はじめて死にたいと思った時

私は4歳だった。

右手に、幼稚園の名札の安全ピンを持ち、

左手首の内側に浮き出ている青い血管を

見つめていた。

涙を流していた。


ずっと、その時考えていた内容を覚えていた。

中学生の時”THE掲示板”だとかいうサイトでブログのような”随筆”というものを書いており、

そこに詳細に書いたのだ。

でも、あの日の私が何を考えていたのかは、もう思い出せない。

あんなに鮮明に覚えていた、

赤いすみれ組の名札も、青くて太い血管のことも、緑色のカーペットも、

薄暗い部屋も・・・。

今でも1枚の写真のような”景色”としての記憶はあるのだが、

その時の考えも感情もおぼろげだし、

その”景色”すら数年ぶりに思い出せば不鮮明になってきているようだ。


なんとなく、今の私が説明するとこうだ。


その日、私はまた親に怒られた。

母親だった気がする。

また妹のことで怒られた気がする。

妹を大切にしていないと。

怒られた私は、悲しくなり、小さな緑色のカーペットの部屋に入り、

ドアを閉めた。

電気も付けず、北向きの薄暗い部屋の中、床にへたっと座り込んだ私は、

安全ピンで左の手首の血管をほじくり出して切断すれば、

死ぬのかな、って考えてた・・・

ここから先は、正確には思い出せないが、

「死んだら楽になるのかな」

「私がいない方がみんな楽しく暮らしていけるんだろうな」

そんなことを考えていた気がする。


妹に対しては今日も、申し訳ないという気持ちでいっぱいだし、

このたくさんの日の目を見ない後悔の想いは一生持ち続けるのかもしれない。


妹は生まれてきたというだけで、全く何も悪くなく

彼女にとってはとばっちり以外の何物でもないのだが、

私の両親は妹を大変に可愛がった(ていたように私には見えた)ため、

私は事あるごとに妹に嫌がらせしたり辛く当たったりしていた。

例えば、誰も見ていないところで妹をつねったりした。


それは、今振り返れば”嫉妬”という現象だったのかもしれないが、

そんな言葉は当時の私の世界にはなかった。

また、うらやましいとか、憎らしいとか、そういう感情を抱いていたのかは

思い出せない。


とにかく私は、無価値で愛されない自分が大嫌いだった。


父親は、頻繁に4歳年下の私と妹を比べ、私をけなした。

私が面白くなくて、不機嫌になったり、妹に嫌がらせをすると、

激しく怒られた。

大きな声で怒鳴られ、叩かれ、殴られた。

ゴミ捨て場に捨てるぞ、と脅された。

家の外に追い出された。

物を投げつけられた。


母親が私を庇ってくれたという記憶は、ない。

1回「もうやめて」と父親と私の間に神妙な面持ちで割って入ってくれた事があった・・・気もする。

いや、そんなこと本当にあったのだろうか。

記憶には不思議ともやがかかってしまったようだが、

覚えていることを書くとするならば

私は長年、私を父親から守ってくれなかった母親を恨んでいた。


今はそんなこと、もうどうでもいいことだ。

だから、忘れたのかもしれない。

彼女は私を基本的には全く守らなかった。

「お母さんは、なんで私を守ってくれないの?」

何度も思った。でも、もう過ぎ去ったことなので、いいのだ。

なんで?

なんで?

なんで?

なんで守ってくれなかったのだろう。

彼女も、私の父親から暴力を受けていたし、単純に反論することが怖かったのかもしれない。

しかし、記憶はおぼろげだが、当時の、そしてその後、長きに渡って私の見方は異なっていた。

「私が悪いから」

私が悪いから、父親は私に暴力を振るう。

私が悪いのだから、それは正義なのだ。


---


今朝、料理をしていたら不注意で指を怪我してしまった。

アボカドの種を取ろうとして、少し勢いを付けて大きな種に包丁を刺そうとしたら、

そのままガッと左の親指に刺してしまった。

痛かった。

痛くて思わず左手のアボカドも、右手の包丁もシンクに投げ出した。(包丁を足元に落としたりしなくて良かったのだが)

なんとも言えない痛みだった。

なんとも言えない(刺した時の)感触だった。

そこそこ出血したが、

洗った後は、そんなに痛みはないし

傷は深くなさそうだ。


それはそれで良いのだが、

変な事を考えてしまうから困る。


「自傷行為ってこんな痛みなのかなぁ〜?」

「ナイフで刺すってこんな感じか?」

「さくっといったな」


まぁでも私の今日の心境は、こうだ。


「こんなに痛いの無理」

「私には自殺なんてできないなぁ」

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