死が軽い世界
千木束 文万
死が軽い世界
「
――――――
この世界には嫌なことがいっぱいだ。もうそんな目に合いたくない。だから死んでみる。
死んだらあらゆる苦痛から解放されると聞きつけたので死んでみます。
友人に「ちょっと死ね」と言われたので、ちょっと死んでみる。
賭けが好きで、自分は生きてても死んでても別にどっちでも良いから、コインを投げて表が出たら死ぬ、裏が出たら生きるというゲームをした。それで表が出たから。
死は人生で経験したことのない体験だ。どんな感じなのだろうか。気になってしかたがない! 死のう!
人は結局最後には死ぬのだから、生きている間になにをやっても無意味だ。死んだら自分が今までにやり遂げたことも想起できなくなるし、長生きしても結局最後には無に帰すのだから、生きている意味がない。ちょっくら死んでみよう。
人間は死ぬ瞬間にとても気持ちよくなれるらしい。人生で最も気持ちの良い瞬間を味わってみたい。
この前小指をタンスに思いっきりぶつけて骨折した。しかし全く痛みが引かない。死ねば痛覚は無くなるので痛くなくなるはずだ。死のう。
生きていたいのと死にたいをポイント付けして、若干死にたいのスコアが高かったので死にます。
この前うっかり道ばたにいる蝉を踏んでしまった。自分は動物を殺してしまったので死んで当然だ。償いとして自分も死ぬ。これで蝉が報われれば本望だ。
生きるのに飽きてしまった。最近周りの事物に対して楽しいという感情を抱けない。これでは生きている意味がない。死のう。
今まで掲げていた人生の目標を達成してしまった。どうしよう。もうやりたいことがない。もう自分の役目は終わった。あとは死ぬだけだな。
人生において何を目指せば良いのか全くわからない。なにが終着点なのか。ずっと考えているが解がでない。これはもう諦めて死ぬしかない。あとは未来人に託す。
生きるのが怖い。周りと話すのが怖い。認識できる全ての事象が怖い。自分さえ怖い。この恐怖から逃れる方法は、死のみだ。
私は死後に天国が待っていることを知っている。私は今まで善行を積みに積んできた。私が天国に行けることは確定事項なのである。もう現世に未練はない。あとは天国で暮らそう。
私は市長だ。先日の記者会見にてマスコミの記者に言われたことがある。「お前が死ねばこの市には平和が訪れる!」ということだ。ならば喜んで死のう。市長として最大限の誇りをもって、この先の未来のためにこの身を捧げる。
お母さんに死ぬ気で勉強しろと言われたので、死ぬ気で勉強して死ぬ。
動くのが面倒くさい。正直一日たりとも動きたくない。死ねば動く必要はないだろうか。死んでみるか。
俺は友人と一週間後に死ぬ約束をした。今日がその一週間後だ。俺は約束を守る男だ。
――――――
「ただいま、インタビューが終わりました。皆さんそれぞれ違う理由で死のうとされていて、大変興味深かったですね。
では私も、そろそろ声も出し辛くなってきておりまして、人生の潮時のようなので死にたいと思います。現場からは以上です」
死が軽い世界 千木束 文万 @amaju
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