「俺がいないとどうにもならないトラブルが起きた」とか言い、

服を着るオジサン。

そこからすごいスピードで、二人で部屋を後にした気がする・・・

部屋に入る時は手を繋いでた気がするけど、

出る時は繋いでなかったような。


「よく殺されなかったなー」

無用心に何人もの出会い系男と会っていた頃、よく思ってた言葉である。

失礼な事も沢山したから怒らせて衝動的に暴力振るわれる可能性も高かったわけだし、殺人鬼がいてもおかしくない。


この正体不明のオジサンとはその後二度と連絡を取っていないが、あの口移しされたは、なんだったのだろう。

オジサンは、なぜ何かに怯えていたようにも見えたのか。

本当に仕事の呼び出しはあったのか。

なぜあのタイミングだったのか。


結果、私は挿入をまぬがれた。

安堵した。

私は本当にラッキーだと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

窓の外は、雨 すみれ @mado_love

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ