きっかけ

明日は雨が降るらしい。

外では何故か男の怒鳴り声、うめき声、叫び声が聞こえる。

怖い。

人の怒鳴り声は特に苦手だ。

体が固まって、動けなくなってしまう・・・気がする。

不安な気持ちになりつつ、

通報するべきなのか悩むが、

戸締りだけ確認し、

何もしない自分がいる。


事件なのか。

家庭内暴力なのか。

精神疾患なのだろうか。


事件に関してはニュースや小説で聞き、想像するくらいだが、

家庭内暴力と精神疾患は私の人生に身近に存在していた。


人の怒鳴り声を聞くということは、一つのきっかけとなり、

嫌でも私を、無力だった少女時代に引き戻す。

私の一部は、今もその瞬間に囚われているかのようだ。

今でもリアルに感じる心身の痛みは、

私にとっては物理的な存在であり、

そう、私の胸は今この瞬間痛むのだ。


「被害者意識が強すぎる」

「非生産的な考えだ。考えてもどうにもならない」

「過去は変えられない」

「前に進め」

「思い出すだけ無駄だ・・・」


こんな考えも浮かんでくる。

どうしたらこの記憶を乗り越えることができるのだろう。

(そもそも、乗り越える必要はあるのだろうか?)

私はまだ囚われているのか、と悲しくなる。


トラウマ、

この言葉は好きではないが、

使うのであれば、

私は今でも過去のトラウマに囚われており、

繰り返し浮かんでくるその記憶と感情により

日常生活に支障をきたすことが度々あり、

どう対処したらいいのか分からずに困っている。

フラッシュバック、

私の心の中ではわりと使われる言葉だ。

私は、フラッシュバックに悩んでいるのだ。

今は幸せだ。

今日の私は幸せである。

しかし、フラッシュバックに苦しむのだ。

フラッシュバックは、私の今という時間を蝕む。


「悩むことが好きな人っているよね」


こんなセリフを小説か何かのキャラクターが言っていた気がする。

私も、苦しみたいだけなのだろうか。

何度も何度もその苦痛を反芻し、

それがなんになるというのか。

自己憐憫に浸って、現実逃避しているだけなのかもしれない。

自分が可哀想だと思う。

私、悲しかった。

この苦しみを、誰かに分かって欲しい。

心の中で、自分の想いが反響する。


いつになったら自由になれるのか。

許すのか。

忘れるのか。


過去は、成仏させたいものである。


私に取り憑き、私を疲弊させている

私の人生の足かせは他でもない私自身の蓄積された叫び声である。

どうやって、何に昇華させよう。

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